サンフランシスコのMoscone Centerで開催された年次開発者イベントWWDC 2013 で、iOS 7がアナウンスされた。開発者向けには即日プレビュー版が提供され、製品版は2013年秋の予定だ。
今回の新バージョンは、iPhoneが発売され「iPhone OS 」として登場した2007年から初めてとなる全面的なデザイン改定となった。WWDC 2013の会場では展示がなく、残念ながらiOS 7を搭載した実機を見ることはできなかったが、iOS 7によってiPhone、iPadはどのように変わっていくのだろうか。
WWDC 2013の基調講演が始まる際、白い背景に黒い線や図形、文字を使ったアニメーションの映像が流され、これまでと少し違った印象を覚えた。白い背景はおなじみだとしても、これまでは製品のアップや写真などを多用したイメージ作りをしてきたAppleが急にシンプルすぎる映像を見せたことからも、iOS 7が新しいデザインへと移行する伏線として見られた。
おそらくデザインの1つ1つの要素は、スマートフォンの世界ではさほど珍しいものとは言えないだろう。
図形と文字を多用する特徴はMicrosoftがWindows Phoneで採用し、Windows 8でPCに持ち込んだ「モダンデザイン」で実現されている。また細い線のフォントや過度にシンプル化したボタンは、GoogleがAndroidやスマートフォン向けウェブサイトで見せているイメージと近い。
またメールアプリは、リストをスワイプして機能を呼び出すアイデアは、iOS向けアプリ「Mailbox 」で慣れたものであり、カレンダーアプリの1日の予定で、画面上部にカレンダーを表示する構成は、Googleカレンダーと連携できるiOS向けアプリSunriseで普段から便利に使っている。
ここで、Appleがプロダクトとソフトウェアの両方を作っていることを思い出すことになる。しかも、その双方を、Jonathan Ive氏 が担当し始める、初めてのiOSであることも重要だ。
2012年にリリースされたiPhone 5は非常に薄型化されたが、iOS 7のホーム画面では、まるで画面が端末の底面まで奥行きを持っているような感覚を覚えさせることになるだろう。iOS 7では重なりと透過がデザインに用いられている。壁紙 → アイコン → 通知センター・コントロールセンターという「重なり」とiPhone 5の端末の厚みは、映像を見る限り、非常に心地よい一体感が味わえそうだ。
iOSだけの画面の中のデザインで判断するのではなく、デバイスとソフトウェアの組み合わせで評価しなければ、強みを正確に表現できないだろう。それだけに、今秋にはiOS 7世代に合わせた新しいデバイスをデビューさせられると、より分かりやすいはずだ。
1点、日本人として注目しているのは、日本語フォントの実装だ。GoogleにしてもMicrosoftにしても、欧文フォントは線の細い書体とレイアウトで非常に美しいインターフェイスを実現しているが、日本語まで気が使われているとは言えず、デザイン要素をフォント主体にしているため、日本語環境での違和感が大きい。
現在iOSやOS Xにはヒラギノ書体がW3、W6の2種類のウエイトで搭載されているが、欧文のインターフェースの雰囲気を引き継ぐには、さらに細いフォント、例えばW1のウエイトの搭載が行われると良いのではないだろうか(参考:書体見本)。
デザインが一変するが、これとは対象的に、搭載されている機能は成熟が進む。そして、Appleとて、成熟の方向性は独自のアイディアではなく、ユーザーの使い方やニーズに応えるものになっていくのだ。特に印象的だったのは、カメラ・写真に関連する機能の変化だ。
Instagramに端を発してFacebook、Twitterと次々にフォトフィルタの機能を導入しており、カメラアプリも非常に多数リリースされ人気のあるカテゴリとなった。ならば、とAppleはカメラの撮影機能に、正方形の画像撮影の機能と、ライブフィルタ機能を導入した。ライブフィルタ機能は撮影してからフィルタをかけるのではなく、撮影時にフィルタがかかった状態を見ながらシャッターを切ることができるようになる。
撮影した写真の分類にも力を入れている。「写真」アプリは一新され、Momentという写真分類の単位が導入された。デモを見ると、日付や場所に応じて写真が自動的に束ねられ、より見つけやすくなった。分類には地名が割り振られるため、どこで撮影した写真群なのかが一目瞭然になる。右の写真はiPhotoの「イベント」による分類。
また一覧性も高めている。これまでのように正方形のサムネイルが並ぶプレビューから、写真がレイアウトされた表示を行うことができるようになっており、写真アプリの中をなぞるだけでアルバムを楽しむような感覚が生まれる。月単位、年単位で極小のサムネイルを並べてモザイクのように表示し、指でなぞると写真が拡大される仕組みだ。
共有機能の強化も施される。Appleが新たな機能として追加したのは、OS XでもおなじみのAirDropだ。Wi-Fiを介して、近辺にいる友人のiOSデバイス間で直接写真などを送ることができる。ワイヤレスでインスタントな共有は、iCloudやメッセージ、メールなどの他の機能を使う必要がなくなり、なによりデータ通信を使わずに写真を気軽に送り合える。
スマートフォンでは重要性を増す写真の撮影環境と閲覧環境、そして共有する方法をOSレベルで見直して更新している。ユーザーにとっては、よく使う機能を追加アプリなしで一連の操作の中で利用できるようになり利便性が高まる。一方で、カメラアプリや加工アプリ、アルバムアプリなどの機能と重なっているものもあり、アプリ開発者にとっては自分のアプリの存在価値が問われる事にもなりかねない。
Appleは報道向けにも公開している基調講演で新しいOSを発表する際、キーとなる機能を個別に紹介するほかに、機能の一部や新しいAPIを披露するスライドを用意する。iOS 7についても、同様のスライドを見せている。その中から注目している機能について触れる。
なお、盗難対策は大きなトピックとなる。スマートフォンの盗難被害が後を絶たず対策が求められてきたが、iOS 7では、元の持ち主が盗難や紛失で端末内のデータを削除した場合、そのApple IDでログインしなければ端末ロックの解除や削除ができない仕組みを取り入れ、盗難されたiPhoneがすぐに利用できないようにしている。
FaceTime Audio:FaceTimeを音声のみで利用できるようにする機能。これはすなわちSkypeやLINE等と同じように、携帯電話会社の回線を使わず、データだけで電話がかけられる機能だ。FaceTime、iMessageともに、Apple IDとその端末の電話番号での通信が可能であり、音声通話・ビデオ通話・メッセージの全てをAppleプラットホームで実現できるようになる。携帯電話会社にとっては、データ通信主体のビジネスへの完全移行の最終通告となる。
マルチタスク:これまで「擬似的な」マルチタスクの対応とされてきたが、iOS 7からは完全なマルチタスクになる。ただ電力消費を抑えるため、プッシュ通知によるトリガーやスケジュールごとの動作などの工夫が施される。
通知の同期:iOS、OS X双方の通知を同期することができるようになる。OS XでiOSデバイスに届いた通知を表示することができるデモを披露していた。
地図のブックマークの同期:OS Xに地図アプリが搭載されたことから、地図のブックマークも同期される。Macで見つけた場所や検索したルートをiPhoneで閲覧することができるようになる。
Weibo対応:Appleに限らず、中国市場への対応は非常に大きな課題だ。中国で人気のミニブログサービスWeiboへの対応は、米国や日本でのTwitter対応と同じように短いソーシャルメディアへの情報共有手段の提供となる。
アプリの自動アップデート:AppStoreを時々開いて、アプリの一括アップデートを行うという動作が省略される。これは開発者にとってもアプリを最新の状態に保つことができるようになり、メリットとなる。
AppStoreの一括購入:学校や企業などで有料のアプリを購入する際、これまで個別のApple IDでの購入を行わなければならなかったが、この点が改善される見込み。
アプリごとのVPN:これまで通信全体のVPN経由でのアクセスに対応していたが、アプリ単位でのVPN対応が可能になり、エンタープライズ向けの対応が可能になる。
ダイナミックなUIやフォント:これまでiOSは決まった端末の画面サイズに合わせたアプリ開発が行われてきたが、iOS 7ではAPIの新機能にダイナミックUIとフォントサイズの記述が見られる。推測するに、異なる画面サイズへの対応やフォントサイズの変更を前提としたアプリ作りへと移行するのではないだろうか。これは、ユーザーに合わせた文字サイズの変更や、異なる画面サイズへの対応をしやすくする布石になるだろう。
iOS 7にはこれまで紹介した以外にも、音楽ストリーミングサービスiTunes Radioや、パスワード管理の一元化を行うiCloud Keychain、Siriの向上、自動車へのインテグレーションなどの新機能が搭載されている。実機を触ることはできなかったが、今までの操作性からかけ離れすぎず、デザインと使い勝手を新しいものにするちょうどよいアップデートが待ち受けていると思われる。
iOS 7リリースは新しいiOSデバイスのリリースに合わせることになりそうだが、デバイスとソフトウェアのコンビネーションの妙を見せてくれることになるだろう。
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