組織の透明力

半沢直樹の戦略と派閥撲滅の秘策を考察する - (page 5)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)2013年08月28日 11時00分

(2) 社内のコミュニケーションを活性化すること

 社員が組織を超えてコミュニケーションできる場をつくり、活性化を図ること。特に社内ソーシャルネットワークを導入できれば強力な武器となる。オンラインで交流が促進されると、社内に「透明の力」が働きはじめ、社員は仲間の評判を得るために自発的に動き出す。組織異動があっても「上司からの評価」だけでなく「仲間からの評判」が受け継がれてゆくので、自らの評判を高める「内発的な動機づけ」が働くようになるのだ。チームワークを促進する教育やオフィスデザインなども併用するとさらに効果的だ。

(3) ポジティブなコミュニケーションを増やすこと

 殺伐とした行内会話を明るくしよう。特に社内ソーシャルネットワーク上では統制や評価をしないことが大切だ。10年間にわたる心理学研究(*3)から、チームに成功をもたらすためには、ポジティブな会話がネガティブな会話の少なくとも約3倍必要なことが分かった。理想的な比率は約6倍だ。職場で感謝や協力の言葉が増えると、驚くほど雰囲気が明るくなり、目に見えて信頼が醸成されてゆくはずだ。

(4) 少人数のチームに自律性を持たせること

 小規模チームを編成して権限委譲をすすめる。自分の行動がチームの結果に影響を与えることが意識できる規模が望ましい。例えば、社員が自律的に動くことで著名な米国スーパー、Whole Foods Market(ホールフーズ・マーケット)では、店舗内の平均8人のチーム――レジチーム、青果チーム、デリチームなどを基本単位とし、チームに驚くほどの自主性と責任を持たせて経営している。効率的なチーム規模は5~15人と考えられている。

(5) オープン・リーダーシップ教育をすすめること

 透明性の時代に必要とされているリーダー像は、役員室から社員を中央統制する大和田常務のスタイルと一線を画すものだ。オープンリーダーの力の源泉は「指揮権」「人事権」「情報統制」ではなく、メンバーへの奉仕や献身を通じて醸成された「共感」「信頼」「尊敬」だ。この古くて新しいリーダー像については、前記事「統制がきかない時代のリーダー像」に詳しく書いたので参考にしてほしい。

(6)組織としての哲学を共有すること

 組織がコミュニティとしての一体感を持つためには、共感される「使命」「ビジョン」「価値観」を共有することが重要だ。統制型の組織において共有されるのは「上から降りてくる予算」だけの場合がほとんどだが、それで組織の一体感を醸成することは不可能だ。「数字」は統制や分析には好都合だが、一人歩きして目的と手段を逆転させてしまう。「バンカーの矜持」を明確にして、全社員で共有することが大切なのだ。

(7) 個人の将来設計を支援すること

 もっとも、根幹にある悩みは「出向問題」だ。相互けん制に陥いるのも「行内に残れる社員」が極めて少人数であるためだ。抜本的に解消するには、社員個人の将来設計を「本気」で支援することだ。資格取得や開業講座、開業後のバックアップなどの独立支援制度。出向先の選択権を提供するマッチングサービス。プライベートの充実を図る社内講座やコミュニティ形成。透明性の時代において、出向社員、退職社員の好感度もブランド形成上で大切な要素だ。出向社員の立場に立った手厚い支援サービスこそ、末永い銀行の応援団を形成していくキーとなるだろう。

 頭取や半沢にとって最大の障害となる「派閥戦略」の撲滅においても、ここで掲げた「透明力」や「企業哲学」は強力な武器となるだろう。派閥には密室がつきものだし、派閥の目的は昇進だけで、そこに哲学がないからだ。銀行の持つべきことは「健全な産業を活性化させる」という崇高な使命、「人と人との信頼やつながりを大切にする」という価値観だ。見せかけの哲学に騙されるような間抜けな人間は銀行には一人もいない。綺麗事ではない。すべての意思決定において、業績よりも哲学を優先させることだ。

 これらの施策が実現できれば、頭取が目指す行内融和は促進されるはずだ。そもそも「リーダーの役割」とは、進むべきビジョンを示し、ジレンマに陥りやすい個人や部門を導くこと。それによって部分最適ではなく全体最適を実現するものだ。全社リーダーとしての中野渡頭取、部門リーダーとしての半沢直樹の奮戦が、東京中央銀行全体をより良い方向に導くよう祈念しながら、今週も日曜夜9時を楽しみに待ちたい。

参考文献

  • *1 「つきあいの科学」(R.アクセルロッド著)
  • *2 「社会的ジレンマ」(山岸俊男著)
  • *3 「幸福優位 7つの法則」(ショーン・エイカー著)

画像
斉藤 徹
ループス・コミュニケーションズ
1985年3月慶應義塾大学理工学部卒業後、同年4月日本IBM株式会社入社、1991年2月株式会社フレックスファームを創業。2004年同社全株式を株式会社KSKに売却。2005年7月株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。ソーシャルメディアの第一人者として、ソーシャルメディアのビジネス活用、透明な時代のビジネス改革を企業に提言している。講演回数は年間100回を超える。「BEソーシャル ~ 社員と顧客に愛される5つのシフト」「ソーシャルシフト ~これからの企業にとって一番大切なこと」「新ソーシャルメディア完全読本」「ソーシャルメディアダイナミクス」など著作は多数。

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