5年あまりの激闘を経て、メディアフロージャパン企画との「アナログテレビ放送終了後における空き周波数帯域争い」に勝利し、受託放送事業者に決まったマルチメディア放送(mmbi)。その中心となって動き続けたNTTドコモには、一様に安堵(あんど)の色が広がった。しかし、本当にやるべきことはこれから。いかにして新規ビジネスを成功に導いていくのか、今後の展開について聞いた。(メディアフロージャパン企画への取材記事は こちら)
当初7月に決着する予定だった方式決定議論だが、最終的に9月にまでずれ込んだ。そしてこの間、総務省は「公開説明会」の名のもとに候補者同士のプレゼン合戦を求める。両陣営が互いの欠点を突きあい、互いに血を流しあったこの説明会について、mmbi代表取締役社長の二木治成氏は「苦労があったことは間違いないが、これから始まるマルチメディア放送を知っていただく上で絶好の機会にはなった」と振り返る。
さらに二木氏は「NTTドコモが争いの前面に出たことで、グループ全体としても関心が高まった。今後、ビジネスを成功させる上で団結を強められた効果は大きい」と話す。結果的にmmbi社内はもちろん、筆頭株主から端末メーカーにいたるまで次世代マルチメディア放送の存在を意識させたこともまた、次なる一歩に向けた成果となったわけだ。
説明会などを通じて勝利を得たポイントについては、ずばり「早期に市場を立ち上げるための工夫」を挙げる。効率的なサービスエリアの構築、端末の普及や発売における事業者側とのコミットメント、確実かつ安定的に受信契約者を得るための一律料金制(mmbiでは300円程度を想定)。すべてが「市場の早期立ち上げ」というベクトルに向かっていたと語る。
しかし市場の早期立ち上げを主張した結果、サービス品質や安定性に力点を置いたKDDIらのメディアフロージャパン企画と議論がかみ合わず、それが公開説明会のヒートアップを招いた。「同じ視点で優劣がつかない分、マルチメディア放送をどう位置付けるか、という別の判断基準が必要になったのだと思う。その中で、我々の掲げたテーマが受け入れられた」(二木氏)。
勝利したmmbiには当然、「いかにして次世代マルチメディア放送を成功させるか」というテーマが重くのしかかる。まず、次世代マルチメディア放送とはどのようなものをイメージしているのか。二木氏がポイントとして掲げるのは「放送・通信の連携」である。
「『融合』ではなく『連携』。一方が一方を包含するのではなく、異なるシステム同士の強みを活かして新たなサービスを生んでいくものと考えている」(二木氏)。放送の利点と通信の利点を組み合わせ、そのシナジー効果を発揮することで新たな利用シーンを生む。これがmmbiの考える次世代マルチメディア放送だという。
現状、具体的なサービスモデルとして挙げられているのがリアルタイム型放送(ストリーミング)と蓄積型放送(ファイルキャスティング)の組み合わせ。ワンセグを進化発展させた番組編成型サービスと、通信系サービスとしては一般的なコンテンツダウンロード型サービスを柔軟に使い分けるイメージだ。ただし、ファイルキャスティングも放送波で行うため、取得には通信費がかからないことはもちろん、事業者任意、あるいはユーザー設定(レコメンド機能など)をもとに自動的な受信が可能となる。
通信の利用シーンは課金や認証などが主となるが、文字情報などのデータ送信、あるいはチャット、Twitterといった参加型通信サービスとの組み合わせも検討しているという。「マルチメディア放送では『みんなの放送局』というイメージを大事にしたい。事業者やコンテンツプロバイダーはもちろんだが、ユーザーの方々も含めてみんなで盛り上げていくサービスを展開したい」(mmbi経営企画部経営企画担当の塩田一将氏)。
期待の高まる一方、日本のデジタル放送方式(ISDB-T)からの発展型であるISDB-Tmm方式を採用することから「ワンセグの強化型」、さらには「BSやCSのような多チャンネル放送のワンセグ版」というイメージも持たれがち。特にストリーミングサービスにおいては地上波にないスポーツ生中継などへの対応も注目されるところだが「あくまで携帯電話で視聴するメディアということで、長時間生中継が適しているかどうかは見極める必要がある」(二木氏)というのが現状の見方。「ハイライト動画など、短時間で楽しめる内容をストリーミング、あるいはファイルキャスティングでお届けする方が向いている」(同)としている。
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