4月9~10日に開催された、新経済連盟主催の「新経済サミット2014」。初日3つ目のセッションとして行われたのが「イノベーション–教育 ITで世界の教育はどう変わっていくのか。」。ビズリーチ代表取締役の南壮一郎氏をモデレーターに、教育のIT化に携わる3人のスピーカーが、テクノロジにより変化する教育現場の現状や課題を語った。
登壇者の1人目は、Harvard Business School 経営学ドナルド・K・デイビッド寄附講座教授のほか、上級副学部長、MBAプログラム主任を務めるヤンミ・ムン氏。主な研究と教育分野は経営、ブランディング、文化の共通領域。優れた教授陣に与えられる「HBS Student Association Faculty Award」を複数回受賞しているほか、優秀な研究に与えられる「Hellman Faculty Fellowship」初の受賞者としても知られる。
2010年に出版された初の著書「ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業」はベストセラーとなり「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌をはじめ、多くの媒体で100以上の企業のケーススタディをレポートしている。
ムン氏は、オンライン学習の魅力について次のように語る。「学生が自主的に選択できるのと同時に、学生は教室にいなくてもいい。つまり学生が強要されずに思うとおりに行動することが可能で、途中で止めてもいい」。さらに「動機づけがされにくい通常の講義に対して、それがモチベーションと結びつきやすい点が有意義」と持論を展開する。
一方で、それが必ずしも学生の成果に結びついていない現状も指摘する。「2013年に世界の15万人が登録した最も人気のあるMITが提供するオンライン講座は、最終的には95%が離脱した。非常に素晴らしい大学の素晴らしい科学者が提供しているクラスでさえも95%の人が落ちこぼれてしまったのは、オンライン講座の典型的な例。オンラインコースの落ちこぼれ率が高いのは、基本的にほとんどの授業が10年間やってきた授業内容を単にオンラインで提供してきただけのもの。現在提供されているオンラインのコースは、あまり革新性があるとは言えず、落ちこぼれ率が高くなっている」と分析する。
2人目は、サンフランシスコに拠点を置くグローバルなオンライン学習、指導マーケットプレイス「Udemy」のプレジデント兼COOを務めるデニス・ヤン氏。Udemyには経営、起業、技術、ライフスタイル、ヨガ、写真に至るまで、技能ベースのコースを指導するために世界中のエキスパートが参加し、1万3000以上のオンデマンド・コースには200万人を超える学生がアクセスしている。
ムン氏と同様、ヤン氏もオンラインコースにおいて重要なのは“エンゲージメント”だと強調する。「受講者を巻き込む、惹きつけるといった要素が大事。いろいろ学ぶことによって、例えばゲーム業界などいかにその世界に受講者を引き込むのか。それを教育の場にどう持ち込むかということ」とヤン氏。ヤン氏によれば、オンラインの講座で人気なのは学術的な教育専門者ではなく、一般企業などから招聘された講師だという。
3人目は、慶應義塾大学 環境情報学部長 教授の村井純氏。日本におけるインターネットの基盤をつくり、“日本のインターネットの父”として知られる。また、技術と社会との関わりをテーマに長年研究を続け、教育者としても多くの学生を指導してきた人物でもある。
村井氏も、教育のIT化が加速するメリットについて「素晴らしい講義、授業を世界各国の人たちが受けられる時代になる」と話す。また、その上でキーワードとして挙げたのが“パーソナライゼーション”だ。
「教師の多様性が重要で、さらに教師と生徒がどこにいようとつながっていくことが非常に重要なポイント。今は教師と学生のマッチングのメカニズムが大学名などのブランドによるものだが、例えばインターネットのような、より高度な形でマッチングできれば、もっと素晴らしいチャンスが生まれるのではないか」と述べ、“ユニバーシティ・ネットワーク・システム”の実現を目指していることを明かした。
さらに、教育のIT化がもたらす恩恵として挙げられたのが“所得格差”の解消。ヤン氏と村井氏はそれぞれ次のように見通す。
「テクノロジはそれを変えるチャンスを持っている。例えば誰でもハーバードの授業をオンラインで、無料で受けることができる」(ヤン氏)。
「ヤン氏が作ったようなマーケットプレイスがあり、さらに規模が大きくなればコストはかなり下がる。これがインターネットの世界におけるメリットの1つ。インターネット人口は今37%だが、これから10年後には90%に伸びていくはず。そうすれば自ずとローコストの優れた教育を必要としている人に提供できるようになる」(村井氏)。
三者ともに、教育のIT化は現時点で初期段階にある、というのが共通の認識。それぞれ現状と将来に対する見解を最後に次のように語り、セッションを締めくくった。
「教師がそれぞれの授業をオンライン化できる時代。今までであれば教室で教えられていたものがオンライン化しているということ。テレビに例えると、テレビが発明されて、テレビカメラを劇場に据えて、そこで劇が行われているのを放送しているだけのようなもの。そして、私たちは誰もがみな教師にも生徒にもなれる。オンラインのプラットフォームを通して、それを今実験しているようなもので、これが市場をさらに前進させていくと思う」(ムン氏)。
「教育におけるテクノロジはまだ始まったばかり。ある意味、教育業界というのはこれまでテクノロジによって変わってこなかったが、それが今ようやく起きようとしている。大きな将来とイノベーションがあると考えている」(ヤン氏)。
「オンラインコースを数百万人と共有することを考えると、みな同じように学習するのだろうかと心配しがちだが、教育、学習体験は非常にクリエーティブな活動なのでコンテンツも教師も多様になる。これがおそらくグローバルな教育分野におけるインターネット上のターゲットになるはずで、可能性でありチャンスになると思う。よって多様性というのが非常に重要になってくる」(村井氏)。
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