仕掛け人は「2人」いた--“グソクブーム”誕生の舞台裏 - (page 3)

井指啓吾 (編集部)2014年09月13日 10時00分

長尾氏の隣にはいつも西本美沙氏がいた

 西本美沙氏はドワンゴコンテンツの宣伝部に所属している。長尾氏が言うように、コンテンツの魅力を引き立たせて外部に発信するのが西本氏の主な仕事だ。

 2人が一緒に仕事をするのはダイオウグソクムシが初めてだったが、息が合った。以来、動物の生中継シリーズでは常に連携しており、長尾氏が形にしたものを西本氏がニュースリリースに落とし込んでいる。これ以外では唯一、「神崎かおり地獄のオフ会」で行動をともにしている。

 長尾氏いわく「コンテンツ制作、とりわけニコニコ生放送のようなスピードも重視されるコンテンツはプロモーション(宣伝部)やサイト編成との連携が重要で、いかに情報を拡散するかというのがポイント。そこでうまく協力体制をとってコンテンツを作っていけば、より効率的に外に広がるのではないかと思う。

 要するにプロモやサイト編成と仲良くする。現場レベルでは、正直自分も『めんどくせえなー、プロモのためにこんな資料を作るの』と思うこともある。ただ、それをしっかり書くことによって、どれだけの波及効果があるか、ひいては自分の成果になるか、その辺りの重要性を意識すべき」。

 西本氏返していわく「コンテンツ企画者と外部の人が面白いと思うものは違うことも多い。外部の人が見た際にわかりやすい画(記事に使える図や写真)がほしいとか、もっとわかりやすい言い方にしてほしいとか。そういうことを事前に共有しておけば、(長尾氏は)そういう風に作ってくれるし、たぶんそういう視点をもとから持っているのかもしれないです」。

  • 西本美沙氏もまた、頼んでいないのにダイオウグソクムシを着用してくれた

 企画の成功を「偶然の産物」と言い切った長尾氏だが、その実はすべて計算のうちだったのかもしれない。長尾メソッドで重要視される“宣伝部とのリレーション”は、初回ダイオウグソクムシ企画時にも水面下で実行されていた。

 「自分の考えた企画が面白いと思えるのかを客観的に見るために、ニュースリリースを書いた。そして宣伝部(の西本氏ではないスタッフ)に渡した」(長尾氏)。

 長尾メソッドにはこのほか、「夜道で遭遇したら」などがあるがこれは後述する。

 目を西本氏に転じよう。彼女は初回からの放送ごと、毎回欠かさず、各媒体の記者や編集者に「この時間にこんなことがあった」というキャプチャ付きのレポートを送り続けている。

 「メディアの人は放送を長時間見られないので……。レポートをひたすら送り続けることで、気がつけばその人がグソクのファンになれば……という半ば嫌がらせに近いことをしていましたね」(西本氏)。サイバーテロ一歩手前、攻めの広報である。

 2013年6月3日、ダイオウグソクムシ「NO.9」の死亡が確認された。NO.9は、絶食状態が続いていたNO.1らとともに、初回放送と4月30日放送された「ダイオウグソクムシたん60時間生中継@鳥羽水族館」に出演した個体だった。


 この悲報を受けた西本氏は、サイト編成の助言も得て、追悼番組の企画を長尾氏に逆提案する。企画は採用され、10日後の6月13日21時から1時間、追悼番組が放送された。撮りためられていた約108時間から、NO.9が活躍していた部分を1時間に凝縮した内容だった。

 西本氏が涙を流しながら仕上げたニュースリリースを筆者が受け取ったのは、前職のときのことだ。すでに申し上げたとおり、初回放送視聴時からダイオウグソクムシの魅力に取り憑かれていたため、二つ返事で記事化を引き受け涙を堪えながら掲載するも、「食べ物の媒体でこれはどうなの」と物議を醸した。遠い昔の話である。

 「プロモ、生放送チーム、サイトの編成、動きがすごい速かった。スムーズな連携が取れていた」(西本氏)。

 「各所がダイオウグソクムシに関心を持っていた。スタッフに愛されたというのが、グソクの一番の成功要因かもしれない」(長尾氏)。

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