「どうしてもフリックに慣れなかった」--スマホ版「Google 日本語入力」に新配列が生まれた理由

藤井涼 (編集部)2012年10月19日 11時00分
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 グーグルは10月4日、Android版の「Google 日本語入力」に新たなキー配列「Godan(ごだん)キーボード」を追加した。これにより、従来のケータイ配列、QWERTY配列にGodan キーボードを加えた3種類から入力方法を選べるようになった。Android 2.1以上を搭載した端末に対応しており、最新版をダウンロードすることで利用可能。キー配列は設定画面から変更する。

 Google 日本語入力は、新語や芸能人の名前などを網羅的に収録したPC向けの日本語入力ソフトとして2009年12月に公開。それから2年後の2011年12月にスマートフォン(Android)版の提供が開始された。Android版は、「メールを書く」「地図を検索する」といった、モバイルでよく使われそうな語彙を中心に辞書が構築されており、リリースから約10カ月ですでにPC版のダウンロード数を抜いているという。

 新たに搭載されたGodan キーボードは、スマートフォンで快適にローマ字入力ができるようにデザインされている。通常のケータイ配列は4段だが、新キーボードは画面左側に母音(A、I、U、E、O)が縦に5段に並び、中央と右側に子音(K、S、T、N、H、M、Y、R、W)が並ぶ、特殊なキー配列となっている。両手で入力する場合は、右手で子音を、左手で母音を入力すると特に快適に入力できる。


新たなキー配列「Godan(ごだん)キーボード」

 PC版のリリース当初から日本語入力の開発に携わっているソフトウェアエンジニアの小松弘幸氏によると、「フリック入力にいつまでたっても慣れなかった」ことが、Godan キーボード開発のきっかけになったという。「フリックは慣れたらとても気持ちよく入力できるいいキーボード配列だと思うのですが、頭では理解できても体がついてこない。そこで、きっと違うアプローチはあるだろうし、そういうものを導入することで、私と同様に喜んでくれる人がいるだろうと思い、デザイナーの石塚さんに相談しました」(小松氏)

  • 左から、グーグル ユーザーエクスペリエンス デザイナーの石塚尚之氏、ソフトウェアエンジニアの小松弘幸氏、椎野裕樹氏

 相談を受けたユーザー エクスペリエンス デザイナーの石塚尚之氏も、フリック入力が苦手で、QWERTY配列を使うことが多かったという。「フリック入力でも、よく使うキーとあまり使わないキーがあることが分かり、それをうまく配列できないかなと思っていたところに、小松さんから提案をもらいデザインのモックを作り始めました」(石塚氏)

 実はGodan キーボードの開発は、Android版をリリースした2011年12月以前から水面下で進められており、公開までには石塚氏によって100通り以上のモックデザインが用意されたそうだ。その後、ソフトウェアエンジニアの椎野裕樹氏らによって、それぞれのモックをベースにしたサンプルデモが開発され、社内での度重なるテストを経て、現在の5段のデザインに落ち着いたという。

 石塚氏は、テスト参加者の入力時の手の動きや無意識に行っている動作なども細かくチェックし、都度それらをデザインに反映していったという。「参加者に、なぜそこでその操作をしたのですかと聞くと、本人も無意識だったため『そんなことしてましたか?』と驚かれることもありました。けれど、そういうものを1つずつ紐解くことで、いろいろな課題も見つけることができました」(小松氏)


100種類以上のモックデザインを用意してテストを繰り返した

 そうして完成したのがGodan キーボードだ。「Godan(ごだん)」という名前は、キー配列が5段だったからというシンプルな理由で付けられたそうだ。開発時はラテン語で「5」を意味する「Quinque(クインク)」のコードネームで呼ばれていたが、「もっと取っつきやすい名前にしようということでGodanになった」(椎野氏)という。

 Godan キーボードでは、濁音や半濁音は「濁点/半濁点キー」で入力することもできるが、子音のフリックでも入力できる。たとえば、Hキーを右フリックすると「B」(は→ば)が入力でき、同様にHキーを左フリックすると「P」(は→ぱ)が入力できる。また数字も下フリックで入力可能だ。さらに通常ローマ字入力では使用しない「Q」や「C」といったキーもすべて搭載している。

 「ユーザーが文字入力の際に、すごく不便に感じていることとして、キーボードの切り替えがあります。そこで、新配列ではすべてのキーを搭載し『16時に渋谷駅で待ち合わせ』といった文章でも切り替えなしに変換できるようにしています」(石塚氏)

 一方で、シンプルな使いやすさも追求しており、たとえば数字の色を薄くすることでローマ字を際だたせたり、「/」や「『』」といったそこまで頻繁に使われないであろう記号などは、キーにタッチするまで表示されないようになっている。

  • 濁音・半濁音の入力方法

  • 句読点など記号の入力方法

  • 入力時に親指同士がぶつからないように、中央のK、S、T、Nのキーは左にフリックできない

 さらに、中央のK、S、T、Nのキーは左にフリックできないように、あえて左側にアルファベットや数字を置かなかったという。「両手打ちの際には、A、I、U、E、Oのところに左手の親指がくるはずなので、右手でフリックすると、指がぶつかってしまう。(左にフリックできないようにすることで)リズミカルに打てることは重視しています」(椎野氏)

 斬新な入力方法で注目を集めたGodan キーボードだが、リリース後のユーザーの反応は賛否両論だった。その内容は、フリック入力に慣れているユーザーからは不評で、逆にフリック入力に慣れていないユーザーからは好評というものだった。そのためフリック入力が苦手なユーザー向けに開発したキーボードとしては、一定の評価を得ることができたと小松氏は語る。

 「Godan キーボードが目指したところは、入力の速さよりも気持ちよく入力できること。やはり慣れないフリックやQWERTYを使うなら他にしっくりくる入力方法を提供したいという思いがありました。そういう意味では、フリック入力に慣れている方には引き続きフリックを使っていただきたいと思います」(小松氏)

 長きにわたる試行錯誤の末に公開されたGodan キーボード。フリック入力が苦手な人は一度試してみてはいかがだろうか。

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