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日米の事情を知る起業家が教える、スタートアップが持つべき“常識”

岩本有平 (編集部)2012年08月10日 17時22分
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 サンブリッジグループが開催中のシリコンバレー体験プログラム「jannovation week」。現地時間8月7日には、Ginzamarketsの最高経営責任者(CEO)のRay Grieselhuber氏が講師となり、日米のスタートアップを取り巻く環境を語った。

 日本への留学経験もあるRay氏は、米Covarioでマーケティングや広告システムの開発を担当。2008年には日本に戻って起業し、2010年には拠点を米国マウンテンビューに移してGinzamarketsを創業。SEOの管理分析ダッシュボード「Ginzametrics」を提供している。

 同社は、2010年の夏にY Combinatorのインキュベーションプログラムに参加。現在は500 Startupsからの出資を受けている。こういった背景から、Ray氏は日米両方のスタートアップ事情に詳しいという。


Ginzamarkets CEOのRay Grieselhuber氏

Facebookの株価下落から紐解く米国の調達事情

 Ray氏はまず、Facebookの株式上場(IPO)について触れた。FacebookはIPO後、株価を大きく下げていることで話題になった。これを契機にして、イグジット(出口)としてIPOを考えるのが果たして正しいのかといった声が挙がっている。

 これについてRay氏は「いろいろな考え方はあるが、FacebookはIPOした時点で会社の値段が上がっていたのが大きな理由。マーケットキャップ(時価総額)が高ければ、下がるのは当然」と言う。

 では、なぜ上場時点でそこまでの時価総額になっていたのかと言えば、未公開企業株が流通されているSecondMarketSharesPostがあったからだという。もちろん機関投資家などでないと取引はできないが、そこで大きく株価を上げていたために現在の状況があるという。

 このような状況から、米国ではスタートアップがIPOする以前、なるだけ早い段階で投資しないと儲からないという状況にもなりつつある。

 未公開企業株の流通市場以外にあるアーリーステージでの調達手法としては、「Kickstarter」のようなクラウドファンディングがある。これは提供する製品やサービスを作る前に資金を調達でき、さらに調達する資金が直接売り上げになるため、企業によっては、非常に有効的なツールになるという。

 そのほか「AngelList」を利用するスタートアップも増えているという。AngelListは起業家と投資家をマッチングし、調達を目指すサービスだ。ただし、AngelListを利用する際にも注意が必要で、例えば目標調達額の一部を投資家から集めるなどし、彼らからの「ソーシャルプルーフ(社会的な信頼)」を得ないと、期待通りの結果を出せないという。

 では米国のスタートアップが具体的にどのような調達を行っているか。Ray氏は「Pre-Seed」「Seed to Series A」「Series B+」「Pre-IPO」の4つの段階に分けて説明する。具体的な内容は以下の通りだ。

  • Pre-Seed
    クラウドの普及などを背景に、SaaSモデルのスタートアップでは起業間もなく出資を受ける必要のないケースが増えてきた。出資を受ける場合でも、トラクション(売り上げ)を作ることで、よりいい条件を提示される可能性も出てきた。
  • Seed to Series A
    課題が大きい調達ラウンドとなる。シードの調達はこれまでよりやりやすくなった。調達方法としては「Convertible Note」を使うのが一般的。またシードラウンドでの調達額も大きくなっており、1億~2億円規模での調達が容易になってきた。これは5年前のシリーズAの規模に近い。
    一方でシリーズAの調達はまだまだハードルが高い。シードだとエンジェルやアーリーステージを対象としたベンチャーキャピタル(VC)が入れる資金額は1000万円程度と規模が小さいケースが多い。そういった場合は、大きい額を調達する方がうまくいくが、VCが億単位での資金を提供する場合、株式を買い入れる必要があるが、こうなるとパートナーの時間も限られているため、積極的に動けなくなってしまうという。
    こういった状況から、シードからシリーズAの調達を行えるかが問題になっている。シードの調達から2年、シリーズAの調達をしないといけないというスタートアップが調達できないという状況も出てきた。
  • Series B+
    ここまでくると、その会社は成長期に入っていると言える。Ray氏は「(自身でそのシリーズの)経験がない」としながら、最近ではこのシリーズで一部キャッシュアウト(持ち株を売却)して、投資家が利益を得る形が増えてきたという。
  • Pre-IPO
    IPOが今後難しくなるのかが課題。月間のIPO数などを調査した際、2013年はさまざまなステージで投資取引が少なくなるという分析もあるという。

スタートアップが持つべき“常識”

 こういった背景を受けて、Ray氏は日米いずれの環境でも持つべきスタートアップの“常識”を語る。

  • No more social
    FacebookをはじめとしたSNSの台頭で純粋なSNSでの成功は難しい。また必要となる資金も多いので、今さら課金モデルのないSNSにチャレンジすべきではない。ソーシャル機能を持つサービスは今後も登場するが、「ソーシャルが売り」というサービスの成功は難しい
  • Focus on revenue business
    500 Startupsでも投資の際にいくつか条件があるが、その中にも課金がしやすい、モノができており、トラクションがあるところというものがある。シードラウンドでは、レベニューがなくても投資を受けられるが、シリーズAでは5000万~1億円の売り上げがないと厳しい。シリーズBでは毎月2500万円くらい、とさらに厳しくなるという。
  • Choose big market
    これまではサービスや製品が面白ければいいという傾向があったが、シリーズAの調達の難しさからも、投資家は最低1000億円以上の大きい市場が求められるようになってきた。競合がいるという点とトレードオフになっても、大きい市場を取るべきと説明している。

日本のスタートアップが取るべき戦略

 これまで米国の状況をもとに語ってきたRay氏。ここで振り返って日本のスタートアップはどのように世界と戦っていくべきか、3つのポイントで語った。

  • Don't underestimate difficulties in living in the US
    米国での起業を志すスタートアップが少なくないが、ビザを取得できないケースも少なくない。ビザを取得して米国でビジネスを展開する日本人は、言わば“スーパースター”のような人。また英語もスムーズに話せないと投資家の理解も得られない。さらに米国の投資家の多くは世界でなく米国しか見ていないのが現状であるからだ。
  • Build in Japan + Asia
    米国進出は難しい一方で、今はどこに住んでいてもグローバルなビジネスを展開できるようになってきている。無理してまで米国進出だけを考えずに、日本とアジアでサービスを開発することも考えるべきだ。Ginzamarketsも、米国と日本以外に東欧などのメンバーとともに開発を行っている。だがやはりシリコンバレーに来れば、資金調達の面で有利だったりするということもある。しかし一方で、人材も物価も高いため、調達さえしてしまえばシリコンバレーに居続ける必要性もないとした。
  • Figure out how to address global market
    開発を日本とアジアで行うと同時にマーケットについてもグローバルで考えて行くべきだという。Ginzamarketsも、日本と米国が売り上げのそれぞれ4割となっているが、残りの2割はオンラインでさまざまな国から引き合いがあるという。「特にSaaSモデルであれば、もう少ししたら世界どこにいてもビジネスができるようになる」(Ray氏)

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