Quirkyを一言でいうなら、3カ月で新しいアイデアを製品化するものづくりのプラットホームだ。ユーザーが今までにない新しいアイデアをQuirkyのウェブサイトで提案すると、このオフィスの中で、アイデアが製品化に向けて歩みはじめる。
先ほどご紹介した島式の見慣れたオフィスには、その歩みに関係している。
アイデアから製品になるまで、何が必要だろうか。アイデアをイメージすることができるスケッチがあるとどんなものができあがるのか分かりやすくなる。そのスケッチには、今までにない機能的かつ特徴的なデザインも必要だ。そのデザインを実際に手に取ってみて、確かめてみるためのプロトタイプも大切だ。色は?名前は?パッケージや価格は?どんなターゲットが買いたいと思ってくれるか。こうした課題をクリアしていかなければならない。
Quirkyのオフィスの島は、入り口に近い方から、スケッチやデザインを手がけるチーム、プロトタイピング、マーケティング、エンジニアリング、パッケージデザイン、と分かれている。そして、プロジェクトは、1週間から2週間ごとに、関門を突破しながらオフィスの島をひとつずつ奥へと移動していく。各所で進めるか、戻すかを検討する議論の機会が設けられている。
製品作りが「モデル化」されており、作るもののアイデアによってデザインやエンジニアリングなどの問題解決に差はあるとしても、最短で3カ月、12週間で新しい製品を生み出す仕組みを社内に持っている。
そして先ほどのキッチンやバス、トイレなどのシーンは、実際にそこでプロトタイプを使って試してみたり、商品の使用イメージの撮影を行うなど、製品を作る途中の段階や最後の段階で利用する。オフィスの中に、アイデアが生まれてからできあがるまでに必要な全ての機能が揃っており、12週間かけて、社内をアイデアが駆け抜けていくようなイメージだ。
Quirkyのオフィスの中をステップアップしていくアイデア。それを生み出しているのは、Quirkyに登録しているユーザーだ。Quirkyではウェブサイトでユーザー登録をすると、日用品、GEとのコラボレーションを前提とした家電連携のアプリ、そしてiPhoneやiPadなどのApple関連のアクセサリの3種類のアイデアを提案することができる。
ユーザーは自由に発想できる反面、新たなアイデアを提案する前に、似ているアイデアを紹介しこれと違う場合のみ新たなプロジェクトを立てられる。Quirkyの中で同じ種類のアイデアが乱立しないようにする工夫だ。また裏を返せば、同じアイデアを持っている人を発見することができ、ゼロからアイデアを考え出さなくても、他の人のプロジェクトに参加して、欲しい物やアイデアを実現させることもできる。
オンラインコミュニティではプロジェクトの進捗が報告されており、またライブストリーミングでプロジェクトに関する投票やネーミングに関するフィードバックなどを行うイベントも活発に開催されている。ニューヨークのQuirkyオフィスから配信されるが、参加者はビデオストリーミングなどを通じて、自分の興味があるプロジェクトの現状を見届けることができるようになっている。
こうしたアイデア提案型の製品開発では、製品化された場合、ロイヤリティが発案者に支払われる仕組みを採用することが多いが、Quirkyも同じ仕組みだ。それだけでなく、プロジェクトに参加したり、投票や提案を行った他のQuirkyユーザーは「インフルエンサー」として、彼らにもロイヤリティが支払われる。発起人だけでなく、その製品を強くサポートして実現に貢献した人も評価されるのだ。平均的に、販売価格の39%ほどをロイヤリティ用に確保しており、発起人とインフルエンサーでこれを配分するそうだ。
ロイヤリティというインセンティブはあるが、40万人を超えるQuirkyユーザーによる評価や提案、投票などによって、プロジェクトが進むか、再考が必要か、と言った判断がなされることになる。Quirkyのオフィスは十分立派な場所であるが、Quirkyのオンラインコミュニティでつながる膨大な数のユーザーの参加が、プロジェクトをより洗練させ、また確実に成功するものづくりを行う場を作り上げている。
Quirkyで出来上がった製品を見ると、今までになかった、かゆいところに手が届く、なぜ便利なのかすぐに理解できる、といった言葉をつい添えたくなるようなものばかりだ。すでに300を超える製品が開発され、ますますコミュニティの活発さに磨きがかかっている。
日本でも無印良品が「モノづくりプロジェクト」として、ユーザーの声を聞いて新商品を開発する取り組みをしている。たとえば、2002年に発売された「体にフィットするソファ」は、既に定番商品として10年以上販売が続く。またQuirkyと同じようなクラウド型ものづくりサイト「WEMAKE」が5月にクローズドβとして立ち上がった。
日本でも、よいアイデアを集めて新しい製品を作る仕組みが機能していくことが分かる。さらに日本には、古くからの伝統芸能や、それを昇華させたモダンデザインも備わっている。昔ながらのデザインや風習と現在のライフスタイルの接点をつむき出せれば、世界にはない新しいスタンダードを作り出せるのではないだろうか。
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