起業のことは起業家が伝承すべき--Open Network Labが作るペイフォワード文化

 欧米には「Pay it Forward」という文化がある。映画のタイトルになったことで日本でも知られているが、そのまま訳すと「次に渡す」という意味だ。スタートアップ界隈で使われる場合、起業家やエンジェル投資家が次世代の起業家にその経験やノウハウを伝えることを指す。シリコンバレーのスタートアップエコシステムには不可欠の要素だ。

 日本でも勉強会やミートアップ(懇親会)で起業家同士の情報共有は活発になりつつあったが、それをプログラム化しようとする動きがある。日本版Y Combinatorを目指すOpen Network Lab(Onlab)では、輩出される起業家がメンターとなって次の起業家に経験を伝える制度「Onlab Venture Partner(Venture Partner)」を開始している。“日本版ペイフォワード”はどのような活動をしているのか。Onlab取締役の前田宏典氏、Venture Partnerに就任したOnlab1期生でgiftee代表取締役の太田睦氏、同じく1期生で一人企業代表取締役の高橋雄介氏に話を聞いた。

--Onlab Venture Partnerが始まったと聞きました。具体的にどのようなことをするのですか。


Onlab取締役の前田宏典氏

前田:入ってくるチームのメンタリングをお願いしてます。Onlabではネットワークを抱え込みたいとは思っていないので、ノウハウなどの経験はそれぞれのネットワークを通して情報を共有してもらいたいんです。今後も第2期、第3期と続いていく起業家の中からキーパーソンを選んでいく予定です。

--Onlabにはさまざまなメンターが居ますが、彼らとOnlab Venture Partnerの違いはどこにあるのでしょうか。

前田:たとえば伊藤穰一氏は大きなビジョンなどを教えてくれます。一方、Venture Partnerは資金調達はどうすべきかだったり、弁護士は誰がいい、採用はどうしたらいいといった細かい現場の情報を共有してくれる人たち。これまでもメンターが教えてくれていましたが、後から入ってくるチームにうまく伝承できていなかったんです。

--高橋さんと太田さんはOnlabの第1期生ですよね。どうしてVenture Partnerになったのですか?


Onlab1期生で一人企業代表取締役の高橋雄介氏
高橋:仕組みができる前から自然とそういったことをやっていました。元々現場でも若い人たちをメンタリングしてたので、その延長です。「誰がどういう考えを持っている」といったことが分かっているので、最適な人を紹介したりしています。

前田:自分はあくまでサポートであり起業家ではありません。「ベンチャーキャピタル(VC)はどこがいい」とか、そういうことは起業家が1番よく分かっているんです。こういう活動を継続可能にしようと思ったら、起業家がリーダーシップを取らないといけない。市場がホットな間はベンチャーキャピタルなどが活発に活動する。けれども、もしこのトレンドが冷めた場合に継続性がなくなってしまうかもしれない。だから起業家の中からキーパーソンとなる人をアサインしてコミュニティを作っているのです。

--北米ではこのようなネットワークの参考事例はあるんでしょうか。

前田:北米では、市場が冷えていても継続的に活動するのはエンジェル投資家です。彼らの経歴を見ると、元起業家だったりします。起業家コミュニティでは、たとえばNetscapeからPayPalが出てきて、そこからさらに沢山のサービスや起業家を産むというようなことがあります。シリコンバレーのような継続性を作り出すためには、起業家が起業家を生む仕組みを作らないとだめなんです。

--しかし高橋さんも太田さんも自身がスタートアップであり、成長の途上だと思います。教える側に回るには余裕が必要なのではないでしょうか。

高橋:自分たちもやはり1年先輩ぐらいの人たちが教えてくれたんです。Onlabとしては1期生なのでもちろん先輩はいません。だからスタートアップ向けのイベントを自分たちで開催し、いろんな人たちを集めました。もちろん、その方々も時間に余裕があるわけではないですが、現場の声や経験を聞くことは非常に役に立ちました。だから今回の話も「やろう」となりました。

--具体的にはどういう話をするんですか。


Onlab1期生でgiftee代表取締役の太田睦氏
太田:大学の先輩で似た業種の会社を運営されている方がいます。その会社は最近、売上も上がってきているとのことです。同じような試みをしている私には、そんな成功体験が勇気を与えてくれました。起業に不安はあります。「借金抱えて路頭に迷ったらどうしよう」と考えることもありますが、そういう先輩起業家を見ることで「頑張れば報われる、大丈夫なんだ」と言い聞かせられます。もちろん(どのVCがいいとか)現場向けの情報も共有しますが、そういった悩みや不安を共有することが多いかもしれません。

高橋:シリコンバレーのエンジェル投資家、Nils Johnson氏にも言われたのですが、エンジェル投資家、VC、起業家、弁護士、そういうプレーヤーがいて、この業界が成り立っている。だからたとえば契約条項でどういった注意点があるかなどを教えてくれるのは、利害関係のない先輩だったりする。そういった情報の共有が大切なのだと。

太田:B2Cで広告代理店とお付き合いすることがあったのですが、最初の契約が大切だよというアドバイスをもらったりしてました。こういうお付き合いの方法などもありますね。

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