徳力氏 実際に農業におけるIoT、テクノロジ活用にはどういうものがあるのでしょうか。具体的なお話をうかがいたいと思います。
佐々木氏 日本の農業の問題点に高齢化があります。高齢化については、あのリカちゃん人形に“おばあちゃん”が登場したほど、もはや当たり前のことです。中国やインドも今後は高齢化が進んでいきますので、日本は少し先行しているだけともいえます。
それよりも重要な問題は「担い手不足」と「環境に優しい農業」です。その解決策をIT屋の目から作ったのが「Zero.agri」です。Zero.agriはハウス栽培にフォーカスし、水やりと施肥を人が介在することなくセンサネットワークとM2M、IoTで実現するものです。
これは点滴栽培といって、海外では非常に普及している節水栽培技術です。10分に1度の頻度で、日射量や土壌の状況などのセンサ情報をクラウドにアップロードして、いつ、どの程度の水や肥料をやればいいのかを計算し、その結果を表示します。
これにより、水と酸素と肥料がうまく混じるように点滴します。情報収集から水やり、施肥までほぼ自動ですが、目標水分値についてはこだわりを持つ農家の方が多いので、画面を見て水の量を判断して農家の方が自由に数値を変更することもできます。
また、農家は天気の影響を受けるので、GPSで精度の高い位置情報による今後6時間の天気予報を表示するほか、スマートフォンで作物の写真を撮ってクラウドに共有ことで、農業を教える方々と農家の方が情報共有するといった機能も搭載しています。操作はタブレットが利用でき、ITに疎い方でも比較的簡単です。なお、Zero.agriはイスラエル発祥のネタフィムという会社と明治大学 農学部とともに開発しています。
大畑氏 NECでは、農業ICTクラウドサービスを提供しています。最初のターゲットとして考えているのはハウスでして、その中にセンサを置いて、温度や湿度、日照、CO2などの栽培環境を、タブレットやスマホでいつでも見れるモニタリングサービスです。また、温度が急激に変化したときの警報サービスや、スマホなどから逆方向でハウス内にあるいろいろな機器の整備することも可能です。
さらに、タブレットに農作業の記録を付ける機能や、農家間や指導員とのコミュニケーション機能などをクラウドサービスとして提供しています。最初からすべての機能を導入するのでは現場がついて行けないこともありますので、最も楽にしたいところ、便利にしたいところから機能を提供していく感じで、現在およそ400の農家が導入しています。
事例としては、千葉県旭市にあるJAちばみどりでのきゅうりやトマトの栽培に活用しており、熊本県八代ではミニトマト栽培農家で活用していただいています。
効果のある部分としては、栽培環境を手元のタブレットなどからリアルタイムに画像で見えること、それと生育状況や荒天の際でも現場に行く回数を減らせることです。
大込氏 農業機械の面では、機械を利用して低コストにするということで、IT関係では3つほど農家向けの商品を提供しています。ひとつは「アグリサポート」で、車を運転するとき、電源が入っているときに燃料の量やバッテリーの状況、運転状況などを、センサを使って自動でスマホに表示するものです。燃費向上とメンテナンス、作業効率の向上を低コストで実現しようというものです。
もうひとつは、肥料代と環境問題への対応を目的に、土壌センサを搭載した農業機械を作っています。10アールの田んぼに稲を作るとき、窒素を入れる量が自治体によって決まっています。
しかし、ひとつの圃場内でも深さに差があったりします。作物は深いところは根も良く張り、肥料吸収度も高いので、部分的には肥料濃度に差が出ます。それをセンサで見つけて肥料を調節します。これによってで、10アールあたりの肥料対価が15%くらい節約できます。稲が倒れにくいというメリットもあります。
3つ目は、「スマートファーマーズサポート」です。井関では、富士通と協業で農業支援用のクラウドサービス「Akisai(秋彩)」を提供していますが、この中から農家が必要なシステムだけをアレンジして「スマートファーマーズサポート」として提供しています。
具体的には、現場で作物の生育状況や肥料の使用量などの情報をスマホなどで入力していき、あらかじめ作成した営農計画と比較しながら工程ごとに進捗状況などをチェックしていくものです。この3つの取り組みが現状の主なものです。また、最近流行っている農業生産工程管理(Good Agricultural Practice:GAP)への対応も進めています。
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