2011年7月24日の地上アナログテレビ放送終了にともなう空き周波数帯をめぐって繰り広げられた、NTTドコモ陣営とKDDI陣営による「次世代マルチメディア放送方式争い」は、NTTドコモが中心となるマルチメディア放送(mmbi)の勝利によって幕を閉じた。KDDIがクアルコムジャパンとともに「メディアフロージャパン企画」を設立したのが2005年末。5年近くにわたる戦いに敗れたKDDIは、今何を思うのか。(NTTドコモ陣営であるマルチメディア放送(mmbi)への取材記事はこちら)
「当事者として悔しい思いをかみしめているとともに、携帯電話に特化した新しいサービスとして優れた技術が採用されなかったことが残念。もったいなく思う」メディアフロージャパン企画代表取締役社長でKDDIコンシューマ事業本部サービス・プロダクト企画本部長の増田和彦氏は、敗戦の報を聞いた際の感想をこう振り返った。
KDDIが推進した「MediaFLO」は、米クアルコムが開発した携帯電話向け放送サービス方式。もともと携帯電話向けサービスとして研究開発されたことによる技術的な利点もさることながら、米国内ですでに商業化されており、その実績とグローバル性も評価対象のひとつとされていた。
そんなメディアフロージャパン企画が、mmbi側との公開討論会などで追求されてきたのが「事業性」。サービスの安定性をはかるべく慎重な送信所置局を計画した結果、mmbiと比較して初期投資および運用コストに大きな開きがでたためだ。これがサービスに参加するコンテンツプロバイダー、あるいはユーザー契約確保においてマイナス要因をもたらすのではないか? という指摘は実際、大きな懸念材料と言えた。
増田氏は、改めて事業性において十分な見通しがあったと主張する。「携帯電話で映像コンテンツを楽しむ文化が根付いたこと。会社設立当時はスタートもしていなかったワンセグが、現在ではほとんどすべての端末に搭載されている。サービスとしての定着を心配する必要はなくなっていた」(増田氏)
これはmmbiのサービスにも共通していることだが、増田氏が何より手ごたえを感じていたのは「ファイル配信サービス」。通常のテレビ放送のような編成に基づくストリーミング型ではなく、ファイル化されたコンテンツを放送波によってダウンロードして端末側に蓄積、ユーザーが見たいタイミングでコンテンツを楽しめるという仕組みだ。
増田氏はマルチメディア放送をリアルタイム放送としてのワンセグと勝負をすることが必ずしも得策にならないとしていた。「ファイル配信自体は極めて通信に近いサービスといえるが、それを放送波で送れることに意味がある。ユーザー側が任意にアクションを起こさなくとも、自動でファイルをダウンロードできるサービス。それも、通信で送るよりリッチなコンテンツを配信できる点は大きな強みとなったはずだ」とその可能性を語る。
また、マルチメディア放送が近年爆発的に需要が伸びているスマートフォンとの相性もよいと考えていたようだ。「モバリティデバイスが多様化すること自体にも意味があるが、単純な話、表示ディスプレイが大きくなればコンテンツの多様性も広がる。たとえば電子書籍、電子新聞の配信などは、これまでの携帯電話と比べ格段に利用しやすくなる」(増田氏)
もちろん、懸念材料もあった。その最たるものといえるのが「携帯電話販売市場の変化」である。「5年前と比較すれば、年間の総販売台数が明らかに減少している。つまり、仮にMediaFLO搭載端末を市場にだしたところで、普及スピードは緩やかにならざるを得ない。その意味では、当初より事業リスクが高まったと言える」(増田氏)
戦いが終わったいま、見据えるべき次の展開とは何か。まず気になるのは、NTTドコモ擁するmmbi側が勝利宣言とともに送ってきた「(委託放送事業者としての)サービス参加への呼びかけ」だ。
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