これまでは“今ここに在るもの”を起点としたものだが、“今ここにないもの”を具現化するものが3DホログラムやVRといったテクノロジだろう。3Dホログラムは、2次元の存在や、既に亡くなったアーティストのように、実体のない存在を3D映像として浮かび上がらせることを可能にする。例えば、初音ミクのほか、2PacやMichael Jacksonなどの事例がある。“今ここにはない”ものが具現化されることは体験の価値を一層高める。
特に3Dホログラムはライブパフォーマンスとの相性が良いため、このテクノロジを用いた専用の劇場を設ける流れがあるようだ。初音ミクのライブをプロデュースした企業による専門劇場が横浜に、また東方神起などが所属するSMエンタテイメントによる専用の劇場「SMTOWN THEATRE」がハウステンボスに誕生する予定となっている。
VRは、Facebookが買収したOculusが提供する「Oculus Rift」、サムスンの「GearVR」などのヘッドマウントディスプレイを媒介することで体験できる、非現実を具現化するテクノロジだ。ゲーム分野での活用が進んでいるが、アーティストでは倖田來未が通常のミュージックビデオとは別にVR専用版を用意し、イベントにおいてOculus Riftを通じて立体音響と360度の映像を体験できる企画を実施した。
また、BjorkもOculus Riftで見られるミュージックビデオのリリースを発表している。VRによる体験は、それを文字化することはもちろん、伝達することが難しい。体験した人でしかわからないという点がこの体験の最大の価値であろう。
Facebookがつい先日、デベロッパー向けのイベント「F8」で、360度ビデオのアップロードをサポートすることを発表した。つまり今後、Facebookユーザーは、PCやスマートフォンからニュースフィードに流れてくる文字や画像、映像を楽しむだけではなく、ヘッドマウントディスプレイを通じてコンテンツをVR体験によって消費することが可能になっていくのだろう。また、カンタス航空は、機内エンタテイメントシステムに前述のGearVRを採用することを発表している。
プラットフォームやチャネルがVRに対応していくことで、コンテンツもそれに合わせた進化が求められるのは必至だ。音源は音としてだけでなく、映像としてでもなく、VRによる体験として消費されるようになるかもしれない。
最後に、まだ多くないもののVRを上回る体験を提供してくれるテクノロジとしてSR(代替現実)がある。舞台作品などに応用されているが、VRと同様にヘッドマウンドディスプレイを通じて提供されるSRの世界では、現在の映像と過去の映像の境目を認識できない体験が可能だ。つまり“今ここに在る”と“今ここにない”という認識させえも不確かなものになる。まだ途上の技術ではあるかと思うが、こうしたテクノロジも、近くコンテンツに大きな影響を及ぼすものと考えられる。
テクノロジはコンテンツに新たな可能性を与えるものであり、その活用を試みることは、アーティストの“表現の可能性”を広げることにつながるはずだ。テクノロジの進化に伴って、ユーザーがどういったメディアを通じてどのような音楽体験、映像体験をするのかも変化する。テクノロジを自らの表現のツールとして使いこなすアーティストが一層増え、価値ある“体験”をユーザーに提供していくことを望みたい。
矢野悠貴
芸能プロダクション・エイベックスでアーティストのマーケティングおよびマネージャーを担当し、アーティストとファンのコミュニケーションのため、早くからFacebookやTwitterアカウントを活用。その後、コンサルティング企業で、企業のソーシャルメディアの活用支援のほか、 講義やセミナーなどを行ってきた。現在はインターネットサービス企業にて新規サービスの立ち上げに携わる。
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