Mozilla Japanは、日本発で「Mozilla Factory」という新しい取り組みを開始した。Mozilla Factory では、中高生を中心に、「“オープン”に考える、作る、伝える」を軸にしたモノづくりを進めていく場所や環境を提供する。そして、ここでの「考える、創造する、作る、伝える、教える」という体験を通じて、才能や可能性を引き出し、伸ばしていくことを目指している。
具体的には、まずプロジェクトを募った後、各プロジェクトごとに関わりたいという参加者を募る。参加者は中高生を核として想定している「プレイヤー」、高校生から大学院生の世代を中心に想定している「チューター」、各方面で活躍しているプロフェッショナルが、プレイヤーやチューターとともに考え、アドバイザー的な立場でプロジェクトに携わる「メンター」として、プロジェクトを進めていく。
すでに、プロジェクト案は10を超えており、メンターのキックオフミーティングも実施され、いよいよ本格的に動き出した。こうした情報は、ウェブサイトだけではなく、FacebookページやTwitterでも発信されている。また、Mozilla Factoryにかける思いや構想は、Mozilla Japanの代表理事である瀧田佐登子氏のインタビューを見て欲しい。
プロジェクトの提案や参加は、個人であろうが、研究機関や企業、教育機関、NPO、自治体であろうが、誰でもできる。こうした中で個人としてではなく、企業としてもっとも最初にMozilla Factoryの構想に賛同し、具体的なプロジェクトを提案して参画したのがKDDIだ。
Mozilla Factoryに参画した背景などについて、KDDIの技術開発本部 技術戦略部 サービスフロンティアグループ課長である高木悟氏、同課長である高木幸一氏と共に、瀧田氏にも加わってもらい話しを聞いた。その話は、KDDIのオープン戦略やHTML5に取り組む姿勢にもおよんだ。
高木悟氏:KDDIのようなオペレータも最近、環境がオープンになってきていると大きく感じています。特にスマートフォンですが、今後もっとオープンになっていくと思っています。こうしたオープンな環境に我々も慣れ親しみたいな、という気持ちが強く、中高生を中心とした若い方がモノづくりを実践するという部分が最大の主眼になっています。
我々自身、オープンな場に慣れ親しんでいるかというと、まだまだそうではないので、中高生の方々と一緒になって、オープンな場でモノを作るというのはどういうことかを一緒に勉強していきたいのです。
高木悟氏:ウェブはHTML5が、第3のオペレーティングシステム(OS)と言われてきています。実は第4かもしれませんが。モバイル系でいうとiOSとAndroidがあって、Androidの方が少しオープンで、もっとオープンなモノというとHTML5で、それがOSという位置づけで最近よく見られるようになってきたということです。そういうOSのルーツという会社がMozilla、もっといえばネットスケープ(瀧田氏が以前在籍)といったほうがいいかもしれません。そういう方々というのは、世の中のオープンな活動のもっとも先進的なところを昔から手がけているわけで、いろいろと勉強させていただきたいのです。
特にグローバルな部分で価値があるだろうと考えてます。KDDIも昨年からW3C(World Wide Web Consortium、WWWで利用される技術を標準化する団体)に再加入していますが、ここにきて日本企業の再加入や新規加入が相次いでます。携帯電話に比べればスマートフォンはよりオープンで、その中でもAndroidはさらにオープンですけれども、オープン性は足りなくて、W3CやMozillaのような長い歴史のなかで培ってきたもっとオープンな取り組みを、今後見据えていくというのが、昨年から徐々にKDDIが進めているテーマなのです。
iモードやEZwebというのは、ある意味ウェブじゃないウェブのような世界を携帯電話業界というのは作ってきました。それに対して本当のウェブの世界というのがスマートフォンで導入されて、本格化するようになってきたので、このチャンスをきちんと企画して進めていくべきという常識的な流れに乗ったかたちとも言えます。
高木悟氏:実例をみると、まさにMozillaの「Boot to Gecko」のプロジェクトがあって、このプロジェクトに最初に反応したのはスペインの通信会社であるテレフォニカ。どうしてテレフォニカが反応したかを考えていくと、いろいろ見えてきました。世の中の携帯電話はほぼクローズドで、オペレータやキャリアがすべてコントロールできる世界でしたが、それが徐々に崩れて顕在化したのがスマートフォンの登場だと思います。これによって、携帯端末のAPIをはじめ、ファームウェアやミドルウェアに関しても、たとえばiPhoneであればApple、Androidであれば一部はオープンソースですが、かなりの部分がGoogleによってコントロールされていて、我々の手から徐々にコントロールできる部分が離れてきているわけです。
このままだと、ダムパイプ(土管ともいわれ、単にデータを送受信しているだけの存在にあること)と言われているオペレーターになる危機感があります。まあ、そういう選択肢もあるのでしょうが、それと同時に過去の栄光を取り戻すことはもうできないと思います。であれば、どこか1社もしくは寡占的な、我々の影響力があまりないようなところにコントロールされるよりは、オープンなほうがもしかするとベターな世界が作れるんじゃないか、という仮説はあると思っているんです。
オペレータやキャリアは、昔からITU(国際電子通信連合)やGSMA(携帯通信事業者の業界団体「GSM Association」)など、オペレータ間やキャリア間のアライアンスや協議体というのを作って、合意を形成して、少なくとも、オペレータの中では中立的なスペックを決めて、何かお互いに手を結べるようにしましょう、というのは、もともと文化的には持っています。
そういう考え方からすると“オープン”、ただこの場合はキャリアやオペレータを超えたもっと広い業界としてのオープンという話になると思いますが、それでも業界全体のオープンなプラットフォームとして、OSのようにもっとオープンにしていこうというのは、もうこの期におよんだら選択すべき、または選択する可能性として言い出しておくべきときに来ているのではないかと考えているのです。最近のW3Cを見ていると、“ベンダー中立”というところにすごく注力しているような感じがしていて、おそらく今後はもう一段階広くとって、ベンダーじゃなく“業界中立”ということになるのではないかと考えています。
高木幸一氏:弊社として、社長から「すべてにおいてスピードを上げよう」ということが命じられていまして、その1つの手段としていろいろな人の意見を取り入れる、いろんな人が開発に携わる、ということで高速に進めていくことが、オープンにすることの重要な意味だと思っています。
高木悟氏:社長が年頭に説明した中にもしっかり込められていて、少なくとも会社全体がそういうコンセンサスにあるかどうかは別にしても、社長がそう考えているし、我々の部門もそう考えなければいけないと気づき始めているのです。HTML5に注力していくんだと言うことも、社長が公に言うようにもなっているので、そろそろ本格的に活動しようというのもあります。CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
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