こんな鮮烈なSteveとの思い出深い出会いから始まり、さまざまなことをやってきた。その経験から最近のAppleを見ると、どうもおかしい。
今回「iOS 6」になって地図の問題が騒がれていて、Tim Cookが謝罪したけれども、あれはあり得ない。まず、この完成度で出すことがあり得ない。かつ、絶対に謝らない。そして、担当した人は速攻クビだろうな。
たとえば、「MobileMe(個人向けの有料クラウドサービスでiCloudの前身ともいえる。2012年6月末に終了)」で失敗したことがある。あれよりもひどいだろう。ましてや、状況が改善するまでほかの地図アプリを使えなんて。Googleと決別するためにMapだけではなくYouTubeも外しているのに、甘すぎると思った。とことん完成度を高めていくSteveなら、たぶん発売日を延期したのではないか。そうしてでも、完成度を上げて出していたと思う。とことん、これでもかと。「Google、かなわないだろう」というレベルまで。
一方で今回の「iPhone 5」を見ると、ハードウェアのほうはSteveが追求したであろう究極のiPhone、究極のスマートフォンだと思う。ハードだけの観点でいえば、日本のスマホの生産を考えて原価をはじくと、おそらく10万円を超えるようなレベルではないか。プラスチックではなくアルミやガラスを使った高級感。日本製のスマホがこれにかなうわけない。軽自動車と超高級外国車の違いのようなものだ。そういう意味での完成度は極めたが、ソフトウェアの一部が……。
実は「Siri」も最初は、「うーん。どうなんだ?」という面はあったけれども、着実に改善されてきている。今回の地図はお粗末すぎる。Googleにキャッチアップするには時間が足りませんでしたね。1年やそこらでは無理でしょう。ストリートビューだって何度も何度も改善されてきた。地図を作ると言うことをなめてはいけない。表示方法でぎゅーんと回転する、なんていうのは単なるギミック。正しい情報が表示され、ナビに完璧に使えるといった地図本来の価値を徹底的に追求して、さらにそこでなにかイノベーティブなものを考えるのならわかるが、まだ中途半端だ。
LTEに対応して、CPUのパフォーマンスを上げてサクサク動くなど、使い勝手の部分の完成度は高くなった。地図の部分が著しく劣っているものだから、そこがすごく目立ってしまって、すごく残念だ。これが正直な気持ち。この完成度は絶対ない。
しかも、謝罪したのは本当にびっくりした。iPod nanoが出たときに、すごく傷つきやすいという声があったが、謝らなかった。たしかに、傷つきやすかった。でも、これはほかのiPodと同じようにポリカーボネイトを使っているから、そんなことはないんだと説明していた。そのときの日本のケータイは、ハードコーティングのものが出ていて「傷つかないというのはこういうことだよ。まずいよね」ということを本社に言ったら、「もう大丈夫。変えているから」とすでに対応していた。
もう1つ正直に言うと、プレゼンテーションもみんなうまくないと思った。Tim Cookはセールスの責任者を兼務する前は、もともとオペレーションの担当。ロジカルで、決めた事はきっちりできる人。少なくともエモーショナルな人ではないと思う。Jonathan Ive(Appleのインダストリアルデザイングループ担当シニアバイスプレジデント)のビデオを流すだけじゃなくて、あそこまで作り込んだiPhone 5なんだから、自らもっと手にとって聴衆に見せて、iPod miniのときのようなあのアルミのひんやりとした感覚や質感を伝えるべきだと思う。打ち合わせ通りに一生懸命やっているのだろうが、すごく台本くさくておもしろくないし、心に伝わってこない。こうした場面のステージは、Appleの戦略において突破口となる最大のマーケティングなのだ。初期のモメンタムを作るということで、もう自信満々で、自らこれを愛してやまなくて、さも未来を予見しているかのようなことがまるで感じられない。もちろんSteveはそういう面も見せていたけど。それでも、もうSteveはいないので、新しいスタイルでやればいいのだが、やはりこれが様になってない。愛情があればこそ厳しく言うけれども。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
OMO戦略や小売DXの実現へ
顧客満足度を高めるデータ活用5つの打ち手
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
企業や自治体、教育機関で再び注目を集める
身近なメタバース活用を実現する
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」