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新聞の没落、易きに流れる世界--コンテンツ価値の「ゼロ」化を防げ - (page 3)

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興味深い「価格を下回るコンテンツ配信」の効用

 結果、新聞のような巨大な構造がネットによって破綻するのとは異なる理由ではあるものの、前節で述べたように限りなく無料(少なくとも定額見放題)で権利がオープンになっているものへ利用者の共鳴ベクトルが向かうことで、結果的なコンテンツ価値がゼロ化に向かっているように見える。

 僕も参加したデジタルコンテンツ協会によるデジタルコンテンツ市場について分析を行った一連の調査研究(デジタルコンテンツの市場規模とコンテンツ産業の構造変化に関する調査研究:平成21年3月)では、慶應義塾大学の田中辰雄準教授によるとニコニコ動画利用者は同サービスのコンテンツ配信そのものの価値を400円程度としてみなしているにもかかわらず、実際には500円を払っていることが指摘されている。

 その差分は100円程度であり、その説明の根拠は多様なビデオコンテンツの視聴そのものには帰属させることができない(もちろん、この推定自体にはさまざまなバイアスがあり、特に過小推定となっている可能性が高いためではないかと田中氏は述べている)。

 ではなにが500円を支払う理由となっているのだろうか? ここから先は森の解釈だが、それは一種のコミュニティーへの参加費用ではないか。

 ただ、そのコミュニティーは、一般にイメージされる安定的な構造を持った継続性のある集団ではなく、同じ価値観を一時的にでも持ったモブに近いコミュニティーであり、そんないつ興るか分からないモブへの優先的な参加料であるといってもいいだろう。

 ちなみに、同じ研究の中で田中氏が行っている価格弾力性を調べるコンジョイント分析の結果では、YouTube利用者が193円、ニコニコ動画利用者は253円が支払い意思額となっており、単なる配信サイトであるYouTubeに対して、コミュニティー性が高いニコニコ動画の方が高い金額を支払う意向があることを示している。

 すなわち、コンテンツそのものやその視聴には、従来の有料サービスと比べて極めて廉価な金額しか支払う意向はない。むしろ、無料であればいいという意志は強い。だが、コンテンツを消費する場を共有する仕組みに対しては、ある程度対価を支払う準備があるという程度なのだ。

無料という有料

 無料にして対象を狭めず、できるだけ多くの人に見てもらうのと、有料にしてどうしても見たい一部の人に見てもらうのが、コンテンツのビジネスモデルの基本モデルだ。

 もちろん、現在の新聞や雑誌のように、その組合せも少なくない。しかし、ここでいう無料・有料はコンテンツの利用者にとっての話であり、利用者にとっては無料であっても、コンテンツへの対価は企業などが費用を補っていることは誰もが知るところだ(でなければ、経済的に成立しない……が、それでも新聞社にとっては少なすぎるというのは前述の通り)。

 そして、そんな企業がメディアという仕組みを介して対価を支払うドラマやアニメなどマスメディア向けに構築された高度な「製品」としてのコンテンツは、「無料にして対象を狭めずできるだけ多くの人に見てもらう」ことを前提として、その規模感や品質感が作られ、そのレベル感を利用者も共有してきた。

 いかにコンテンツの制作技術が進化したといえども、やはり僕らがマスメディアなどで見慣れたレベルの作品を作ろうとすると、延べ人件費を見れば、たとえ1人で作っていたとしても、そこそこの金額になってしまうのは致し方ない。

 そこで、利用者にとっては無料であることに注目したモデルを柔軟にネット上で構築していけば、 易きに流れるベクトルを変えることができるのではないか、という議論が現われた。無料という有料のビジネスモデルの追求──それが「フリービジネス」だ。

 以前の記事「今こそ求められるフリービジネスのデザイン・スキル」「フリービジネスの原資を確保せよ」で紹介した「フリー」ビジネスは、ワイヤード元編集長であり、ロング・テールの命名者として知られるクリス・アンダーソン氏が注目する概念だ。当然ながら広告もそこに含まれる。要するに消費者にとって、極めて廉価、あるいはまったくの無料で利用できるサービスやコンテンツに注目したビジネスの形態のことを指しており、その詳細を記した「Free: The Past and Future of a radical price」が今年7月初めに上梓される予定だ。

 彼のブログ「The Long Tail: Chris Anderson’s blog」では、デンマークの新聞が購読料と配達料の両方を無料化(ダブル・フリー化)した事例など、最新の「フリー」ビジネスのケースを多数掲げている。

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