「当社としては同氏による過去及び将来のレポートは当社への投資判断の一助とはなりえないと判断しており、投資家の皆様におかれても参考とされないようお勧め致します。また、当社は今後同氏の取材については一切お受けしません」――楽天が7月2日午後7時を過ぎて東京証券取引所で開示した情報は、このような文章で締めくくられていた。
楽天が開示した内容は、同社をカバーする三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニアアナリスト、荒木正人氏が6月21日に発行したレポートに関する反論だ。
レポートでは、楽天のレーティングをNeutral(中立)からUnderperform(弱気)に格下げしている。楽天代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が産業競争力会議の議員に内定した2012年12月末から2013年6月20日の終値にかけて、同社の株価は78.2%上昇しているが、これが過大評価であり、「割高感がある」としている。
楽天ではこのレポートについて疑問があるとして荒木氏に面会し、以下の理由でレポートの改善を要望したという。
(1)収益構造が異なる多様な事業を運営しているにも関わらず、コスト予想をグループ合算ベースでのみ行っているため、事業別の利益分析がほとんどなされておらず、分析が極めて浅い。
(2)業績予想に用いられた法人税率の根拠が不明。特殊要因が発生した2012年度の実効税率と同水準の57%を2013年から2015年の実効税率に適用しているが、根拠がまったく説明されていない。
(3)株主価値の算出方法がファイナンス理論の観点で誤っている。レポートでは、純利益に倍率を乗じた「修正時価総額」に「ノンオペレーティングアセット」を加算して時価総額を算出している。しかし、純利益は金利支払い後の数字であるにも関わらず、「ノンオペレーティングアセット」から借入金を控除している。
面会の結果、(1)については検討に時間を要すると荒木氏の回答を得ており、(2)については7月1日発行のレポートで税率の変更を確認したという。(3)に関しては楽天の主張する理論上の誤りが修正されたものの、分析の貧弱さについて改善が見られなかったと主張。その上で冒頭のとおりに、荒木氏を名指ししてレポートが投資判断の参考にならないとし、取材についても拒否するいわゆる“出禁(出入り禁止)”にするとした。
「(1)と(2)に関しては2年前ほど前からお願いしてきたことだ」――楽天財務部は今回の開示についてこう回答する。「今までも話してきたし、四半期ごとのインタビューでもお願いしてきた」(楽天)。7月1日のレポートで楽天の疑問点の一部は修正されたが、すでに両者の話し合いは「見解の相違」という範ちゅうを越えていたと説明する。
また、開示した文書にアナリストの実名を挙げた点については、「他社だとそういうこと(開示)もせずに出入り禁止をすることがあると聞いている。そうすると結局何が問題なのか本人にも分からないこともあれば、外にも分からない。『(開示せずに)こっそりやればいい』と言われるが、もう2年間やってきた」と説明する。
加えてメディアの記者であれば会社名やメディア名で記事が出ることも多いが、アナリストの場合はその人の名前でレポートが出ると指摘。「仮に名前を入れなくても、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で当社をカバーしているアナリストといえば荒木氏だと分かる。名前を出す、出さないで(意味は)変わらない」(楽天)とした。
楽天はこのように主張するが、アナリスト個人を名指しで批判するようなプレスリリースや開示情報はまず見かけることがない。これについては、「何件か参考にした会社がある。オリックスやアイフル、大和銀行など。アナリストの具体的な名前こそ挙がっていないがソフトバンクもだ。ケースとしては少ないが、まったく初めてという訳ではない」(楽天)とした。
さらに楽天は投資家に対しても同氏のレポートを参考にしないよう呼びかけている。これは投資家にとってある種の圧力になるという見方もできるが、「圧力ではない。セルサイドのアナリストは『楽天株を買うべき』『今は持っていて』といったメッセージを出しているが、我々はこういう声を上げることが普段まったくできない」(楽天)と反論する。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス