7月17日、デジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパスにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(二十六)」と題したトークセッションが行われた。コラムニストの黒川文雄氏が主宰、エンターテインメントの原点を見つめなおし、ポジティブに未来を考える会となっている。
今回は「バーチャルリアリティの未来へ 2」と題し、第21回に引き続いてバーチャルリアリティ(VR)デバイスの発展によるコンテンツの未来や可能性について語られた。登壇したのはPS4用VRシステム「Project Morpheus」の中心人物であるソニー・コンピュータエンタテインメント (SCE)ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏、江戸古典奇術「手妻(てづま)」の継承者として活動する傍ら、VRコンテンツの制作も行っている藤山晃太郎氏、VR情報を扱う「MoguraVR」編集長の久保田瞬氏、VRコンテンツの開発にも使われているゲームエンジン「Unreal Engine4」を扱うエピック・ゲームズ・ジャパン・デベロッパー・サポート・マネージャーの下田純也氏の4人。
冒頭では、藤山氏がVRコンテンツ制作を始めたきっかけから触れられた。代表的なコンテンツとして乗馬マシンを活用した乗馬体験コンテンツの「Hashilus」や、ブランコでジェットコースターを体験できる「Urban Coaster」などを制作している。
藤山氏はOculus Riftを体験して高い魅力を感じ、何らかの形で携わりたいと思ったという。一方で開発技術を習得していなかったことから、コンテンツ案を開発者に共有したところ制作者が現れ形になったという。そんな藤山氏から見た日本のVR界わいは、先端を行きすぎて技術の高い人たちが集まっている状況で、そのなかに演出にたけた人間が加わればコンテンツの魅力を増すことができるかもしれないと語った。特に手妻師として観客を前に舞台に立っている経験上、退屈しているという反応には敏感でもあり、そうならないようにマイナスに感じるポイントに気付きやすく、改善点も見いだしやすいという。
こと藤山氏は、仮想現実の世界は現実をお手本にして近づけるアプローチをとってしまいがちだが、「人間がどこに現実らしさを感じるかを見極めて、それをデフォルメして現実を超えた体験や演出を目標にしている」という。久保田氏によれば、藤山氏のような器具を活用したアトラクションタイプのVRコンテンツは、海外でもほとんど例がないとのこと。Oculusの創業者であるパルマー・ラッキー氏も絶賛していたという。
ちなみにパルマー氏は、E3 2015で出展していた日本のVRコンテンツについて、開発コミュニティに突如として感想を投稿したという。久保田氏によれば、Project Morpheus向けのコンテンツ「サマーレッスン」はストーリーやプロットがシンプルだったこと、同じく「SEGA feat. HATSUNE MIKU Project: VR Tech DEMO」については、すでに初音ミクを活用したVRコンテンツが多様に作られている背景から目新しさがあまりないと、厳しめの意見だった。もっともパルマー氏が日本の開発コミュニティに、しかも翻訳ソフトを使ったと思われる日本語訳を付けて投稿したとのことで、日本のコンテンツに期待していることの現れと感じているという。
黒川氏は、吉田氏があるインタビューのなかで、日本のVRは先端を行っていたものの、現状は欧米に差を付けられていると語ったことを紹介。吉田氏は、海外のベンチャーキャピタルからお金が投資されている状態であり、この1年で海外のインディーズが作るVRコンテンツの質が上がっているという。もっとも「お金になるのが見えてきたら投資家が投資するのは、モバイルゲームなどでも同じようにあったこと」とし、VRに限ったことではないとした。
久保田氏は海外の事例のひとつとして、サンフランシスコに拠点を置くベンチャーキャピタルが1000万円程度の金額を3カ月間、10個ほどのプロジェクトに投資を行うという取り組みが行われていると紹介。視線追跡型VRヘッドマウントディスプレイ「FOVE」もこの取り組みに入っているという。日本でも、日本と韓国のベンチャーキャピタルから、VRデバイスを活用して英会話教育の促進を目的とした投資も受けている事例はあるのものの、資金繰りの面では米国に拠点を持った方がやりやすいという話を多く聞くと語った。加えて、下田氏はUnreal Engine4で開発を行うゲームに対して、最大5万ドルの資金援助を行う「Grants」というプロジェクトを紹介。「日本からKickstarterに出すことが難しいのであれば、こちらに応募するのもひとつの手です」と呼びかけを行った。
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