例年通りに行けば、おそらく2014年も9月9日に新型iPhoneの発表が待ち受けている。これまでのiPhoneが歩んできた7年の歴史を振り返ってみよう。前回は、iPhoneのハードウェアを紹介した。今回はソフトウェアだ。
携帯電話からスマートフォンへの変化は、ウェブやメールといったインターネットへの対応とPCの代替をきっかけに始まった。これを初期のスマートフォンの定義だとすれば、iPhoneは新しいスマートフォンの定義をソフトウェアの側面から行った端末なのだ。それは、iPhoneが登場して2年目のiPhone 3Gが登場したときだった。
Appleは2007年にiPhoneをリリースした際、搭載するソフトウェアを「iPhone OS」とした。同年にiPhone OSを搭載し携帯電話通信を省いたiPod touchをリリースし、iPhone OSのプロダクトが増えた。その後2010年にiPadが登場し、名称がiOSに改められ、Apple TVにも採用されるようになった。
iOSは、AppleにおけるMacとiPodを除くデバイスのOSとして集約されて現在に至る。iOSは、システムとしてはMacと同様のUNIXベースだ。OSをバージョンアップすることで標準アプリの機能が向上したり、全く新しいアプリの機能を利用したりできるようになる。iOSは既存ユーザーが最新のOSに素早く乗り換えることでも知られている。
2013年秋にリリースされたiOS 7は、これまで進化しながらも踏襲されてきた画面デザインや操作方法を一新し、フラットでクリーンな意匠と、カラフル、そしてレイヤー構造を持つインターフェースへと変化した。それまで、タッチ画面のみで複雑な操作を行うデバイスがなかったことから、画面の中に現実のものを再現する「スキュアモーフィズム」という考え方が採用され、使い方を素早く理解できるようにしていた。
iOS 7リリースのタイミングで既にiPhone登場から6年が過ぎており、タッチパネルがスマートフォンやタブレット、パソコンなどで一般的になったことから、一気にシンプル化を推し進めた格好だ。このシンプルな画面デザインが、iOS 8にも採用される予定だ。
デバイスとOSをAppleがコントロールすることで、バージョンや端末、仕様の断片化を引き起こさず、ユーザーの基本的なスマートフォン体験をきちんと反映できるOS開発を行っているのがAppleの特徴だ。
また2008年のiPhone 3GS発売のタイミングでApp Storeを開設し、Apple以外の開発者が自由にiPhone向けアプリを制作し、配信したり販売したりできるようにした。
ソフトウェアはそれまで、PC向けも含めてパッケージで販売され、CD-ROMやDVD-ROMでPCにインストールするのが主流だった。パッケージの箱を作り、説明書を作り、販売店に卸すというプロセスを経て、開発者はやっと自分のソフトウェアを広く販売できる。そのために、パッケージ制作や流通コストがかさみ、利益も限られたものになってしまう。
App Storeはこうしたソフトウェア流通を一変させた。開発者はAppleに開発者登録をすればすぐにアプリを開発し始められ、完成したらAppleによるチェックを受ければApp Storeの店頭に並び、世界中のiPhoneユーザーからダウンロードしてもらったり、販売を行ったりできるようになる。開発者には販売した価格の7割が得られる──このことは前述の旧来のソフトウェア流通に比べて、画期的なものだった。
ビジネスのチャンスがある、として開発者はこぞってApp Store向けのアプリを開発するようになる。その数実に120万本にものぼる。Androidの方がスマートフォン市場でのシェアは高いが、有料アプリを購入する潜在顧客の多さと、前述の通りiPhoneできちんと動けば良い、という検証作業の軽さから、開発者には未だに「iPhoneファースト」、すなわちiPhoneアプリから先にリリースするべきだという意見も強い。
iPhone向けにアプリを作ってエグジットを迎えるスタートアップも少なくない。例えばInstagramは、iPhone向けに見栄えの良い写真をシンプルに作成できるアプリとして出発し、2000万人のユーザーを獲得した。同社はFacebookに買収され、後にAndroid向けをリリース。1億人を超えるユーザーを獲得するに至った。
またスワイプで操作する画期的なメールアプリMailboxは、iPhone向けに利用開始まで順番待ちを行うというユニークなマーケティング(負荷を急激に高めすぎないための工夫というべき?)で話題になった。こちらの企業もDropboxに買収され、Android版、Mac版とリリースを重ねている。こうしたストーリーも、iPhoneファーストを後押ししている。
ハードウェア面ではAndroidデバイスに対してトレンドの先行を許しているが、ソフトウェアに関しては、デバイスとOSを一体的に開発する強みと、iPhone向けApp Storeの開発者からの支持という2つのメリットがある。このように、ハードウェアの美しさに加えて、安心でトレンドを追いかけることができるソフトウェアの環境が、iPhoneのブランドを構成しているのだ。
2014年6月の年次開発者会議WWDC 2014で発表され、同年9月にリリースされると見られているiOSの新バージョン「iOS 8」。
iOS 8で注目しているのは、HomeKit、HealthKitと呼ばれるAPIによって、スマートホームや健康に関するデバイスとの連携を実現できる点だ。HomeKitでは、開発者は、デバイスかアプリ、あるいはその両方を活用して、iPhoneから身の回りのものをコントロールできるようになり、また他社製のものとの連携も実現できるようになる。
Healthはより意欲的だ。既に運動計測のウェアラブルデバイスが人気だが、これらのデータを安全に保管し、iPhoneの他のアプリや機器からこのデータを安全に利用できるようにする。例えばUP by Jawboneで睡眠のデータを記録している際、このデータを活用し、最適と見られる時間にアラームを自動的にセットする時計アプリ、なんていうアイディアも実現できるだろう。
加えて、最近ではスマートフォンを活用して血糖値や血圧などを計測、データ蓄積を行う機器もある。こうしたデータをHealthに格納した上で、医療機関のアプリと連携させることで、安全に医療機関に日々のデータを送ることができる仕組みも作れるのだ。
スマートフォンの活用範囲が広がるにつれて、iOSはその機能を増やしていた。現在の進化を見ていると、パワフルなアプリを効率的に製作できるようにすることはもちろんだが、スマートフォンではないデバイスでコントロールされている機器や、自分そのもののデータを、手元のiPhoneからコントロールできるようにしようとしている。
iPhone向けアプリの開発は、iPhoneを使っているユーザーのスマートフォンの画面の中に対して働きかけるものだ。アプリはクラウドと通信をしたり、スマートフォンに同様に入っているアプリと連携して新しい機能や使い方をもたらしてくれる。しかし画面の中が中心の世界だった。
HomeKitやHealthKitを活用して作られたアプリは、もちろん画面の中での操作は行われるが、その結果として家のガレージが開いたり、玄関を解錠したりできるようになるのだ。Healthについては、ユーザー本人が自分を知り、改善するためのツールとして活用されていくだろう。
アプリが実生活や実社会の中に直接的に影響を与える、これが2014年のスマートフォンとソフトウェアの進化の結果といえるだろう。
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