この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
今回は、以前取り上げたベトナムの旅行予約サイト「MyTour.vn」と同じくリクルートが出資する、インドネシアの旅行予約サイト「PegiPegi」を紹介する。同社は東南アジアの市場の成長を見込んで、インドネシア、ベトナム、フィリピンの3カ国で旅行予約サイトの事業に参画している。
PegiPegiは、リクルートの投資子会社であるリクルートグローバルインキュベーションパートナーズが資本比率40%、インドネシアでデジタルサイネージ事業を展開するAlternative Media Groupが45%、同国でシステム開発事業を展開するALTAVINDOが15%を出資して設立されたPT. Go Online Destinations社が、2012年5月に開始したサービスだ。
リクルートは、日本で展開する旅行予約サイト「じゃらん」の技術を、PegiPegiのシステムに供与。そのシステムを、ALTAVINDOが現地に対応させるためローカライズし、同社が構築した決済サービスを導入している。Alternative Media Groupはデジタルサイネージでのカスタマーリーチおよびその事業運営で培った営業のノウハウを提供し、リクルートは事業運営全体の統轄の役割を担っている。
従業員85人のうち、リクルートからはアジア販促事業推進室のプロジェクトリーダーである中嶋孝平氏がCOOとして、同室チーフアーキテクトの小嶋武郎氏がマーケティング兼コールセンター担当として赴任。その他の従業員は、全員が現地採用だ。
リクルートが参画した背景には、インドネシア国内の大きな内需と今後の成長性がある。同国の人口は世界4位の約2億4000万人で、ASEAN最大のGDPを誇り、年率6%前後の安定的な経済成長を続けている。また、ネット人口は急増中(約14%)で、国内旅行市場の拡大も今後期待されている。
PegiPegiは、国内旅行の予約に特化しており、宿泊するホテルのプランと国内航空券を提供している。サービス開始当初はホテルの予約のみだったが、2013年8月からは航空券の予約も可能になった。顧客ターゲットはインドネシアの中間層。ホテルは、1泊あたり約4000円の2つ星、3つ星の紹介に力を入れている。つまり、今後最も伸びると想定されているLtoL(Local to Local)のマーケットに照準を定めているのだ。外国からの旅行客が宿泊するような5つ星のホテルを多く扱う旅行予約サイトのグローバルプレイヤーとは異なるアプローチでの成長を目指している。
中嶋氏によると、インドネシアでは現地のネットベンチャー企業による旅行予約サイト事業への参入が盛んだという。しかし同国は島が多く点在するため、提携するホテルの数を増やすには人手がかかる。そのため、そうした企業が運営する「Traveloka」などのサイトには航空券のみに特化したものが少なくない。PegiPegiは、首都でありビジネスの中心地でもあるジャカルタ以外にもバリ、バンドゥン、スラバヤ、ジョグジャカルタに4つの拠点を構えており、むしろホテルへの営業活動に注力している。それにより、現地発の新興系のサイトとは差別化が図られているそうだ。
インドネシアの旅行市場の特徴は、国内旅行が海外旅行よりも多く、また伸びていることだという。急速に経済が成長しているインドネシアにおいて、一部の富裕層は海外にも旅行で足を運んでいるが、多くの中間層は国内旅行を楽しんでいる。一番人気の行き先はバリ。続いて、ジャカルタから車で3~4時間のところに位置するバンドゥン。ここは1泊2日など短期の旅行の行き先としての需要がある。インドネシアは、イスラム、キリスト、ヒンドゥー、仏教と多様な宗教を持つ人々が入り交じり、それを許容し合っている。そのため、周辺国と比べて休日や祝日が多く、短期の旅行に出かける人は多い。
また、バリではクタやサヌールのビーチから少し離れたところに位置するプールの付いたホテルも人気。予約の仕方として特徴的なのは、直前になって予約するいわゆるラストミニッツ予約が多いこと。これは、必ずしも直前予約割引などのキャンペーンがあるからというわけではなく、時間に対しておおらかなインドネシア人の特性ならではの傾向だそうだ。
インドネシアのネット市場の特徴についても触れておきたい。近年は、ネット関連企業などのプレイヤーが増加し、そのことが同国のネット市場の伸びを牽引している。現地で知られるサービスは、例えばファッション系Eコマースサイトの「Zalora」、家電製品などに強いEコマースサイトの「Lazada」、さらに「楽天」や「Groupon」などだ。
このように世界中で使われているグローバルスタンダードのウェブサイトがすでに立ち上がっている。こうしたネット市場の活況は、華僑のインドネシア人の存在に後押しされているという。欧米で教育を受けた華僑の人たちがインドネシアに帰国し起業。そこにバンドン工科大学やビヌス大学などを卒業した優秀なエンジニアたちが集まっているという。
インドネシアでは、平日の日中、多くのビジネスマンが就業中であろう時間に旅行予約が多くなされるという。これは、自宅にPCやネットの固定回線がない家庭が多く、そもそもアクセスしづらい状況だからであると推測される。デバイスごとの利用状況の違いについては、ホテルや航空券の検索はスマートフォンで行われることが多い。
インドネシアではスマートフォンが急速に普及している。以前は所有者の大多数がBlackBerryを、残りの人たちはNokiaなどの比較的安い機種を使っていたそうだ。最近ではそれがサムスンやLGなどのAndroid OS搭載のスマートフォンに置き換えられている。当初はBlackBerryとAndroidの2台持ちが主流であったが、BlackBerry Messengerアプリが公開されて以来、1台にまとめられるようになったという。
同国のEコマースサイトは、2014年中にスマートフォンからの利用がPCを上回ると言われているという。しかし、実際の旅行予約はPCからの方が多いそうだ。その一因は、インドネシアは依然としてネットのインフラが弱く、スマートフォン向けサイトでの決済中に回線が切れることにユーザーが不安を感じているからだという。
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