Helman-Changの大きな顧客は巨大なプロジェクトを手掛ける法人であり、シアトルのレストランのバーテーブルを作成したり、サンディエゴのVIPプールラウンジのカクテルテーブルをつくったり、サザビーズのCEOのニューヨーク事務所のテーブルをつくったりしている。また個人の顧客を見ても、ビジネスエリートや著名人など、いわゆる富裕層がメインとなっているようだ。
手作業にこだわってつくられた家具は、高価格設定となっている。たとえば独特の曲線と細かな結晶がきらきら光る内側部が印象的な「Crystal Edition Omni Side Table」は、ある記事の情報によるとベース価格で1万2000ドル(約146万円)するのだという。
なお、Helman-Changのサイトには注文可能なテーブルやデスク類などが並んでいるが、どの製品にも価格やどのぐらい待てば商品を受け取れるかなどの情報は表示されておらず、まずは「request a quote」のページにて見積もり依頼を出す必要がある。
見積もり依頼では仕上げの素材やトップコート、サイズなど簡単な情報を指定するほか、使用要件や設計などカスタマイズしてほしい項目を自由に入力できる。顧客の多くは一点物の作品を求めており、細かな条件に対応することを前提としているために、あえて価格を表示していないのだろう。
Helman-Changは、受賞で注目を受けたこと、その後も順調に注文を受けてきたことから、ほとんど宣伝をしないで成長してきたという。しかし、家具の契約を継続して取り付けるため、2013年に最初の広告キャンペーンを実施することになった。
これは高級ファッションブランド「Canali」と提携して実施したもので、世界で最も人気があると言われるインテリアデザイン雑誌の「Elle Decor」や、米国週刊誌の「New York Magazine」に掲載された。当時の舞台裏を撮影した動画や紹介記事などを見ると、Helman-Changの2人がCanaliのスーツを着て家具を製造する、という内容のものだったらしい。
動画だけを見てみると、Canali側から見ればスーツが宣伝されているが、Helman-Chang側は、2人がスーツを着て現場で作業をしている様子だけで、製品そのものは出てこない。これは自分たちが追求しているもの、職人の技術や材質、ブルックリンのスタジオなど、「ブランドが象徴しているものが何か」という点を伝えたかったためだという。
片方は自分たちの作業現場を見せることでブランディングをアピールし、片方は製品そのものの機能性をアピールできる、両者のような有名ブランドのみならず、まだ名前を挙げていないECサイトにとっても参考になりそうな事例だ。
Helman-Changはその実績や受賞歴が示すように大きな評価を受けてきたが、チャン氏は自分たちのデザイナーとしての実力は決して突出したものではないと話す。
「家具業界においては、学校でデザインの勉強もしてきていない僕たちより、圧倒的に有能なデザイナーはたくさんいるのは確かなんだ。そんな競争のある業界で抜きん出るためには、製品だけではなくブランド全体を考える視点が重要だと思っているよ。僕たちは最初からそれを意識し続けていたんだ」(チャン氏)。
自分たちでは到底及ばないと思えるほどの実力を持つ人、実績や経験を積んだ人や企業はいくらでもある。しかし、自分たちだからこそできることがなにかを考えれば、いくらでもアピールできる道はある。チャン氏の発言の意図は、そういうところにあるのだろう。
尼口 友厚
ネットコンシェルジェ
CEO
明治大学経営学部卒。米国留学からの帰国後、デザイナー/エンジニアとしての活動を経て、2002年に国内有数のウェブコンサ ルティング会社「キノトロープ」に入社。 2003年、同社関連会社としてネットコンシェルジェを設立。eコマースとブランディングを専門領域とし、100億規模の巨大ECサイトからスタートアッ プまで150を超えるクライアントを抱える。
2015年にベンチャーキャピタル2社より資金を調達し、キュレーションコマースプラットフォーム「#Cart」を開始。趣味はブラックミュージック鑑賞。著書に「なぜあなたのECサイトは価格で勝負するのか?」(日経BP)。
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