3月11日に発生した東日本大震災の影響で、大手家電メーカーやITベンダーの生産拠点にも被害が発生している。各社の生産、製造拠点の稼働状況をまとめた。
セイコーエプソンでは3月14日に被害状況を公表しているが、ZDNet Japan編集部では15日に改めて電話で取材した。
人工水晶や金属粉末を生産する青森県のエプソンアトミックス(八戸市)は、約1mの津波による被害を受けたため、現在も操業を停止している。また、プリンター部品や精密部品を製造する秋田県の秋田エプソン(湯沢市)も停電の影響を受け停止中だ。
山形県のセイコーエプソン 酒田事業所と東北エプソン(酒田市)は同一敷地内にあり、地震の影響を受けた停電により操業を停止中。現在、設備の被害状況を確認中で、操業再開の時期は未定としている。酒田事業所と東北エプソンでは、インクジェットプリンタの部品と半導体を製造している。
水晶デバイスを生産する福島県のエプソントヨコム 福島事業所(南相馬市)は、福島第一原発から直線距離で16kmの距離にあり、避難エリアに該当することから一時的に事業所を閉鎖している。地震により建物や設備にも被害が発生している模様だ。
セイコーエプソン本社がある長野県では、生産設備、製造設備、工場などに「被害はなかった」(セイコーエプソン 広報)という。
東芝には岩手県で地震の影響を受けた生産拠点がある。
半導体を製造する岩手東芝エレクトロニクス(北上市)では、地震により建物の一部に損傷を受けた。15日も操業を停止しており、現時点で復旧のめどは立っていない。
また、計画停電の影響を受け、気象レーダーや放送システムを生産する神奈川県の小向工場(川崎市)が終日休業した。16日から始まる東北電力の計画停電については、現在詳細を確認中としている。
なお、人的被害は発生していないが、個別の安否確認を継続中だという。
日本テキサス・インスツルメンツ(TI)は、3月15日に東日本大震災による被害状況の初期評価を行い、その結果を発表した。それによると、同社の美浦工場(茨城県稲敷郡美浦村)が、インフラシステム、製造装置などにおいて相当な被害を受けたという。三浦工場は、金額ベースでTI全体での生産量の約10%を生産。その3分の1以上がDLP製品、残りが電源ICを含むアナログ半導体製品であるという。
TIでは電力会社が実施する計画停電や節電への協力を優先しつつ、最短で美浦工場は5月から複数のラインで段階的に生産を再開し、工場の全面再稼働を7月中旬、全面再稼働に基づく出荷を9月に見込んでいるとしている。ただし、電力供給の不安定化およびその他の要因により設備の再稼働に支障がでた場合は、この見込みが遅れることもあるとしている。
同社では、他の製造工場への生産の移行を進めており、現時点で美浦工場におけるウェハ処理量の約60%を代替しうる製造拠点を特定できているという。さらに追加で製品の生産移行を行うことで、この割合を引き上げることを検討している。
また、同社の会津工場も今回の地震の影響を受けたが、製造装置はすでに再稼働し、電力の安定供給が確保されたため、他の予期せぬ要因がなければ、4月中旬までに全面稼働となる予定。日出工場には損傷はなく通常稼働しているという。
[15日19:00追記]ルネサスエレクトロニクスの15日正午時点での情報によると、国内22拠点のうち7拠点で生産を停止している。
半導体前工程のルネサス北日本セミコンダクタ 津軽工場(青森県五所川原市)、ルネサス山形セミコンダクタ 鶴岡工場(山形県鶴岡市)、ルネサスエレクトロニクス 那珂工場(茨城県ひたちなか市)、ルネサスエレクトロニクス 高崎工場(群馬県高崎市)、ルネサスエレクトロニクス 甲府工場(山梨県甲斐市)、半導体後工程のルネサスハイコンポーネンツ(青森県北津軽郡鶴田町)、ルネサス北日本セミコンダクタ 米沢工場(山形県米沢市)が操業を停止している。
このうち、津軽工場と那珂工場では建物などが一部損傷している。また、高崎工場、甲府工場、ルネサスハイコンポーネンツは、計画停電終了後に稼働を開始する予定だ。
リコーでは東北地方の子会社などで被害が発生した。
光学部品を製造するリコー工学(岩手県花巻市)、複写機や周辺機器、複写機用部品、複写機用トナー、印刷機を生産する東北リコー(宮城県柴田郡)、ユニットや金型を生産する迫間リコー(宮城県登米郡)では、電力などが供給されず操業を停止している。これらの拠点では建物に被害はないが、生産設備に損傷が発生しているという。
また、プリンターを製造するリコープリンティングシステムズ(茨城県ひたちなか市)も、建物に損傷はないが操業を停止している。
リコーでは「復旧の見込みは立っていない」と述べている。なお、人的被害は「今のところ報告を受けていない」(同)
計画停電の影響を受けているのは3拠点。大型の複写機などを製造するリコーユニテクノ(埼玉県八潮市)は15日の午前中に操業したものの、午後は計画停電によって停止させたという。
キヤノンは3月13日時点で各事業所とグループ会社の被害状況をまとめている。ZDNet Japan編集部では15日に同社へ改めて電主取材を行った。
関東以北の拠点では3事業所と5社が被害を受けた。
事業所では、栃木県の宇都宮事業所(宇都宮市)の宇都宮工場、光学機器事業所、工学技術研究所では15人が負傷。茨城県の取手事業所(取手市)と阿見事業所(稲敷郡)も含めた3事業所が休業中で、復旧の見込みはたっていない。特に宇都宮事業所では復旧までに日数を要する見込みだという。
グループ会社では、マイクロモーターやトナーカートリッジを生産する青森県のキヤノンプレシジョン(弘前市)、半導体露光装置用の光学結晶の生産や蒸着材料の開発、生産、販売を担う茨城県のオプトロン(結城市)、トナーカートリッジを生産する茨城県のキヤノン化成 岩間工場(笠間市)、プリンターや関連部品を生産する福島県の福島キヤノン(福島市)、精密プラスチック金型の設計製作を担う茨城県のキヤノンモールド(笠間市)の5社が操業を停止している。復旧の見込みは未定で、福島キヤノンは特に日数を要する見込み。なお、グループ会社では人的被害は発生していない。
キヤノンでは、一カ月以上など長期にわたって操業が停止する場合、被害を受けていない拠点を代替地として生産することも検討している。
シャープは東日本大震災の影響をほぼ受けていないようだ。
被害は「特にない」(シャープ 広報室)状況だが、研究開発と一部生産を行う栃木県矢板市の事業所では、現在点検等を実施しているという。
計画停電の影響も特にないが、「自治体や電力会社から要請があれば随時対応を検討する」(同)と述べている。
三菱電機では、監視カメラを製造する福島県の郡山工場で建物に一部損傷が発生した。現在は工場への立ち入りを禁止し、専門家が安全確認を実施している。
また、宮城県仙台市の東北支社では事務所が散乱するなどの被害があったが、現在も営業を継続しているという。
計画停電の影響については、群馬県太田市の群馬製作所が15日午前に操業を停止したものの、午後から操業を再開している。
オリンパスでは3カ所の製造拠点で操業を停止している。また、転倒するなどして軽傷を負った人が若干名いるという。
操業を停止している製造拠点は、青森オリンパス(青森県黒石市)、白河オリンパス(福島県西白河郡西郷村)、会津オリンパス(福島県会津若松市)。また、製造拠点ではないが、白河オリンパスと同じ敷地内にあるオリンパスメディカルシステムズ 白河事業場もほぼ休業している模様だ。
青森オリンパスは材料の調達に支障が出ていることから操業を停止。白河オリンパスとオリンパスメディカルシステムズ 白河事業場は、建物に被害が発生しているため操業を停止しているという。
現在実施中の計画停電への対応としては、「従業員の出退社で配慮したい」(オリンパス広報・IR室)という。事業面では、関東に大きな製造拠点がないため「影響はない」(同)との判断だ。
福島県西白河郡の拠点で建物に一部損傷があるため、今後は状況を確認、検討しながら復旧を判断するとしている。
今回の地震でルネサスエレクトロニクスの工場にも被害が発生しており、国内22拠点のうち7拠点で生産を停止している。
青森県ではルネサス北日本セミコンダクタ 津軽工場(五所川原市)とルネサスハイコンポーネンツ(北津軽郡鶴田町)、山形県ではルネサス山形セミコンダクタ 鶴岡工場(鶴岡市)とルネサス北日本セミコンダクタ 米沢工場(米沢市)。そのほか、茨城県の那珂工場(ひたちなか市)、群馬県の高崎工場(高崎市)山梨県の甲府工場(甲斐市)の計7拠点。いずれも半導体前工程や後工程を担う拠点だ。
計画停電への対応では、関東地方の半導体前工程、同後工程、設計開発の8拠点で休業する。
ソニーでは、8カ所の事業所が地震の影響で生産活動を停止している。
宮城県内では、ソニーケミカル&インフォメーションデバイスの多賀城事業所(多賀城市)と、登米事業所(登米市)の「なかだサイト」と「豊里サイト」、ソニー白石セミコンダクタ(白石市)の4カ所。福島県では、ソニーエナジーデバイスの郡山事業所(郡山市)、本宮事業所(本宮市)の2カ所。そのほか、ソニーマニュファクチュアリングシステムズ(埼玉県久喜市)と、ソニーDADCジャパンの茨城工場(茨城県那珂市)の2カ所。以上の8カ所が地震の影響で生産活動を停止している。
また、電力事情を考慮し、ソニーケミカル&インフォメーションデバイスの鹿沼事業所(栃木県鹿沼市)、ソニーエナジー・デバイスの栃木事業所(栃木県下野市)、ソニーの厚木テクノロジーセンター(神奈川県厚木市)が自主停電を実施した。厚木テクノロジーセンターでは社員に出社を求めず、午前中の自主停電を経て午後を休業とした。
ソニー広報センターでは、一部地域で電力の供給が停止しており、生産設備の点検や確認にも時間がかかるとし、「復旧の見込みは立っていない」と述べている。特に多賀城事業所は海に近接していたことから1階が浸水。復旧までにはかなりの時間がかかりそうだ。そのほかの事業所では、建物などに目立った被害はないという。
NECの主要な東北拠点は4カ所。うち3カ所が生産活動を停止している。
主に通信機器を生産するNEC東北(岩手県一関市)、ワイヤレス通信機器を生産するNECワイヤレスネットワークス(福島県福島市)、電子部品生産のNECトーキン(宮城県仙台市)の3カ所が生産活動を停止している。これらの拠点では、停電や断水に加え、一部設備が損傷しているという。
パソコン生産を担うNECパーソナルプロダクツの米沢事業場(山形県米沢市)の影響は軽微で、14日も稼働したという。
NECでは「明日(15日)以降の稼働について対応は決まっていない」と述べている。
日立製作所では、6カ所の拠点で建屋や生産設備の損傷を確認したと発表している。
発電所向けの電力設備を手がける日立製作所 電力システム社 日立事業所(茨城県日立市)、エレベーターやエスカレーターを生産する日立製作所 都市開発システム社 水戸事業所(茨城県ひたちなか市)、制御用コンピュータ機器を生産する日立製作所 情報制御システム社 大みか事業所(茨城県日立市)、家電製品を生産する日立アプライアンス 多賀事業所(茨城県日立市)、自動車機器生産の日立オートモティブシステムズ 佐和事業所(茨城県ひたちなか市)、同 福島事業所(福島県伊達郡)の、以上6カ所が生産を停止している。
復旧の見込みについては「ライフラインがきていないため、まったくわからない」と述べている。
日立は3月11日に執行役社長の中西宏明氏を最高責任者とする大規模地震対策統括本部を設置し、被災地や顧客の復旧支援、社員や家族、各拠点の被災情報の収集と対応策の検討と実施を進めているという。
富士通も3月14日に地震の被害状況を公表した。天井や壁面、排水管の破損など、建物や生産設備の損傷が発生し、操業に影響がでているという。
東北地方の建物や設備で損傷が確認されている拠点は、半導体製造の前工程を担う富士通セミコンダクター 岩手工場(岩手県胆沢郡金ヶ崎町)、同 会津若松工場(福島県会津若松市)、半導体製造の後工程を担当する富士通インテグレーテッドマイクロテクノロジ 宮城工場(宮城県柴田郡村田町)、同本社および会津工場(福島県会津若松市)、フラッシュマイコンを製造する富士通セミコンダクターテクノロジ 本社工場(福島県会津若松市)、デスクトップPCやPCサーバを生産する富士通アイソテック 本社工場(福島県伊達市)の6カ所。
復旧については「まだ見えない状況」(広報IR室)だ。
関東の拠点では計画停電を考慮し、携帯電話製造の那須工場と、光伝送装置の小山工場のラインを止めている。そのほかの拠点は「基本的に営業状態だが、電車が動いてないため出社できなかったり、逆に帰宅できなくなったりするため、出社できる者は出社し、そのほかの者は自宅待機にしている」(広報IR室)という。
富士通では震災直後に代表取締役社長の山本正已氏を本部長とする災害対策本部を設置し、グループ従業員の安否や顧客の被災状況の情報を収集している。
そのほかの企業の状況については、情報を確認でき次第更新する。
◇震災関連情報まとめ
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