最後のパネルディスカッションは、伊藤氏、コックス氏、ピットニー氏という顔ぶれで、司会進行役を朝日新聞取締役の西村陽一が担当した。伊藤氏はメディアを取り巻く状況として、FacebookやLINEなどが新しくジャーナリズムへの参入を狙っている。一方で画面サイズやデバイスの種類の変遷が早く、大手などはフォーマットが安定するまで様子見しているところだが、確定すれば一気に投資がはじまるのではないかと見る。
また、日本では放送と通信を分けているが、米国では3DやVRを取り入れはじめ、どこが競合になるのか混沌としている状態だと分析している。コックス氏も現在はデリケートな時期で、KindleとGoogle Grassの両方が使われる状況で、それにどう配信していくかは「ユーザー本位で考えるしかない」とコメントしている。
ピットニー氏は、アプリでニュース配信をパーソナライズするアルゴリズムの質が上がっても、クリックした先にあるコンテンツをどう見るかはユーザーに委ねられており、記事をたくさんシェアしてほしいのか、直接収益を上げたいのかは、オーバーライドで組み合わせる必要があると語った。
現在のメディアの価値を測る指標は、トラフィックやページビュー本位になってはいないか?という伊藤氏に対し、ピットニー氏は、広告が賢くなり収益方法もユーザーが情報にアクセスする環境も変わり、そうした数字にはとらわれなくなっているとコメントした。そのためのプログラミングも力を入れはじめているという。
今回のシンポジウムでは、おもしろい試みとして参加者らからTwitterで質問を受付けた。それをジャーナリストの津田大介氏がナビゲートし、パネリストに伝えるという手法をとった。予想以上のコメントの多さに、「引き受けたのを後悔した」という津田氏だったが、的確なコメントを選び出し、パネルセッションの後半を引っぱった。メディアをテーマにしているだけあって、会場にはヤフートピックスや現代ビジネス、スマートニュースなどさまざまなメディア関係者が参加していた。
データジャーナリズムでは記者が事実とは異なる見せ方をすることはないのかという質問に対し、ピットニー氏は「そうした問題はどんな報道でもある」とコメント。元となったデータも公開されているので、ユーザ自身が記事の内容を判断できるとしている。コックス氏は、データジャーナリズムも他の記事と同じだが、影響力が高いという点はこれから注視する必要があると述べた。
続いて津田氏が「読者のリテラシーを鍛えるのは難しいのでは」と質問するとコックス氏は、The Upshotを通じて統計と報道の関連性を明確にする勉強ができるようにしている例を再度紹介。今後は他のメディアも同様の動きをするのではないかとコメントした。
中には、ハフィントン・ポストは、ジャーナリズムというより商業メディアマーケティングではないかという厳しい意見も投かけられた。それに対しピットニー氏は、「複雑な問題に取り組む場合、有効な形でユーザーに共鳴してもらおうとすると、マーケティングのように見えるかもしれない」と答えた。コックス氏も、ジャーナリズムには権力に立ち向かうことが期待されているので、少しでも記事が偏ると批判されるのではないかとの意見を述べた。公正を期して、調査報道の資金をクラウドファウンディングで集めようとしても、事前にネタバレするので実施できない。
では、マネタイズはどうするのかという質問に対し、進行を務める朝日新聞社取締役 デジタル・国際担当の西村陽一氏は、「日本の場合、購読と広告の組合せしかないので、データジャーナリズムはマネタイズではなく読者とのエンゲージメントや実験の段階である」と答えた。ピットニー氏は、ディスプレイ広告は“死に体”だといわれているが、Facebookが低収入から巨額に成長したように、ダウンロード広告などでディスプレイ広告はまだ進化できる可能性がある。
また、記事の一つのカテゴリとして、ファッションやライフスタイル、ワインクラブと提携してパンチのあるコンテンツを作って、相互に誘導するというスタイルは登場するかもしれないとコメントした。コックス氏は、プロパブリカのようなピュリッツアーを受賞するNPO団体が調査報道の先鋭的なケースを開拓しているとし、記事をデータとして売る記者もいるなど、記事の価値がメディアを取り巻く収益のあり方も変わってくるかもしれないとまとめた。
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