さて、少し唐突に始まった感がある本連載「モバイルライフ」について少し説明をしておこう。
モバイルライフと聞くと、真っ先に思い浮かべるのが、今まさに全盛の時代を迎えているスマートフォンがある生活だろう。人々はポケットにある端末で、ウェブ、メール、ソーシャルメディアなど考え得るすべてのネットサービスを利用している。人々が、「移動」しながら「つながり続ける」ことを前提とした世界が、モバイルライフの姿だ。
モバイルが変化させるのは、通信やコミュニケーションのあり方だけに留まらない。移動やつながりがより重視されるようになり、ライフスタイルやワークスタイル、ビジネスなどに影響を及ぼす。効率的な働き方や、理にかなったビジネスが生まれ、都市の形も今までとは異なる新しい「居心地の良さ」を持つようになる。今、我々はまさにその出発点に立っている。
筆者は2011年から米国に住んでいるが、米国でモバイルに火がついたのは、2012年だったと認識している。日本からすれば、「AppleやGoogleなどのモバイルプラットホームが世界を席巻しているのに遅いじゃないか」と思われるかもしれない。だが米国の都市で暮らす者の感覚としては、人々がモバイルにシフトしてまだ1年ほどというのが正直なところだ。日本はモバイルライフ――特にライフスタイルや街場のコミュニケーション――に関して、5年から10年ほど米国の先を進んでいるのではないか。
本連載では、スタートアップのCEOやキーパーソンへのインタビューを通して、あるいは米国や日本でのトレンドをとらえて、こうしたモバイルライフへの変化を追いかけていこうと思っている。
今回もニューヨークで出会ったアントレプレナーを紹介する。「Craft Coffee」はコーヒー豆のオンライン定期購入サービスを手掛けるスタートアップだ。毎月24.99ドルで、コーヒー豆が12オンス(340g)届くというものだが、このサービスのユニークなのは、毎回3種類の豆が届くことだ。
米国の焙煎所やスーパーなどで豆を買おうとすると、たいていの場合、最低単位が12オンス(約340g)だが、だいたい小さなコーヒー1杯をドリップするには0.5オンス(約14g)程度ですむ。そのため12オンスも届いてしまうと、ひとり暮らしやコーヒーを飲む人が少ない家庭では、1カ月弱同じコーヒー豆を飲み続けることになる。だがCraft Coffeeでは、毎月3種類の新しい豆に出会うことができる。
ここで少し、米国のコーヒー文化のバックグラウンドを説明しておく。
日本でも人気のコーヒーショップであるスターバックス(スタバ)だが、米国でも都市では1ブロックに1店舗ずつスタバがあるほどの飽和状態。もちろん日本で覚えた隠しコマンドのようなオーダー――たとえば「ダブルトールノーファットバニララテ」――というものは米国でも通用する。そして、米国の人は「おいしいコーヒーの味はスタバによってリセットされた」と語ることもあり、その急拡大に対して一定の評価を与えている。
しかし米国のコーヒーカルチャーは現在、スタバを第2の波とすると、第3の波、「サード・ウェーブ」に突入している。スタバ以前からの大規模流通を主としたコーヒービジネスから漏れてしまったコーヒー農園の荒廃や価格の問題、労働環境など、生産国軽視を問題視し、これを解決するコーヒーの楽しみ方を確立することが、サード・ウェーブのコンセプトだ。
これによって「マイクロ・ロースター」と呼ばれる小規模焙煎所が、コーヒー豆の生産地と直接取引をし、これまでに比べて少量の取引を成立させる、コーヒービジネスのダウンサイジングが起きている。結果として、多数の焙煎所が生まれ、味を競うようになってきている。また、少量の取扱の豆を混ぜずに楽しむため、味の均質化ができないことを逆手に取り、生産地や品種、その年の出来栄えなどからくる味の違いを楽しむ、まるでワインのような価値観も根付いてきた。
こうした背景から、数多くの焙煎所がさまざまな味を作り出しており、その違いを楽しめるパッケージを提案するCraft Coffeeは、シンプルながら、コーヒーの味を知り、好みを作り出す、珈琲との新しい出会いの場を演出している。
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