仮想通貨「ビットコイン」の取引所を運営していたマウントゴックス(Mt.Gox)が、投資家のビットコインを大量に消失し、経営破綻してから1年が経った。この事件をきっかけにその存在が広く知られるようになったことから、読者の多くはビットコインに対して「危険」「信用できない」といったネガティブなイメージを持っていることだろう。
しかし、1年が経ちビットコインを取り巻く状況は変わりつつある。直近では1月に米国のベンチャー「Coinbase(コインベース)」が、米国で初めて当局公認の専用取引所を開設。同社は1月に7500万ドルの資金を調達しており、投資家の中にはニューヨーク証券取引所のほか、NTTドコモも名を連ねている。
日本でも1月にリクルートやGMOインターネットがビットコイン取引所「bitFlyer」に出資し同事業への参入を発表した。楽天は2014年秋にビットコイン決済サービス「Bitnet」に出資しており、2月23日に開催した「楽天金融カンファレンス」では、「ビットコインの台頭」と題する大規模なセッションを設けるほどの力の入れようである。
なぜ、世間ではネガティブな印象が強いにも関わらず、ビットコインは各社を惹きつけるのか――ビットコインを知らない人のために改めてメリットやデメリット、「ブロックチェーン」の仕組みなど基本的な情報を整理するとともに、決済事業者や導入店舗の声を聞くことで、ビットコインが注目され続ける理由を探った。
まず、ビットコイン(単位:BTC)について簡単におさらいしておこう。ビットコインは、中本哲史(ナカモトサトシ)を名乗る人物の論文に基づいて2009年に運用が開始された仮想通貨で、イメージとしては「Suica」や「Edy」のような電子マネーに近い。しかし、これらのサービスと大きく異なるのが、政府や中央銀行のような“発行主体”が存在しないことだ。
ビットコインでは、複数の端末間で通信する「P2P」技術を使って送金を実現している。金融機関を介さないため、海外への送金でも瞬時に終わらせることができる。また送金手数料がほとんど掛からないことから、従来は難しかった数百円単位での小額送金も気軽にできるようになる。決済を導入した店舗側も、初期費用がかからなかったり、クレジットカード会社に支払っていた数%の手数料が1%以下で済むようになるなどのメリットがある。
一方で、ビットコインは需給状況などによる相場の変動が激しい。筆者が2月頭にビットコインを購入した際のレートは1BTCあたり2万8000円だったが、3月13日時点では3万6000円、3月21日時点では3万1600円となっている。そのため株取引のような感覚で運用するにはリスクが高いと言えるだろう。
ユーザーの取引履歴はすべて「ブロックチェーン」と呼ばれる“台帳”に記録される。ビットコインは、複雑な計算処理によってその残高情報の認証作業をしたユーザーに一定の報酬(ビットコイン)を支払うことでシステムを維持している。ブロックチェーンでは暗号化したデータが積み重なっていくため、改ざんは事実上不可能と言われている。なお、この認証作業である「マイニング(採掘)」によってビットコインは発行されている(上限は2100万BTC)。
一部では匿名性が高いことを利用して薬物や銃の売買に使われているケースもある。しかし、それらの取引履歴はブロックチェーンにすべて記載されているため、むしろ警察が追跡しやすいとされている。事実、米国の違法薬物サイト「Silk Road」が摘発できたのは、ブロックチェーンに履歴がすべて残っていたからだという。
ブロックチェーンの仕組みは少々分かりづらいが、楽天金融カンファレンスで登壇した経済学者の野口悠紀雄氏は、このように説明している――「現金で支払う時は1万円のお札を渡すが、ビットコインではたとえば大きな石があって、そこに『私はあなたに1ビットコインを渡しました』という記録を書く。石に書いた記録なので、後から消したり修正したりできない。あなたが持っている1ビットコインは私がかつて持っていた正当なコインであるということは、石に書いていることで証明されている」。
また、マウントゴックスの経営破綻によってビットコインの仕組み自体が破綻したと捉えている人が少なからずいることについても、野口氏は「誤解も甚だしい」と強調する。「アメリカ旅行で余ったドルを空港で円に両替しようとしたら、たまたま両替所が閉まっていた。その時に『ドルが破綻した』と言うのか」(野口氏)。ドルと両替所はまったくの別物であり、マウントゴックスというビットコインの両替所の1つが破綻しただけだと説明した。
読者の中には、ビットコインはハッキング被害に遭いやすいと思っている人もいるかもしれないが、それも誤りだ。まず、ビットコインの保有の仕方は大きく2つある。自分でローカルで管理する方法と、ビットコイン事業者が提供するウォレットサービスを使う方法だ。
ここでいうローカルでの保有は、現金をたんす預金していることに近く、確かにハッキングされてしまえば自己責任となる。しかし、実際にローカルで保有している人はビットコイン長者など一部のユーザーだ。多くのビットコインユーザーはウォレットサービスを使っている。その方がローカルで保有するよりも使いやすく、メンテナンスもいらないからだ。つまり、ビットコイン事業者に預けることは、銀行に現金を預けていることに近いといえる。
現状、ビットコイン事業者は補償制度などは設けていないが、ハッキングされないための対策を講じている。マウントゴックスは、オンラインにビットコインを保存していたためハッキングに遭った。そこで、各ビットコイン事業者はオフラインに保存する方法(コールドウォレット)で管理しており、いまではハッキングに遭う可能性は極めて低い状況といわれている。
なお、2月に香港のビットコイン取引所の「Mycoin」がサービスを停止し、460億円ものビットコインが消失したとする報道があり、「マウントゴックスの再来ではないか」との見方もあった。しかし、こちらも実際には取引所を偽る詐欺事件だったと言われており、ビットコイン自体の問題ではないとされている。
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