前置きが長くなってしまった。ここからはZ8シリーズの実力を具体的に検証してみたい。まずは画質──表現力はとても良い。液晶テレビでここまでの色彩感は、RGBの直下型バックライト以来で、今までのREGZAとは別の次元に踏み出したと言っていいだろう。
この色再現の進化は新開発のパネルに拠る。東芝は「ダイレクトピュアカラーパネル」と名付ける、広色域のLEDバックライトを、液晶の真下に配置した。この措置は輝度向上に効いた。LEDバックライト(白色光)自体の色域も拡大し、先に述べたように輝度で約75%、色域で約14%のアップにつながった。ここにきて、白色LEDバックライトで色域を拡大する技術ポートフォリオが多彩になってきているが、東芝では青色LED+緑・赤蛍光体の構造にて、色範囲を拡大している。
また、コントラスト対策は、バックライトを自動で制御する「エリアコントロール」の手法を採用することで、明るい部分と暗い部分の明暗差の確保に努めている。
テレビの絵づくりにおいて、輝度とコントラストはもっともベーシックなリソースだ。これまでの液晶は「ナチュラルで、なおかつクッキリした色」を出すのがなんとも苦手だった。1つの原因が、元となる明るさが足りなかったことだ。輝度の低い環境で無理やり彩度を上げて濃い色を作ろうとしても、単に暗くなりディテールの階調(色合いの微妙なグラデーション)が失われたり、色相がずれる。ところが今回、直下型広色域LEDを用いることで、輝度向上が得られ、この部分が大幅に改善された。自動車に喩えればエンジンのポテンシャル、絵画に喩えるならキャンバスの品質と大きさとが拡大したと考えればいい。
余談になるが、今回Z8を視聴している途中で、広島カープのナイターを観た。HDDに録画された映像がたまたま画面に映ったのだと思うが、芝生の緑色に映えるユニホームの赤、球場のライトに照らし出されたヘルメットの光沢感──など、夜間試合の空気が妙に生々しく迫ってきた感覚だった。エネルギー感、エモーション感を感じさせながら、唯我独尊のクセっぽい色合いには陥らないバランス感覚は、ある種の洗練とモダンさも感じさせる。何度も言うようにこれは、従来の液晶テレビとは違う色だ。
もちろんパネルのポテンシャルが上がっただけで、ここまでの成果が得られるわけではない。例えばZ8の魅力である「艶やかな赤」にしても、思わず心が動かされるのは、それが(人間の記憶も含めた)自然なリアリティに基づいているからだ。明るさを手に入れたからといって、文字どおり「見たこともない」毒々しい赤になってしまっては意味がない(そんな例は結構あるのである)。そこで重要になるのがパネル自体の細かい微調整と、その使いこなし。いわゆる「絵づくり」と呼ばれる作業だ。今回Z8の映像を検証してみて、東芝の技術陣がじっくり時間をかけて新しいパネルのポテンシャルを引き出していることを改めて実感した。
象徴的なのは、やはり色における階調表現だと思う。分かりやすく言うと、色域が広がってより濃い赤や青が表示できるのに、色がツブれていない。真っ赤なバラ、エメラルドグリーンの海、それらの微妙な濃淡のグラデーションが細部まで繊細に見てとれる(もし店頭などでデモ映像を観る機会があれば、ぜひここに注目していただきたい)。高彩度でありながらきちんと輝度のグラデーションやディテール感を残せているのは、エンジニアによる作り込みの成果だ。
今回、東芝はパネル自体の開発とその作り込みに、トータルで約3年をかけている。特に、広がった色域を自然に見せる調整にはかなりの時間を費やしたという。もともと色というのは、明るさや解像度に比べて人の感覚に左右されやすい。パネル性能に合わせてただ機械的に色の表示領域を広げてやっても、かえって全体のバランスが崩れ、観る人に違和感を与えることもある。そのギャップを少しずつ埋めていく。
私が取材したエンジニアは「データベースと実際に表示された色を見比べ、人の感覚に合っていないところを経験値で少しずつ修正しながら、製品レベルに落とし込んでいきました。作業としてはREGZAの中でもトップレベルに時間と手間がかかったと思います」と明かす。その苦労は報われている。
その効果を端的に実感できるのが、例えばハイビジョンの放送だ。前述したようにハイビジョンの色規格は実世界よりもかなり狭く、表示できない領域も多い。しかしZ8シリーズは、これまでにない拡張された色空間で色を再現している。これは規格に圧縮されて送られてきたデータをテレビ側が上手く処理している証左であり、東芝が長年培ってきた技術とノウハウの効用だ。
もう1つ、今回導入された「ハイダイナミックレンジ復元」についても触れておこう。通常カメラで何かを撮影する際には、光が強く当たったハイライト部が白くつぶれるのを防ぐため、高輝度領域を圧縮して映像化している。この新機能は、圧縮された高輝度領域の復元を目指すもの。これまで白く飛んでしまいがちだったエリアに濃淡を生じさせ、立体感と臨場感を強調する効果が得られる。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス