シリコンバレーでスタートアップする――難しいと言う投資家がいるかと思えば、軽々と海を飛び越えて実現する起業家もいる。国をまたいだ起業には大きな夢が描ける反面、その実態は言葉や文化、距離などさまざまなハードルが待ち構えている。スマートフォン向けアプリ検索サービスの「AppGrooves」を展開する柴田尚樹氏はシリコンバレーのシードアクセラレーター「500Startups」に日本人として初めて参加した人物だ。東京大学助教授、楽天では当時最年少の執行役員だった彼がすべてを捨てて異国の地でスタートアップを選択できたのはなぜなのか? 12月初頭に都内で開催されたイベントにて語られた彼の経験から、シリコンバレーで起業する際に留意すべき10のポイントを紹介する。
「なぜ起業しなければいけないのか理由がわからなかった」――柴田氏は学生時代から起業を志すも、その理由を明確にできず模索していたそうだ。名誉やお金、社会貢献など、起業の理由は人それぞれ。しかし、シリコンバレーで彼が学んだことは、スタートアップは「Make the world a better place(世の中を良くする)」ためにあるということ。シリコンバレーの起業家から「会社をやることで、世の中が少しでも良くなっていればそれはよいスタートアップだ」ということを学んだ彼は、社会をどう良くしたいかを明確にしてスタートアップすべきだと語る。
北米でどういった人材がスタートアップしているのかを理解することも重要だ。「スタンフォード大学にいると、優秀な人ほど起業する。情報計算学科の成績トップ10は起業する。それに続く人はスタートアップに就職する。さらにその下はGoogleなど優良企業に就職していく」のだそうだ。
柴田氏は起業家たちから「あなたの身の回りで壊れているものを見つけなさい。それを自分のテクノロジーで直しなさい。そうすれば自然と会社はできる」という話をよく聞いたそうだ。「それだったら俺もできるかなと思った。『解く問題』が重要であり、ソリューションは後から変えればいい」(柴田氏)。これは彼が支援を受ける500Startupsを主宰するDave McClure氏も常に言っていることだ。この問題を解くべきは自分しかいない、そういう覚悟がないなら「それまで積み上げてきたものを捨てないほうがいい」と話した。
「起業方法」をテーマにしたハウツー本を読むと、最初に会社の設立、資金の調達が話題にくることがある。柴田氏はその経験から、そういった“お作法”だけが大事でないと語る。「プロトタイプを作って投資家と会って会社を作る。プロダクトができて、それが良さそうだと思ってから資金の調達に動けばいい。会社なんていつでも作れる。それ以外にやらなければならないことはもっとある」(柴田氏)
契約社会である北米で弁護士の存在は必要不可欠だ。「ダメな例は安い弁護士を雇うこと。米国では弁護士の格差が激しい。最初にそこそこの弁護士を雇って、そのうち高い弁護士に変更しようという人もいるが、そこそこの人が作ったドキュメントを高い弁護士に読ませることになるので結果的に高くついてしまうことになる。弁護士や会計士などは優秀な人を雇った方がいい」のだそうだ。
柴田氏によると米国で就労ビザを取得するにはいくつかの条件があるそうだ。米国人の雇用を脅かさない、米国人にできない専門的なことができる、米国で働くことで経済的なメリットがある。こういったことを証明しなければならない。さらに、ビザを発行する移民局(米国移民帰化局:USCIS)は官僚的でトラブルも多いそうだ。「ビザはすごい大変で時間もかかる。シリコンバレーで働きたいという人は気をつけるべき」(柴田氏)
在職中は研究プロジェクトを作って、週末にプロトタイプを開発していた柴田氏。周囲にアプリを公開し「これはいけるかもしれない」と思ったそうだ。人に見せると自然と投資家を紹介してもらうことになるのは、シリコンバレーならではのスピード感で、柴田氏は間もなく500StartupsのDave氏にデモピッチするチャンスを掴んだ。
「15分ほど一方的にしゃべっていた」という柴田氏。手書きのメモとアプリだけのプレゼンテーションの後に、Dave氏が言ったのは「I like it」――このやりとりで投資を決めたDave氏は、その場で自分の弁護士に連絡。「彼の弁護士と自分の弁護士が話をして会食すると言っている。(スピード感に)びっくりした」(柴田氏)。500Startupsが、年間に投資する数は200件。シリコンバレーには、ほぼ2日に1件投資する状況があると柴田氏は説明した。
「シリコンバレーは村社会なので、全員知っている。なので共通の知人などがいるかどうか確認する」(柴田氏)。柴田氏も知り合い経由の紹介というところは重視しており、Dave氏が知らない、もしくはネガティブな反応をする場合は会わないそうだ。
「最近シリコンバレーで『リーンスタートアップ』という話がよく言われる。簡単に言えば安く、早く、うまくやるということ。なぜリーンスタートアップがいいのか。投資家はスタートアップを必死に選んで投資しても99%は外す。どれだけ天才がやっても外す。そうであれば100打席あたりの時間とコストを安くしましょう、と。ただそれだけのこと」(柴田氏)。同じ1億円で1サイクルするより、10分の1のスケールにして10サイクルやったほうが打率があがる、ということだ。本当の意味でリーンスタートアップの手法が生まれた背景を理解すべきだろう。
スタートアップにとってコストや効率の話題は注意すべきポイントだ。柴田氏は人材採用やインフラ、サービス、アプリの配信方法の3つについて「まず気をつけるべきは、『なるべく人を採用しない』ことだ」と説明する。「(仕事が)できない人を採用しても遅くなる。少数精鋭を心がける。2つ目はクラウドをフルに活用する。ハードのメンテナンスはやる必要がない。3つ目はグローバルに配信できるプラットフォームを選ぶこと。サイトを作ってそこに集客しなければならない、というやり方は辛い」とアドバイスした。
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