解説:マイクロソフトが2年半ぶりの大規模イベントを復活させた3つの理由

 マイクロソフトは11月25日、26日の2日間、東京・芝公園のザ・プリンス パークタワー東京で「The Microsoft Conference+Expo Tokyo」を開催した。「The Microsoft Conference(MSC)」と題されるイベントが日本で行われるのは、2008年4月以来、実に2年半ぶりとなる。さらに今回は「Japan Tour」と称し、年内に東京、大阪、名古屋に加え、札幌、福岡、広島、仙台の全国7都市で大規模に展開される。

 樋口泰行氏がマイクロソフトの日本法人社長に就任したのが、前回のMSCが行われたのと同じ2008年4月。前回が社長就任直後であったことを勘案すれば、今回は、樋口氏が社長としての強い思いをもって臨む最初のMSCとも言える。

 マイクロソフトが、MSCを復活させたのにはいくつかの理由がある。

 ひとつは、マイクロソフトがクラウドへの本格参入を宣言してから、初めて日本で行われるパートナー、ユーザー向けの大規模イベントとなる点だ。業界の関心も高く、東京会場における初日の基調講演への参加は約1800人。会期中の来場者数は6200人にも達したという。

 3月4日に、米Microsoft CEOのSteve Ballmer氏は、「We're all in」というメッセージとともに、同社開発者の90%をクラウドに関与させるなど、クラウドコンピューティングに本格的に取り組んでいくことを発表した。それから約9カ月が経過し、これを日本市場に向けて明確に訴求するにあたって、こうした大規模イベントが有用であることは間違いない。

 樋口氏は「従来から提案していたS+S(ソフトウェア+サービス)というメッセージは、日本ではややわかりにくかったところもあるだろう。これをわかりやすいものにするために、クラウドという表現を前面に打ち出した。マイクロソフトはクラウドに対して、ここまで本気なんだということを、今回のMSCで訴求したい」と語る。

 そして、もうひとつの理由にあげるのが、「パートナーに対するメッセージ」としての役割だ。

 今回のMSCには、オンプレミスのパートナーにはなっているが、クラウドパートナーとしての連携はまだ行っていない企業も数多く参加している。

 「クラウドビジネスにおいて、ぜひマイクロソフトと手を組んでいただきたい。マイクロソフトはそのために数多くの製品を用意し、支援体制を敷いていることを知っていただきたい。パートナーにとって、クラウドへの参入は不安な部分が多いだろう。だが、クラウドの流れに乗り遅れることは死活につながるという危機感もある。乗り遅れないためには、マイクロソフトと組むことが近道であり、それにより、パートナーがクラウドという市場に打って出ることができることを訴えたい」(樋口氏)

 マイクロソフトの提供するクラウドの大きなメリットは、オンプレミス型のマイクロソフト製品、技術において蓄積した資産、ノウハウを活用して、新たな投資を行わずに参入できる点にある。これはたしかに「他社にはない強み」となり得る。

 実際、今回のMSCは、パートナーの拡大という点では大きな役割を果たした。マイクロソフトには現在、約650社のクラウド認定パートナーがあるという。しかし、初日の基調講演の時点では約600社とされていた。つまり、東京でのMSC終了後に一気に50社が増加したということだ。マイクロソフト執行役常務ゼネラルビジネス担当のBertrand Launay氏は、「2011年6月までに1000社に拡大する計画を掲げているが、当初の計画を大幅に上回るペースで増加している。1000社を大きく上回るのは確実だろう。国内7000社のすべてのマイクロソフト認定パートナーと、クラウドビジネスパートナーとして、早期に手を結びたい」とする。

 そして最後に、もうひとつ大きな狙いがある。

 それは、10月5日から2日間にわたり、東京の同じ場所で、セールスフォース・ドットコムが開催した「Cloudforce 2010 Japan」への対抗という側面だ。

 米Salesforce.com会長兼CEOのMarc Benioff氏が来日して開催したこのイベントでは、「真のクラウドを提供できるのは当社だけ。あとは偽物」とまで言い切り、クラウド分野で先行する強みを徹底的に訴求してみせた。これに対抗するように、MSCではSalesforceやGoogleなどとの比較を随所に織り交ぜ、徹底的に対抗する姿勢を見せた。

 樋口氏は、「日本ではあまり馴染まない手法かもしれないが、競合のコメントが強烈になってきており、マイクロソフトも何かしらの姿勢を示す必要があると判断したこと、さらに米国では比較する手法が定着しているという流れのなかで、今回のような形をとった」としながらも、「あくまでもパートナー、ユーザーの声として、競合他社に比べたメリットを訴求してもらったものであり、我々にとっても大きな励みになる」と語る。

 社長である樋口氏自らが、セールスフォース・ドットコムを意識したことを明言するあたり、その思いは、マイクロソフト日本法人全体に広がっているものなのだろう。

 MSCを開催した11月25日から、マイクロソフトは「Cloud Power」そして「未来へと続く新しいチカラ」の2つのタグラインを添えた新たなクラウドビジネス向けアイキャッチの使用をはじめた。この日、会場に詰めたすべてのマイクロソフト社員の名刺には、このロゴが入れられ、それを所持することが義務づけられた。

 「Cloud Power」とは、クラウド領域において、プラットフォームからアプリケーションまで、ユーザーのビジネスや経営変革に必要なITソリューションのすべてを提供する唯一の企業がマイクロソフトであること、そして、あらゆるビジネスに求められるITニーズへの対応のための新たな力を提供していくことを示したものだという。

 これまでの「We're all in」のメッセージが「マイクロソフトはクラウドにすべてのリソースを投入していく」という姿勢を示したものであったのに対して、今回の「Cloud Power」は、クラウドがいよいよ具体的なビジネスとして立ち上がったことを示しているともいえる。そうした観点からみても、2年半ぶりに開催される今回のMSCは、マイクロソフトのクラウドビジネスの本格的な立ち上がりを宣言する重要な場となっているのである。

Cloud Power 東京で開催された「The Microsoft Conference+Expo Tokyo」の基調講演での樋口泰行氏。傍らには「Cloud Power」のアイキャッチが。

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