--これまでマーケティングでは、蓄積された「過去のデータ」を単純に可視化したり、分析したりというところに留まってきましたが、IoT時代における今後のマーケティングは、「未来を予測する」という方向に進むと思います。これまで以上に、「リアルタイム」「高速化」「自動化」「機械学習」が重要になってくると思いますが、SASはどのようなアプローチを考えていますか。
Jim Davis氏:SASでは将来を予測するマーケティングは既に実践していて、IoTを活用した予測型アナリティクスの事例は100例以上そろっています。たとえば、米国のある大手デパートチェーンでは、来店客が店内のどこにいるかに応じて、その人に適したオファーを提供しています。具体的には、iBeaconを使うことによって来店客の現在位置を把握して、それに対してアナリティクスのモデルを適用することによって、現在位置に応じて最適なオファーが提供でます。
また別の例では、欧州の大手通信事業者のマーケティング活動を最適化しています。マーケティング活動の予算には限りがあり、その予算の使い道にはメール配信を活用したキャンペーン、郵便物(ダイレクトメール)を使ったアプローチ、電話での営業活動などさまざまなアプローチがあります。そこで、それぞれのマーケティングのやり方に応じてアプローチする顧客をセグメント化して、予算の枠組みに対して結果=売り上げが最大化できるマーケティングの組み合わせを構築しています。
--SASでは、さまざまなテクノロジーの中でも「パターン認識」の取り組みにも注力していますね。
Jim Davis氏:パターン認識は、たとえばソーシャルメディアで生まれる非構造化データを把握する際に使われるメソッドのひとつです。ソーシャルメディアの投稿を見て個人の嗜好性を分析するとともに、これまで蓄積してきたデータを元にした機会学習を活用して、分析の正確さを生み出していきます。そうすることによって、個人のパーソナリティを確実に捉えられるのです。その領域においては、私たちはパイオニアであり、これらの技術を活用することで予測の精度は確実に上がっていくと考えています。
大変重要なポイントは、アナリティクスというのは定義がひとつで縛られるものではないということです。アナリティクスには、統計分析、フォーキャスティング・アナリティクス、プレディクティブ・アナリティクス、オプティマイゼーションなどさまざまなものがあり、目的に応じてどのようなメソッドが有効かを考えていく必要があると考えています。
--お聞きした話を踏まえると、アナリティクスはテクノロジ分野からどんどんサイエンスの分野に移行している気がします。日本でも近年はデータサイエンティストへの関心が高まっていますが、このデータサイエンティストの役割や重要性について、どのように考えていますか。
Jim Davis氏:データサイエンティストというのは本当に必要不可欠な人材になってきていますが、世界的に見てもその人材はまったく足りていない状況です。データサイエンティストは、組織がデータを用いて何ができるのかを理解する上で重要な役割を果たし、各事業部の目標とデータを所有している人との間の橋渡しをする役割を果たすのです。
データサイエンティストが足りないという状況は、私たちの事業で一番急成長しているクラウドコンピューティングの領域にもよく見て取れます。アナリティクスの専門知識がないということから、SASのクラウドコンピューティングを求める企業が増えてきており、昨年のSASのクラウド事業は対前年比124パーセントの成長を遂げているのです。これは特にSASのアナリティクスのノウハウが貢献しているものと考えています。
ちなみにSASではこの数年間、米国だけではなく、アジア、欧州の大学と連携してプログラム(カリキュラム)を作り、データサイエンティストを輩出できるような修士号のプログラムを展開しています。そして、新卒でこの修士号を持っている人たちの給与というのは、MBA所有者よりも高くなっているのです。
--「データサイエンティスト」の定義は人によって大きく異なることもあります。
Jim Davis氏:私の定義は、単に「アナリティクスの博士号を持っている人」ということではなく、「いくつかの重要な領域において、深い理解を持っている人」ということです。「重要な領域」というのは、コンピュータサイエンスとアドバンスド・アナリティクスについて理解があるということです。そして、何よりも不可欠なのは高いコミュニケーションスキルを持っていることだと考えています。ビジネスの現場におけるニーズを把握して、それをデータの所有者に対してしっかりと伝えられるスキルが不可欠なのです。
--このようなスキルを備えたデータサイエンティストをどのように育てていくべきなのでしょうか。日本ではなかなか難しい気がします。
Jim Davis氏:日本の企業と話をすると、このデータサイエンティストに対するニーズは強く感じています。その中で、SASに何ができるかというと、企業に対するデータサイエンティスト育成のカリキュラムを提供することではないでしょうか。(育成のために使用する)「SAS Analytics U」などのソフトウェアを無償あるいは安価で提供することも可能です。さらに、SASのスタッフが企業に出向いて人材トレーニングをすることも可能です。ただし、改めて重要なのは、企業がファクトベースの意思決定に対してしっかりとコミットしていくことです。そのコミットメントがないと、データを活用した事業推進の成功は難しいかと思います。
こういったファクトベースの意思決定に対するコミットメントは、すでに日本のさまざまな業界で存在しているでしょう。SASは日本に進出してから30周年になりますが、これまでの銀行業界、通信業界、そして自動車業界などとの取り組みを振り返ると、すでに彼らはデータを使ってこのファクトベースの意思決定をしています。そして日々データとアナリティクスを活用しています。
--これまでの話をまとめると、膨大な量のデータが世の中に生まれる時代の中で、そのデータを企業の資産として捉えられるかが重要になってくると思います。このような時代において企業のマーケティング施策に求められるポイントは何でしょう。
Jim Davis氏:2つ側面があると思います。ひとつは、この時代の変化はマーケティングのサイエンスをさらに強化するすばらしいチャンスであることです。そしてもうひとつは、マーケターはデータアナリティクスを不適切に使わないように気をつけることです。不適切な形で顧客を特定してはいけません。
後者について最悪の事態として考えられるのは、顧客がまったく興味のないオファーを企業から受け取ってしまうと、そのブランドに対してかなりネガティブな印象を与えてしまう可能性があるのです。企業は、集積した顧客に関するデータをどうやって扱うべきかを慎重に判断し、そして適切に活用していくことが重要なのです。消費者というのは大変賢くなっています。データを正しく使わないと、潜在的にブランドに対する評価を損なう大きなリスクを発生させてしまいます。
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