これまでPC内部に限定されてきたアプリケーションのあり方が、ウェブアプリケーションをめぐる新たな製品の開発で大きく変わろうとしている。まずは端末のあり方が、そして提供者が、そして最後にユーザーが変わっていくはずだ。
ウェブを通じたネットワークの世界とPC内部にあるデスクトップをつなげる試みが活発化している。OS、アプリケーションの巨人マイクロソフトが発表した「Silverlight」、Adobe Systemsのコードネーム「Apollo」こと「AIR(Adobe Integrated Runtime)」、そしてGoogle が発表した「Google Gears」といったソフトウェア群は、いずれもウェブアプリケーションの稼働環境を拡張し、SaaS(ソフトウェアのサービス型提供)の可能性を高め、より柔軟な利用を実現しようという意図に基づくという点で共通する。
もちろん、具体的に提供する内容は異なっている。例えば、Silverightがオーディオビジュアルを含めたウェブ上でのマルチメディア統合環境の実現を志向しているのに対して、AIRはウェブとデスクトップの連携を可能にしようとし、Gearsはウェブアプリケーションのオフラインでの利用を実現しようとしている、といった具合に。
ただ、ターゲット領域は異なろうとも、それらが導く未来は極めて収束しやすい。高機能なネットワークアプライアンスの実現だ。
特定の、かつ固定された機能を提供することを目的にした機器のことをアプライアンスというのであれば、厳密には定義に反した語用だ。しかし、厳密に定義された「PC」からは逸脱する製品という意味で、アプライアンスという名をあえて使うか、あるいはこれも誤解を招くことを承知の上で「PDA」と呼ぶべきかも知れない。これまでのPDAとの違いは、ネットワーク接続とサーバとの連携が前提となっていることであろう。
いずれにしても、既存のPCよりもハードウェアリソースを限定した仕様で、かつネットワークに可能な限り接続し、それが不可能な場合であっても、ある程度までは独立した利用を継続できる端末が現れる、ということを予言している。すなわち、軽量でありながら多機能性を担保した端末(ライトウェイト・マルチパーパース・アプライアンス)の実現である。
多分に、この種の端末はPCを滅亡させるものではないだろう。PCを再びプロフェッショナルツールに戻すだけで、棲み分けし共存していくに違いない。
もし、ネットワーク接続を前提としつつも、環境との連携や非接続状態での連続利用を保証できる端末が生まれるとすれば、携帯電話や車載機器などの移動体通信端末の領域になる。
その際、ユーザーが求める機能と、その装置を提供している通信会社(ここでは、垂直性を重んじる日本の状況を前提として考えている)の既存ビジネスモデルとは齟齬(そご)が生じてくるだろう。通信パケット単位での課金を行ってきた移動体通信事業者にとって、常時接続という発想は「禁忌」に近いものだったからだ。
しかし考えてみれば、常時接続という点で、実はこれまでの固定電話網を提供する通信会社よりも違和感のないサービス(物理的に特定された回線にのみ接続を許すという交換機ではなく、固有のIDをもつ端末を全回線網の中から探し出し、CDMAという極めてTCP/IPと近い発想から作り出された仮想的な接続を無線網の中で形成する)を提供してきたのは移動体通信会社だった。
符号モジュレーションと高度な圧縮技術によって電波帯域の大幅な有効利用が可能になり、その希少性は緩和されている。さらにWiMAXや次世代PHSの導入でこれまで以上に無線による「常時」接続が容易になってきていることを考慮すると、PCではなく携帯電話がPDAを飲み込み、結果PCに近い機能を提供するようになるというシナリオが説得力を持つ。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス