パナソニックが7月29日に発表した三洋電機とパナソニック電工の完全子会社化の最大のねらいは、社長の大坪文雄氏が言うように、世界で戦うための「スピード感」を備えることだ。
大坪氏は、「これまでのように3社がお互いを尊重し、独立性を意識しながらコラボする体制では、致命的な遅れが出ると感じた。世界の同業他社は目標を定め、そこに対して100メートル競争のスピードで事業を拡大しているのに対して、我々は中距離競争のスピードで戦っていたのではないか」と、これまでの体制を反省する。
かつてのパナソニックの競合相手は、国内メーカーだった。だが、それはいまや一部でしかない。欧米、さらには韓国、台湾、中国企業などとの競争が、デジタルAVCネットワーク分野にとどまらず、二次電池や太陽電池、電気自動車関連などの分野においても激化している。
「これらの競争に打ち勝ち、新たな市場で成長力を発揮するためには、戦略実行のスピードアップと、さらなる総合力の発揮が不可欠である。パナソニックによる両子会社の完全子会社化は、意思決定の迅速化とグループシナジーの最大化により、中期経営計画『Green Transformation 2012(GT12)』をよりダイナミックに加速し、さらなる飛躍を果たすことを企図したものである」(大坪氏)
今回の発表会見において、大坪氏は具体的に想定している競合企業の名前までは出していなかったが、最大のライバルと目しているのは、韓国のサムスンだ。実は大坪氏は、これまでに折に触れて、サムスンを意識した発言を繰り返してきた。
「マネジメントのスピード、アグレッシブさについては、サムスンに比べると、当社には大きな課題があると感じている。必要なときに、リスクを越えて、行動できるかどうか。ここに差がある」といった表現で、大坪氏はかねてからサムスンとパナソニックとの経営スピードの差を指摘していた。
今後、2011年4月をめどにTOB(株式公開買い付け)と株式交換により完全子会社化する。最大買い付け総額は最大8184億円の見込みという。決して、安い金額ではない。事実、グループ内にも「8000億円の資金は、直接、電池事業などの成長分野に投資すべきではないか」との声はある。
だが、2018年の創業100周年ビジョンに掲げている「エレクトロニクスNo.1」の環境革新企業の実現には、よりスピードを持った経営が必要だと判断したとも言える。約8000億円で「スピード」を手に入れることを優先したというわけだ。
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