森祐治・情報経済への視点--本質的な競争力を創出するためのコンテンツ政策 - (page 2)

フランスのCNC基金によるコンテンツ振興策

 フランスでは、国立映画センター(CNC)を基軸とした映画などコンテンツ産業支援システムが構築されている。CNCは1946年に設立された半官半民の組織で、映画だけではなく、放送、ビデオ、マルチメディアと実は幅広いコンテンツ領域の「regulating、promoting、supporting、negotiating、training、protecting」を担っている。

 CNCの映画製作者支援などのプログラムの詳細については敢えて示さない。注目すべきは、そのフィナンシャルな構造だ。CNCの財源は民間からの拠出金で成立している。その拠出金徴収の仕組みがユニークなのだ。コンテンツを流通させることで成立している映画館や放送局から強制的に売り上げに応じた金額を徴収するのだ。1986年にミッテラン政権が作ったその仕組みは、2008年度で5億2850万ユーロ(約660億円:1ユーロ=125円換算)の規模で、映画入場税(映画入場料の11%)、放送局税(テレビ会社の総売り上げの5.5%)、ビデオレンタル販売税、ビデオオンデマンド税として徴収され、寄付を加えて基金に充当されている。

 映画業界や放送業界は、単に売り上げを奪われるだけでは面白くない。その財源となる産業への「飴」ももちろん用意している。税制優遇やなにより良質のコンテンツ制作、人材育成、先端的な技術開発を受けられるなどのメリットも数多く用意されている。もちろん、この優遇策は、個人や中小の制作者/企業も享受できるため、コンテンツ制作にチャレンジする人々にとって大きなモチベーションになっている。もちろん、成功すればその知的財産権に応じた報酬が適切に配分される仕組みが構築されていることは言うまでもない。

 当然のことながら、フリーライダー(ただ乗りする人)を排除する罰則などの仕組みも徹底している。また中央にばかり集中しているのではなく、地域ごとの産業の活性を促進するための仕組みも用意されるなど、多くの工夫がなされている。半官半民の強みをうまく生かした運営がフランスCNCでは実現されている。

コンテンツ振興基金設立による直接的な振興策を

 日本でも著作権収益の再配分の最適化や海賊版の撲滅など、それはそれで重要だが、それだけで終わらないCNCのような直接的な活動原資を獲得し、その拠出元にもうまく還元しつつ、コンテンツの多様な可能性を促進する仕組み作りはできないのか。

 日本であれば、その産業特性を鑑み、携帯電話などのパーソナルメディアの収益を取り込むのも望ましいだろう。あるいはデジタルサイネージや今後急成長するであろう仮想現実や強化現実などの新領域の産業は、当初は育成の対象とし、市場が確立した時点で基金への貢献を求めていく仕組みにしていってはどうか。

 場合によっては、支援対象を日本のクリエーターに限定しなければ、アジア圏の優秀なコンテンツ制作者を日本に集中させることや少なくとも日本でディールをまとめるのを促すことも不可能ではない。一方、彼らを扱う機会を得ることで、日本のメディアの活動範囲を海外へと拡大する動機付けにもならないか。

 また、経済産業省が構想する産業革新機構のファンドと保証枠を活用したコンテンツ国際展開支援策、あるいは前述の知的財産収益の再配分を実現するための配分システムや海賊版対策も、この基金の一部として運用すればより効果的かもしれない。

 彼らの権利を保証しているにもかかわらず、得られるはずのものが得られていないといった現状のコンテンツ制作者の不満を解決するのはある意味で当然のこと。しかし、その範囲でコンテンツ政策とするのであれば、冒頭掲げたような戦略性を持ちうるのは困難だ。本来あるべきものへの補償ではなく、本来あるべき以上の産業へと飛翔するための施策をこそ期待したい。

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