“ゴールデンイヤー”という仕事--フィリップス、サウンドエンジニアに聞く

加納恵 (編集部)2013年05月09日 12時06分
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フィリップスのオーディオ製品には、すべてに「ゴールデンイヤー」が関わっている。“黄金の耳”という称号を持つ人物は、それをどうやって手に入れ、製品化にどんな役割を果たしているのか。世界に57人しかいないゴールデンイヤーのうちの1人、Matthew Dore(マシュー・ドーレ)氏にお話を伺った。

すべてのオーディオ製品に関わる“ゴールデンイヤー”とは


フィリップス コンシューマーライフスタイル サウンド&アコースティックス シニアマネージャー(ゴールデンイヤー)のMatthew Dore氏

--お仕事の内容を教えて下さい。

 フィリップスでは、ベルギー、香港、中国、シンガポールと4つの開発拠点を持っています。そのうちベルギーは新コンセプト商品の開発やリサーチを行なう「イノベーションラボ」で、それ以外が製品開発の拠点になっています。私は「デザインラボ」がある香港の開発拠点で、サウンドエンジニアとして製品開発に携わっています。

 デザインが音質に与える影響は大きいですから、デザインチームとサウンドエンジニアが、最初の段階から一緒に開発を行なうことは非常に重要なポイントです。

 私達はすべてのオーディオ製品に対して「ベスト イン サウンド」を目標に据えています。これは「Fidelio(フィデリオ)」のような上級ラインのモデルだけでなく、全モデルに共通するコンセプトで、このコンセプトを開発段階から製品化に至るまでキープするために、音質のチェックが必要になってきます。そのために生まれたのが音の専門家であるゴールデンイヤーです。

--具体的には製品開発の工程でどんな役割を果たしているのですか。

 オーディオ製品は、開発工程において最低でも3回の「ブラインドリスニングテスト」を実施します。これはカーテンの向こうに開発中の製品と競合他社の製品を並べ、音を聞き比べるもので、このテストにはゴールデンイヤーでなければ参加できません。また、このテストで参加者の65%以上がフィリップスの方が音が良いと判断しなければ、製品化はされません。

 テストは1つの製品につき最低3回、大抵の場合はその倍となる6回程度を実施します。また新コンセプト製品であれば、それ以上の回数を重ねる必要があります。ブラインドリスニングテストを経ることで、製品は当初のコンセプトをキープした音質でユーザーの手に届けられます。

--ゴールデンイヤーになるにはどんな工程を経るのですか。

  • ゴールデンイヤートレーニングは5つのレベルに分けられている

 社内独自のトレーニングプログラムが設けられており、だれでも受けることができます。ただしテストにパスしなければゴールデンイヤーにはなれません。

  • レベル5となるPlatinum earsでは27の帯域を聞き分けなければならない

 テストには「Basic listening aptitude」から「Platinum ears」まで全部で5つのレベルがあり、レベルが上がるごとに聞き分ける帯域や質問数が増えていきます。例えば、レベル2の「Bronze ears」では3つの帯域を聞き分ければクリアできますが、Golden earsでは9、最上級のPlatinum earsでは27の帯域を聞き分けなければなりません。このテストをクリアして、さらにトレーニングを積んだ人だけが、ゴールデンイヤーとしてブラインドリスニングテストに参加できるようになります。

--生来の耳の良さというよりも、鍛えられた耳という印象ですが、向き不向きはありますか。

 もちろんありますが、テストをやってみるまではわかりません。ただトレーニングに入った段階で、難問を簡単にクリアしていく人はたまにいます。そういう意味では楽器のレッスンに似ているかもしれませんね。見た目では誰が上手に弾けるかわかりませんが、弾いてみると上達の早い人がいる。ゴールデンイヤーにも音を聞き分ける上達が早い人がまれにいます。

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