マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボと朝日新聞社は5月12日、シンポジウム「メディアが未来を変えるには ~伝える技術、伝わる力~」を開催した。
前半では、最新テクノロジを取り入れたメディアの新しい報道の仕方や“データジャーナリズム”という言葉の定義とはなにかについてお伝えした。ここではその後半をご紹介する。なお、映像はウェブサイトで見られる。
シンポジウムでは、2人のゲストが海外から招かれ、それぞれの活動について紹介した。1人目のアマンダ・コックス氏は、ニューヨーク・タイムズでグラフィックエディターを務め、データビジュアライゼーションやデータそのものの分析などを担当している。ここ数年で、データジャーナリズムが急速に注目を集めており、そのきっかけとなった有名な記事として「リベラ投手はどのように打者を支配するか」というリベラ選手のカットボールを分析した記事を紹介した。
3Dメガネが普及するのを見越して3D処理も行われており、データジャーナリズムのモデルともいえる内容になっている。仕上がりを見るといかにもコンピュータ上だけで作ったように見えるが、元となるデータは従来の取材手法で集められ、データの見せ方は手書きでラフを作成するなどしている。
大事なのは見せ方よりも記事として価値があるかであり、たとえば、マレーシア航空370便が行方不明になった際には、どこに墜落したかを分析する記事を書き、その際に使ったデータのみならず、どうやって分析したかという手法も合わせて公開した。また、前半に紹介されたデータジャーナリズムハッカソンのグランプリ作品のように、複雑な医療に関するデータをわかりやすく、印象的に見せる方法は継続的に取り入れられており、「データジャーナリズムには、記事を見ることで医療に対する感じ方や考え方を変える体験を与えることが求められる」としている。
記者だけでなく読者を記事に参加させることもコックス氏が取り組んでいることの一つだ。ニューヨーク市内で自転車に関する有用な情報を集めてオンライン地図からアクセスできるようにした例では、コメントが集まっている(日本版もあるがコメントはわずか)。ニューヨーク・タイムズの記者がこれだけの記事を書くことは難しいが、読者のナレッジとうまくつなげていけば、スケールのあるさらに有用な記事へと発展させられるとしている。
Facebookチャットで著名人に直接コメントできる機会を提供したり、読者を巻き込んだりする手法がニューヨーク・タイムズのような大手メディアでも認められているという事実が興味深い。一方で、ソーシャルメディアの情報をどう分析できるかにも取り組んでおり、Facebookへの投稿とそこに含まれる郵便番号を利用して、地図上に好きな球団のカラー分布図を高い精度で制作した例が紹介された。
大手メディアの報道に対する考え方が変わりつつあると強く感じたのが、「わからないことはわからないと読者に伝える」ことだ。記者があえて意見を読者に求め、その投稿も合わせて公開するといったことが始まっている。ニューヨーク・タイムズでは前述した、社会問題に対して記者よりも知識のある読者に答えてもらえる場として「The Upshot」という専用ページを設けた。”賢い友達に難しい問題を説明してもらう”、というコンセプトでインタラクティブにジャーナリズムを体験できるようにしている。ここでは、データの分析方法なども紹介していることから、確率の勉強にもなるという。
MITメディアラボ所長の伊藤穣一氏が「需要が高まっている」と話していたニュース専用アプリも開発している。その名も「NYt Now」というニュースキュレーションアプリだ。現在、コックス氏は「時間帯によって好まれるニュースが異なる」とし、さらに国籍や文化、ランチタイムの時間帯の違いなどの分析を元に、どうすれば求められるニュースを提供できるかを研究している。テキストとグラフィックとマルチメディアをいかに結びつけるかについて日々探求しており、自分自身、最も誇りとするプロジェクトであると語った。
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