ビジネスアナリティクスのソリューションを手掛ける米SAS Instituteは、1985年の日本における事業開始から30年を迎え、来年には米国本社が創業40周年を迎える。近年、マーケティングや開発・生産の領域ではビッグデータの解析を活用したデータドリブンによる事業推進に関心が高まっているが、こうしたデータ重視の戦略が高まる遥か以前からデータアナリティクスの領域で業界をリードしてきたSASは、ここ数年の業界の動きをどう捉えているのだろうか。来日した、SAS Instituteの副社長でCMOを務めるJim Davis氏に聞いた。
--まず、来年創立40周年を迎えるにあたって、率直な感想をお聞かせください。
Jim Davis氏:これまで借り入れもなく、売上も利益も毎年成長しており、さまざまなソリューションを展開しながら大変よい実績を積み重ねてこれました。このような実績をあげられたソフトウェア企業というのは他にはないと思います。そして現在も、「アナリティクス」というのが、IT市場においてもっともホットなソフトウェアであるということを大変うれしく思っております。
現在、アドバンスドアナリティクスの領域において、私たちは33%のマーケットシェア(IDC調べ)を誇っています。そして、次に大きな企業というのがIBMで、16%程度のシェアなのですが、この2対1のアドバンテージというのはずっと維持しており、おそらくこれからも維持できるだろうと考えています。
--SASは創業当時アナリティクスから始めて、今ではマーケティングソリューションの会社に成長してきました。この間、さまざまな節目があったと思います。
Jim Davis氏:これまで私たちはいろいろな進化を遂げてきて、今が「3段階目の進化」にあると考えています。1976年から1995年頃の最初のフェーズは、いわゆる製品を提供している時代。データやアクセスの製品やアナリティクス、そしてレポーティングやスクリーンという形でプレゼンテーションの機能を提供していました。そしてフェーズ2では、業界に対していわゆる水平型のソリューションを開発しました。たとえばCRMやフィナンシャルマネジメントといったソリューションで、IT組織が企業の業績をモニタリングできるソリューションです。
そして2000年頃から現在まで続くフェーズ3では、価値をベースとしたソリューションを業界に特化した形で展開しています。たとえば、金融サービスであれば不正の検知であったり、クレジットカードであれば次のベストオファーは何かといったものを提案したりします。製薬業界であれば治験関係、政府系であれば不正検知といったような特定の業界に特化した形でのソリューションを提供しているのです。そして今、SASでは200の異なる業界に特化したソリューションがあります。
--Davis氏は講演などで「ザ・ニュー・アナリティクス・エクスペリエンス」というキーワードを掲げています。その意味するところを教えてください。
Jim Davis氏:最近の企業は、よりデータに依存し、データを活用して意思を決定していこうという動きになっていますが、そのデータの量は増え、より複雑になっています。そして、組織の中のカルチャーも、この事実=データをベースとした意思決定ということにコミットし始めてます。その結果、ビジネスのアプローチも変わってきてますし、必要となるプロセスやインフラというのも変わってきています。これは、ビジネスにおいてアナリティクスを中心にしたまったく新しいエクスペリエンスが生まれてきていることを意味します。
加えて、データのサイズが大きくなっているだけではなく、IoT(Internet of Things)が企業にとって新しい機会を生み出します。企業としては、データをどのように獲得するかを考えなくてはならないですし、市場の中でそのデータを活用して、いかに競合に対してアドバンテージを生み出すかも考えていく必要があるのです。もちろん、こうしたビジネス環境の変化に対してSASが貢献できる点はたくさんあると思っています。
--「IoT」というキーワードは日本でもホットです。このIoT時代という潮流をどのように見てますか。
Jim Davis氏:IoT=ネットにつながったオブジェクトは、企業の事業にとって非常に重要になりました。つながったオブジェクト数は、2020年までに世界で500億に上るだろうという予測がありますが、このオブジェクト間で行き来しているデータは、企業にとって価値をもたらすでしょう。
たとえば、オイルのプラットフォームから得られるデータや、運用中の飛行機から得られるデータ、あるいはコネクテッドカーから得られるデータなどがあります。蓄積されるデータは膨大な量にはなるのですが、ビジネスそのものの将来を予測するという意味でも、大きな価値を得られる可能性があります。
そしてIoTは、テクノロジーの観点からみても、新しい課題を提供することになります。単なるボリュームの多さだけではなく、データの動きというのがこれまでにないほどの速さになっているからです。そこで生まれる課題は、いかにして効果的にデータを補足して、そしてどのようなアナリティクスを提供すれば、将来を予測できるかということになります。企業にとってデータというのは戦略的な資産になってきており、人材、顧客、そして生産している製品と同じぐらい重要な存在になってきているのです。
--「データは資産」という捉え方を企業がすべきだというのは同意できます。ただ、企業は実際にそのような意識を持っていますか?
Jim Davis氏:考え始めていると思います。ただ、金融業界や製造業界は確実に考えていると思いますが、業界ごとの成熟度によっていろいろなレベルはあると思います。アナリティクスやデータというものを本当に活用しようとした場合には、単にテクノロジだけではなく、組織の姿勢やカルチャーといった要素も、データを資産ととらえる上では必要になってくるでしょう。
まず、社員一人ひとりがファクトベースの意思決定を行なうことに対して、企業がコミットメントする必要があります。これは、データを扱えるだけのスキルがあるか、それを扱えるだけのプロセスがあるか、そしてそのコンテンツを理解できているかということにつながります。また、ビジネスのやり方を変えられるカルチャーがしっかり整っているかも重要でしょう。単に企業がテクノロジーだけを導入して、人材やプロセス、そしてカルチャーという部分を無視してしまうと、失敗するのです。
--「ビジネスのやり方を変えられるカルチャー」とは簡単そうでなかなか……。
Jim Davis氏:まず世の中の変化に対応できるオープンな姿勢が重要だと思います。世の中は変化するものだということを認識し、そしてデータを活用すれば将来(の変化)を予測できることを認識する必要があります。従来型の組織がこういった検討をしないと、おそらくトラブルに陥ってしまうでしょう。世の中の変化を単純にレポーティングで知るだけではなく、データによって顧客や製品、そして企業の将来が予測できるようになることを理解する必要があります。そして、エグゼクティブがそれを理解すると、アナリティクスの必要性も高まると思います。
つまり、企業は自分の姿を鏡の中で投影してみて、(自分たちが世の中の変化に対応できる組織かを)自分で評価していく必要があるのです。
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