P&G「Thank You, Mom」キャンペーンのストーリー

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 企業が生活者とコミュニケーションしていくには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。

 ソチ冬季オリンピックのワールドワイドパートナーであるP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)が実施した「Thank You, Mom(お母さん、ありがとう)」キャンペーンには、人の心を動かすストーリーがありました。

 「Thank You, Mom」キャンペーンとは、P&Gが2012年ロンドンオリンピックに続いて実施した世界キャンペーンのテーマです。

 オリンピックは、選手たちの活躍はもちろん、選手と両親とのつながりを強く感じる機会でもあります。

 親子の絆の強さを目の当たりにすることで、全世界の人たちに、自分のお母さんや家族の大切さ、感謝の気持ちに改めて気付いてほしい、という願いが込められたキャンペーンです。

 キャンペーンの中心は2分の動画です。2012年のロンドン五輪の際に公開された動画「The Best Job」も感動を呼びましたが、新作となるソチ五輪バージョンの「Pick Them Back Up」もさらに感動を呼ぶものになっています。

 この動画では、後にスキー、スノボー、フィギュアスケート、アイスホッケーという冬季競技種目で、オリンピックに出場する選手たちの子供時代とその母親が登場します。

 みんながまだ小さな赤ちゃんだった頃からストーリーは始まります。何度立ち上がろうとしても転んでしまうのを、お母さんが優しい言葉をかけて抱き起すシーン。

 やっと歩けるくらいに成長した女の子が、スケート靴を履いて氷の上を滑走しようとするけれど、何度も転んでしまうシーン。

 スノーボードで転んで、雪に埋もれて起き上がれない男の子を、お母さんが引っ張り上げるシーン。

 泣きじゃくる男の子の濡れた服をお母さんが着替えさせるシーン。

 女の子の冷えた足をお母さんがお湯で温めているシーン。

 やがて子供たちはそれぞれの競技を本格的に始めるようになります。それでも転んで倒れるというシーンの繰り返し。

 泣く子供を励まし、怪我をした子供を介抱し、リハビリにつきあう、そんなお母さんたちのシーンが映し出されます。

 やがて動画はクライマックスに。オリンピックを思わせる大きな大会で、それぞれの選手たちは大活躍するのです。

 観客席からそれを見守り喜ぶ母親たち。選手たちと抱き合います。今まで育ててきた年月の思いをこめて。

 そして以下のタグラインが浮かびます。
For teaching us that falling only makes us stronger. Thank You, Mom.
「転んだ数だけ、強くなれた。あなたがいてくれたから。ありがとう、お母さん。」

 その後、P&Gが販売する多くの製品のロゴが続きます。

 この動画は視聴者数は既に1800万回を越えています。SNSでも多くの人が感動する動画として取り上げました。

 ではこのキャンペーンの何が、多くの生活者を魅了したのでしょう?

 何よりも選手の母親にスポットライトを当てた所です。この動画は、母親がいなかったならばその選手も存在しなかった、という当たり前のことに気づかせてくれます。

 オリンピックというイベントも、選手を産み育てた母親がいなければ成り立たない、というメッセージを送っているのです。

 それが、“P&Gは世界中の母親を応援する企業である”というストーリーと繋がっています。

 このキャンペーンにより、世界中に新たなP&Gのファンを増やしたことは言うまでもないでしょう。

 このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか? 

◇ライタープロフィール
川上 徹也(かわかみ てつや)
広告代理店勤務を経て、コピーライターとして独立。最近は広告制作に留まらずストーリーブランディングの第一人者として、様々な企業のコミュニケーション戦略をサポートしている。新刊『なぜ、真冬のかき氷屋に行列ができるのか?』(日本実業出版社)。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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