「米国Kindleストアが日本向けの洋書の価格を値上げか?」というニュースに対して、具体的な調査をもとに、現時点で分かっていることをまとめた。日本人は再販制度のもと「本の価格はいつでも、どこでも同一」という世界で長い間過ごしてきた。
しかし米国では各種ディスカウントによって、街の大きな書店、小さな書店、あるいはスーパー、または大学生協とでは、本の価格が違って当たり前、セール期間中に買い損ねればまた値段が上がることも当たり前である。
フランスのような再販制がある国でも、海外からの書籍については複数の版が入り乱れ、電子書籍も同様であることは、この調査から読み取れる(前述のように、日本でも複数の電子版が買えてしまう)。
電子書籍は国境を超えて提供されるサービスであり、日本人にとっては、今まで考えてこなかったような文化的な風景をもたらす可能性がある。
その意味でKindleの日本進出は、単なるサービスの輸出ではなく、一種の文化の輸出につながる可能性がある。実はKindle日本上陸に前後して、ライバルの書籍・電子書籍ストアは、積極的なポイントキャンペーンに打って出ている。Kobo、紀伊國屋BookWebなどである。
これなども一種定価の崩壊ともいえるわけで、その先行きからも目が離せない。意外と近い将来に「電子書籍の価格は(実質)書店によって違って当たり前」になり、それが「紙の本も違って当たり前」、つまり再販制度の崩壊に結びつく予兆さえ感じさせる。
もう一点、各国の電子書籍の価格の差、そして米国の独禁法裁判と国際的な電子書籍流通との関係を考えると、電子コンテンツという本来的に国の壁を超えていくサービスと、現在の国を支える法制度が、ある種の矛盾や軋みを生じていることが分かる。
今回試してはいないが、例えばインドとフランスのアカウントを作って、安い方の国で電子書籍を購入するようなことだってできそうだ。またある国のクレジットカードやアカウントから、日本のKindle Storeを利用した場合になんらかの抜け道が生じるかもしれない。
その時、たとえ国内における価格決定権を出版社が握っても、何らかの抜け穴を通じて、消費者がより安く商品を手にしたりする可能性を排除できるのだろうか?
米国のアマゾンにログインすると、co.jpとcomのアカウント統合の案内が表示される。「米国の.comのアカウントと日本のco.jpのアカウントを統合するとライブラリーがひとつになって便利」とのことだが、本稿で説明したような価格差の問題がはっきりするまでは、統合は控えておいた方がいいだろう。筆者がテストした時点では、Paperwhiteでは、日米アカウントの切り替えは簡単にでき、それまでダウンロードしたコンテンツは消えなかった。アプリだけで利用する場合も、クラウド上にあるコンテンツはアカウント切り替えでいつでもダウンロードできるので、しばらくは様子を見ることをおすすめしたい。
日本の場合、日本語という壁に守られているから、と安心していると、国外からのアクセス(在外邦人のことを考えると、国外販売なしというわけにはいかないだろう)によって思わぬ事態が現出しないとも限らない。今回のKindle本価格問題は、このように、出版界や電子出版界にとって、見た目よりはるかに大きな問題をつきつけている、と筆者は考える。
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