iPhoneの7年を振り返る(4)--AppleはiPhoneを中心としたエコシステムへ - (page 2)

生活のカギ

 PCが担ってきたコンピューティングがスマートフォンへと移行する中で、スマートフォンが新たに作り出す役割についても注目したい。それは、「生活のカギ」化だ。つまり、PC以外の専門デバイスが担ってきた役割を、スマートフォンに集約していこうという流れだ。

 今回のコラムシリーズの第2回目で触れたHomeKitやHealthKitによって、スマートホームや健康・医療という領域をiPhoneに統合できる。例えばSiriやTouch IDなどiPhoneを駆使して家の解錠ができるようになり、文字通りiPhoneが鍵になる使い方を実現できるだろう。

 iPhoneの発表会の1週間前から、新型iPhoneに非接触ICであるNFCが搭載されるのではないかというニュースが出てきた。またクレジットカード会社であるAmerican Expressもパートナーの1社に加わるとの見方もある。カギだけでなくサイフも、iPhoneが飲み込んでいくことになりそうだ。

 日本ではすでにケータイの時代から「おサイフケータイ」として交通系電子マネーやクーポンなどをケータイに入れることができた。また、Samsungを中心としたAndroidスマートフォンにもNFCが入り、決済サービスGoogle Walletがあまり多くない店舗で利用できる。しかしこれらの電子マネーはプリペイド型だ。

 Appleの決済サービスは、おそらくプリペイド型ではなく、iPhoneだけでクレジットカードと同じシンプルな決済をより安全に実現することを目指したものになるだろう。当然、指紋認証センサである「Touch ID」を生かしたものになるはずで、端末のタッチだけで決済できる仕組みとは異なるだろう。プラスティックのカードを世の中からなくす可能性も秘めている。

 PCをスマートフォンに置き換えられるだけでなく「生活のカギ」といった価値をもたらそうとしているように、スマートホームやヘルスケア、決済についても、単なる置き換えにとどまらず新たな価値を作り出していくだろう。

 AppleがiPhoneに適用しているイノベーションのパターンは、「集約と創造」なのだ。

「表現の場」と「対称性」

 我々は長い時間、スマートフォンの画面を眺める生活を今後も続けていくだろう。しかしスマートフォンは、見るだけでなく作ることもできるデバイスとして評価されている。このことは、今回のシリーズの第3回目でも紹介した。

 同様に、スマートフォンを表現の場として注目しているのは、サンフランシスコ在住のデザイナーとしてインタラクティブデザインやアートの創作活動を行い、Googleクリエイティブラボにも勤める、カワシマタカシ氏だ。

 カワシマ氏は、スマートフォンで生み出される表現について「飛躍的に進歩を遂げるスマートフォンの技術・性能に大きく依存する」としており、現在では「一世代前のプロ機材と遜色ない」と評価している。その上で「科学技術と表現は表裏一体。進化するスマートフォンとともに生み出される表現も、今では考えつかないようなものになる」と考えている。

 大量のコンテンツを「鑑賞するのも、生み出すのもスマートフォンだ」と指摘するカワシマ氏。そのため、コンテンツの長さや種類にも、「鑑賞と創造の対称性」を見出している。Twitterの140文字という長さの文章、Vineの6秒の動画は、スマートフォンで見るのに適しており、また作り出すにも適しているということだ。

 「情報が瞬時に広く伝搬するメディアは存在しなかった。現在は消費されるだけの情報が多いが、単なる消費から行動の喚起を覚醒させる。それが連鎖・伝染するような表現がもっと生まれてくることに期待し、それがデザイナーとしての自分の課題でもあると考える」(カワシマ氏)

 ここで、対称性を分かりやすく理解する例を挙げよう。10年前の2004年に、ALSアイスバケツチャレンジが回ってきたらどうだっただろう?

 インターネット回線が細く、高品位なビデオが撮影できるカメラも手元になく、見るのも大変、撮るのも大変という状況だったはずだ。しかし、YouTubeビデオとしてチャレンジが回ってきて、それをiPhoneで気軽に見る。その場で氷水を用意し、iPhoneでビデオを撮影すれば、すぐにYouTubeにアップロードできる。これが現在だ。

 カワシマ氏の言う「鑑賞と創造の対称性」を見事に体現していたキャンペーンだったと振り返ることができる。スマートフォンで見られることは「できること」という法則が成立しているのだ。

 前回登場したフォトグラファー三井公一氏のように、プロがiPhoneを使うことで驚くべき表現を創造することを目の当たりにできる。AppleがMac30周年を記念してiPhone 5sでの撮影のみで製作した「2014.1.24」は、本当にiPhoneだけで作ったのか、と疑いたくなる。これらの表現を見れば、確かにそこにプロの経験とスキルがある。しかし、プロが使う高性能な同じ道具が手元にあることに、改めて驚きがあるのだ。

 「自分もできるかもしれない」と思えることは、クリエイティビティとチャレンジを広げる最も効果的な方法だ。その可能性の拡がりは、コミュニケーション、ビジネス、アプリ、ライフスタイルなど、iPhoneが活用されるエリア全てで展開されていくだろう。

 筆者は、人間とスマートフォンについて、共通点を見出している。ハードウェアの進化以上にソフトウェア(脳)による進化が著しいからだ。そんな人間も、自分を拡張するために道具を作り出し、メディアを作り出し、スマートフォンを作り出した。これらは人間の便利で快適な生活や、創造性のために、最大限働いてくれる。

 スマートフォンにも、アクセサリのエコシステムがある。前述の通り、今まで母艦とみられていたMacも、iPhoneのアクセサリの1つに仲間入りした格好だ。2014年の新型iPhoneの発表の場で、ウェアラブルデバイスも披露するとみられるApple。このデバイスもまた、iPhoneを最大限に拡張してくれる存在になると期待できる。

 iPhoneについて4回にわたって振り返ってきた。「制限」「制約」から、「可能性」「希望」への変化であり、われわれ人間もまた、共に変化してきた7年間の歴史である。東京オリンピックが開かれる2020年、我々はどんな進化を遂げられるのか。米国時間9月9日(日本時間9月10日午前2時)のAppleの発表は、そんな方向性を見極めることができるはずだ。

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