ネット成長期のインドネシア--進出の秘訣をマイクロアドに聞く

 近年、東南アジアに進出する日系IT企業が増加しているが、中でもインドネシアは注目を集めている国の1つである。同国の人口は世界4位の約2億4000万人で、ASEAN最大のGDPを誇り、年率6%前後の安定的な経済成長を続けている。国内の大きな内需と今後の成長性がその魅力である。

 マイクロアドも、インドネシアに進出し順調に成長し続けている企業の1つ。2011年6月に現地企業と合弁会社「MicroAd Indonesia」を設立。以来、オンライン広告代理事業で成果を上げてきた。同社COOの榎原良樹氏と、現地で日系企業の進出支援に携わるSuryanto Wijaya氏に、現地のネット産業の状況や、日系企業の進出の際に気をつけるべき点について聞いた。


MicroAd Indonesia COOの榎原良樹氏。ジャカルタのオフィスにて

ネットバブル目前?--待たれる「決済」「流通」問題の解決

――インドネシアに進出した経緯と当時の状況を教えてください。

榎原氏 : 私たちが会社を設立した2011年頃は、インドネシアの内需に注目して進出してきている日系企業はほとんどいませんでした。きっかけは、弊社の渡辺が社員旅行でバリを訪れた際に、単独でジャカルタに立ち寄り、そのときに「このマーケットはこれから伸びる、今のうちから足を突っ込んでおこう」と直感したことです。その滞在中に現地法人の設立が決まりました。

 当時のインドネシアにおけるインターネット産業の状況は、いわゆるネットバブルの一歩手前のような状況で、若い経営者たちが少しずつではありますが活発にウェブサービスを展開し始めていました。ただその活況はネット産業に限った話ではありません。日本と中国との関係やタイの洪水の影響から、インドネシアという国自体が注目を集め始めた頃でした。ウェブサービスが盛んに登場し始めたのは、それから少し間を置いた、ここ2~3年のことだと思います。

――事業の内容について聞かせてください。

榎原氏 : いわゆるデジタルエージェンシーと呼ばれる業態で、デジタルを活用したマーケティングをフルサービスで提供しています。具体的にはウェブサイトの制作、ソーシャルメディアを使った施策の企画・運営代行、検索連動型広告、ポータルサイトの広告の代理販売など。また、現地の人向けの育児情報サイトの運営や、広告販売もしています。

 顧客は日系企業と現地企業が半々です。日系を対象とした事業を展開する日系企業が多い中で、現地企業の比率は高い方だと思います。顧客の業種はクルマや食品、消費財、家電など。ウェブサービスの会社がそこまで多くないのは、収益を宣伝活動に再投資できる規模の会社がまだ少ないからです。インドネシアにもインターネットの市場はもちろんありますが、それぞれが事業として成立し、大きくなっていくのはこれからでしょう。

 実は進出当時は、デジタルエージェンシー事業ではなく、アドネットワーク事業をメインにするつもりでした。しかしアドネットワークはGoogleという大きな競合企業が先行者としており、その中で事業を立ち上げていくのは難しいと判断し、今のような事業内容に舵をきった経緯があります。

――競合企業との状況について教えて下さい。

  • MicroAd Indonesiaのオフィスの様子

榎原氏 : 弊社が進出した当時、現地の広告会社はもちろんいましたし、グローバルの広告会社もすでに進出してきていました。既存の広告会社はAbove the Line(マス広告をはじめとする非デジタルの領域)では顧客を抱えてはいましたが、私たちが参入した当時は、この国でデジタルマーケティングがまさに起こり始めた頃でした。タイミングが非常に良かったと思います。

 勝因はデジタルに特化した専門性と価格優位性、品質、事業スピード。当初は人伝での紹介や電話でのアポ取りなど地道な営業活動をしていましたが、今では顧客企業との継続案件やお問い合わせをいただくことの方が多いです。

――インドネシアの広告市場について教えてください。

榎原氏 : インドネシアはテレビ広告の影響力が非常に大きいです。それは3年前もそうですし、今でもそう。以前はテレビ広告が今よりもずば抜けていて、ウェブを活用した施策は、存在はするもののあまり目立ってはいませんでした。しかしここ1年は、まだ予算の配分こそ少ないものの、顧客企業がウェブにも予算を振り分けるようになってきました。

 当時はウェブサイトさえ持っていなかった、もしくはユーザーの目を気にして作っていないような企業が多かったのですが、最近はそうしたことにきちんとお金をかけようという企業が増えてきました。ソーシャルメディアの活用も同じです。日本でいうところの2000年初頭のような状況でしょうか。

――インターネット産業の状況はどうでしょう。

榎原氏 : BtoCのウェブサービスを展開している企業は、まだまだ収益が立ちにくいようです。トラフィックは伸びていますが、収益化には至っていない。ウェブサービスの利用者は確実に伸びていますし、若者が多い国のためこれから急激に伸びるのではないかと思われます。しかし、今はどの企業もこらえて成果を待っているような状態です。

――海外のウェブサービスも進出しているのでしょうか。

榎原氏 : まず、Amazonはありません。頼んだらすぐに届く、あのクオリティを担保できないからだと思われます。Facebook、Twitter、Instagram、Pathは人気です。この他、以前はBlackBerry Messengerがよく使われていましたが、今はWhatsApp、LINE、カカオトークなどが盛り上がっています。

 インドネシアにおけるウェブサービスの課題は、利用者は多いけれどすぐに収益につながらないため、長期的な計画を持って参入しないといけないところ。その原因は決済と物流にあります。決済はクレジットカードの普及率が10%以下、銀行口座すら持っていない人も少なくありません。物流は日本のようにスピーディな個人宅配のサービスがないので、店舗で買った方が早いのです。

 インドネシアは国土が広く、さらに島国なため、地方の店舗では買えないものもあります。しかし現状では、グルーポンなどフラッシュマーケティング系サービスのような、ウェブでお金を払うことに強力なメリットが求められます。

――インドネシア拠点での今後の目標や展開は。

榎原氏 : 定性的な目標は、インドネシアでトップクラスのデジタルエージェンシーになることです。今もそのクラスの近くに入ってきているような実感はあります。今後、マーケットが大きくなったときに業界を引っ張るような会社になりたいと思っています。また、エージェンシー事業を軸にしながらも、インターネットのマーケティングカンパニーとして自社で多様なビジネスもやっていくでしょう。

企業進出の秘訣 「タイムマシン経営」は一筋縄ではいかない

――インドネシアにはインフラ不足や法的な不透明性があると聞きます。事業運営を通じてそれを感じることはありますか。

榎原氏 : インターネットの回線はよく落ちます。頻度としては1週間に2~3回程度。いずれも5~10分程度で復旧しますが。交通インフラは渋滞がひどく、雨が降るとさらに悪化します。アポイントも1日に2~3件が限界です。

 法的な不透明性は感じます。ルールはあってないようなものだったり、役所の担当者によって見解が異なることも。具体的には、会社設立にすごく時間がかかったり、いつになったら設立が完了するのか先が見えなかったり、イベントの実施や看板広告の掲出に必要な許認可などに手間がかかるなど。しかし、そういうものだと割り切っていますし、現地の社員もしくはパートナー会社にまかせればうまく事が運ぶように思います。

――インドネシアは女性が活躍する国と聞きますが、本当でしょうか。

榎原氏:こちらの女性は結婚して子どもがいても働くのが当たり前だと思っている方が多いようです。たしかに男性よりも女性の方がよく働く家庭もあります。職場では性別によって待遇が区別されることはあまりありません。またベビーシッターやメイドが一定水準以上の家庭にいて彼女たちを支えていることも背景にあるでしょう。弊社でも要職はほとんど女性社員です。

――日系企業が進出する際に気をつけるべきことはなんでしょう。

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