1月11日、サイバーエージェント・ベンチャーズにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(伍)」と題したトークセッションが行われた。エンタメ系コラム執筆などの活動を行っている黒川文雄氏が主催・コメンテーターとして、エンタテインメントの原点を見つめなおし、未来についてポジティブに考える会となっている。
今回は「次世代型ゲーム開発論」をテーマに、さまざまな立場と役割でゲーム開発に携わる4名をゲストに、ゲーム開発ツールの「Unity」を話題の中心としてゲーム開発のあり方などについて語られた。
登壇したのは、ゲーム企画や開発などに多数携わり、投資家やブロガーとしても知られるイレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役の山本一郎氏、Unityの普及に努めているユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社の日本担当ディレクター大前広樹氏、LINE向けゲーム開発に携わるNHN Japanの馬場一明氏、LINE向けに近日配信予定のゲーム「イージーダイバー」を開発中のゲームクリエイター飯田和敏氏。
すでにゲーム開発ツールとして普及しているUnity。ゲーム開発環境(エディタ)とゲームの実行環境(エンジン)を合わせた統合開発環境でゲームを実際に動かしながら開発を行えることが大きな特徴となっている。またPCやスマートフォン、最新の家庭用ゲーム機まで幅広く対応しているのも特徴だ。
ゲームを面白くするにはトライアンドエラーの回数をできるだけ増やしたほうがいいのだが、これまでは扱うデータが多様であることや、カスタマイズしたいろんなツールを用意しなければならず、ワークフロー設計に手間がかかっていた。さらにワークフローやツールに縛られて、ノウハウの共有化がされていなかった問題点を解消したことも最大のメリットであると説いた。
「ユニティ・テクノロジーズの社是として、ゲーム開発を民主化する、つまり誰でもゲームが作れる世界にするというのがある」(大前氏)というように、コスト面の安価さも特徴。これまでは多くの場合、機密保持契約(NDA)が必要で情報の共有ができなかったり、専用のサポートが必要だったり、プロジェクト単位での契約により多額のライセンス費用が必要になっていたという。
一方のUnityではNDAが不要で情報はオープン。そして無料版が用意され、ゲーム制作に関する機能は搭載し、商用販売も可能。サポートはコミュニティによる助け合いが基本となるが、スタートアップの企業にとって導入しやすいのも利点となっている。またフルセットでも40万円強で導入でき、ライセンスもユーザー単位で買い切りのため、複数のプロジェクトで使うことができる。
近年では利用者が世界規模で急増。2012年9月の段階で利用者数は世界で120万人。日本においては2010年から2012年にかけて4800%に成長。有料版となるUnity Proを利用する国内企業は570社以上、国内における開発者数は約9万人となっている。
馬場氏はUnityについては「3Dゲームを作るにはすごくいい」と評価しつつ、現在開発中のLINE向けゲームには導入していないようで「今さら戻すことはできないので、一旦完成したものを載せかえることも検討している」という。また飯田氏が開発している「イージーダイバー」はUnityを採用している。各種ゲームエンジンを評価として決め手になったのは、やはりコミュニティの存在だったという。「ユーザーによってコミュニティを作ってQ&Aのやり取りが行われていることが開発者にとって魅力。これからのゲームエンジンの開発は、メーカーによるサポートよりもコミュニティによる永続的な運営が重要になるのでは。機密性の高かったゲーム開発に対して、Unityは風通しの良さを促進する不思議な力があると感じている」(飯田氏)。これを受けて大前氏は、ここ最近はCEDECをはじめとしてゲームの開発環境が徐々にオープンになってきたとし、Unityはその流れに乗れたと振り返った。
米国の高校生2人がiOS向けにゲームをリリースしヒットし法人化までした例を挙げ、ゲームを作ることに対するハードルを下げたことも語られた。大前氏は、これまでアーティスティックなタイトルは開発期間が長期に及ぶため、大企業によるサポートがあって成り立つことが多く、制約を課せられることもあった。しかし、Unityによりサポートが無くとも予算と規模次第では自らのクリエイティビリティによってアーティスティックなタイトルの開発が可能となり、クリエイターが自由に創造性を発揮しやすい環境になったという。
また大前氏は続けて、ゲームを作りたいと思う人が「とりあえずゲームを作る」ということができる環境も大きいという。ゲームを作りたい人が、何を作りたいかハッキリしない状況はありつつも全然恥ずかしいことではなく、むしろたくさん作らないと見えてこない。漫画や小説などはなんとなくの落書きや思いつきのメモからでも「とりあえず作る」ことができるが、ゲームではその環境がなかった。「とりあえず作るというのを繰り返すことによって、初めて作りたいものが言えるようになる」(大前氏)とし、Unityがゲーム作りの経験やクリエイティビリティの下地、裾野の拡大に繋がるのではと語った。
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