2003年11月よりOSDL(Open Source Development Laboratory)へ参画したNTTコムウェア。NTTの通信システムをLinuxへ移植、VoIPソリューションへLinuxを組み込むなど、Linux事業に関しては既に多くの実績を持つ。NTTコムウェアの取締役でビジネス創出部長である長野氏に、同社のLinux戦略や開発の方向性などについて聞いた。
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末松: NTTコムウェアは1999年にLinuxセンターを開設し、2000年には国内で初めてLinuxに関するコンサルティングやシステム構築、運用などをトータルに提供するサービスを開始しています。昨年11月からはOSDLへ参加するなど、Linuxの取り組みはNTTグループの中でもとりわけ意欲的ですね。
長野: 中でも特に重点を置いているのは、キャリアグレードLinux(CGL)です。具体的には交換機へのLinuxの適用であり、その進め方をグループとして集約している最中です。例えばNTTに提供しているソフトスイッチ、これを今後はCGLに置き換えていきます。また、いま作っている交換機で使用しているソフトのメンテナンスはNTTコムウェアが全面的に引き受けているので、機器に寿命が来たときにはLinuxをうまく適用できればと考えています。
OSDLへの参画は、Linuxの仕様へ日本の要求をできる限り反映させたいというのが大きな課題ですね。そのため、OSDLへの具体的な働きかけをすでに始めています。
末松: そもそもLinuxに着目した理由は何だったのでしょう。
長野: ひとつは、マイクロソフト製品に頼りきっている体制をなんとかしたかったということ。何かトラブルがあるたびにマイクロソフトの技術者から対応してもらうのでは時間がかかりすぎます。自分たちでパッチを当てられる技術者を育てられたらうまくいくと考えました。
こういう考えから、NTTコムウェアでは既に5年ほど前からVA Linux Systemsジャパンに若手の技術者を送り込んで技術の習得に努めています。こうしてLinux関連の技術者を増やしているし、サポート技術も高めていくということをやってきています。
もうひとつ、今後、OSやミドルウェアの大部分は、オープンソースになるだろうという見通しを我々は持っているため、そのメンテナンスの仕組み、すなわちサービスに関する部分に重点を置きたいのです。さしあたってはNTTグループへの着手が先なのですが、将来は国内のエンタープライズ市場に対して同様のサービスを提供していきたいですね。
末松: それだけLinuxに力を入れているのなら、NTT本社が動く可能性も高いでしょうね。
長野: NTTグループ全体でのLinux活用の動きはもう始まっています。我々はNTTグループの中で一番最初にLinuxへ着目し、関連組織を作って活動してきました。例えば北海道の「ほっかいどうスクールネット」のように、VoIPを使ったネットワークを運用するなどの実績も持っています。こういったNTTコムウェアの動きは、NTTグループ全体がオープンソースへシフトしていくための道をきちんと舗装している作業といったところでしょうか。
末松: NTTコムウェアのメインとなっている事業はシステムインテグレーション・サービスですよね。まだハード尊重・サービス軽視という傾向がある中で、Linuxの浸透によってサービスに対する市場の認識が変わるとすれば、システムインテグレータにとって追い風になると思うのですが、いかがでしょう。
長野: そうですね。システムインテグレータとして我々はどちらかといえば後発ですが、後発にとって非常にいいツールであるという認識はしています。提供価格を安くできる、つまり顧客のTCO(コンピュータやシステムの導入、維持、管理などにかかる費用総額)を下げられるのは顧客側にとって有益ですし、OSの中身が見られるのは、技術さえあれば即メンテナンスができるという点で双方に大きなメリットがあると思います。
先日、CNET Japanに載っていた私の記事にもありますが、Unixベンダーに払っている保守費用を今度は我々がもらえるようになるというのがシナリオです。
今後は通信系にも力を入れていきます。VoIPの社内向けネットワークを作ったり、キャリア向けのシェアを伸ばせれば強いのではないかと。また、NTTグループ全体では、光ファイバーによるネットワークを軸にしたユビキタスコンピューティングの実現に向けた基本指針として「RENA(REsonant communication Network Architecture)構想」を謳っていますが、現段階ではアプリケーション部分に関するアイデアがほとんど出ていない状態なんです。その辺に我々のコントリビューションが本当にできるかというのが、これからの勝負になっていくだろうと思いますね。
末松: NTTグループの中にもシステムインテグレータは複数存在しますね。
長野: はい。我々の他にもNTTデータ、NTTソフト、NTT-AT、NTT-ME、ほかにもいくつかの会社でやっています。
末松: そこでは、競争はあるんですか?
長野: はい。競争はあります。
末松: NTTコムウェアは有利な方ですか。
長野: どうでしょう、特に新しい技術に関しては完全なコンペティションになっているので、必ずしも我々が有利だとは言い切れないんです。ですから、技術力やサポート力を強化して勝負していこうとしています。
末松:NTTコムウェアはLinuxに限らず、新しい技術に対して非常に積極的であるという印象があります。例えば、おもしろい技術のシリコンバレーの企業を訪問すると、御社の社員がすでに駐在していたとか。そのような積極性は、日本企業としては非常に珍しいのではないかと思うのですが、そういった企業カルチャーはどうやって築かれたのでしょうか。
長野: いや、実はもともと新しいもの好きの会社なんです。NTTグループの中でも最初に新技術へ食いついていくクセがあって。
そもそも、私を含めてNTT研究所にいた人間が集まってNTTコムウェアになっていますから。まだそういった言葉がなかった当時からイントラネットを構築し、Unixを大量に投入して開発環境をすべて統一したんです。そういう意味では、非常に目新しいことへのトライアルを常にやってきたのではないでしょうか。逆に早すぎるんじゃないかという技術に飛びついて失敗することもあるんですが……。例えばNTTデータが保守的と見られがちなのは、彼らは技術よりもビジネスを主眼に置いているから。逆に我々はビジネスを考えずに様々な技術へ挑戦し、よかったものは取り入れてきた集団ですし、それがNTTコムウェアのDNAだと思っています。例えば現在ならばJavaやXML、UMLなども社内で拡げているところです。
新しい技術は、おそらくビジネスの上で一番大切な「顧客の要求」でもあると思っています。技術を持っていれば、先方の要望を聞きつつ、こちらからも提案できますしね。
末松: これまでの日本市場は、「他社が使うまで待っている方が得策」といった姿勢が蔓延していた気がするのですが。
長野: 確かにそういった企業の方が多い気はしますが、NTTもこれまでも様々なことにチャレンジしてきていますよ。例えば情報通信ネットワークの交換、通信、情報の各処理装置。商用でUnixを使ったのもたぶん我々が一番早い。CTRONは交換機のためだけに作ったようなものだし、インターネットも、村井純氏らと元NTT研究所にいた後藤滋樹はほとんど同時期に関わっていますし……。
末松: CGLを押さえたら、その次は、エンタープライズ系に展開されるわけですよね。
長野: もちろんです。世の中でいま言っているCGLというのは、ミッションクリティカルという意味で同じなんですね。我々が言っているCGLというのは交換機ですが、品質の問題というのは、同じレベルです。
エンタープライズ系としては、既に百貨店などのお客様に提供しているものもいくつかあって、インターネットのエッジ部分、電子メールですとか、そういうところは結構大きく使って頂いています。先ほど申しあげましたが、VoIPのネットワークを社内向けに作ってあげるとか、それからもちろんキャリア向けのVoIPそういうところを切り口に、ERPを結構やってきていて、PeopleSoftに関してはたぶん日本のSIの6割以上をやっています。私もPeopleSoftと付き合って5年以上なんですが、最初からLinuxに載せてくれと言っていて、アメリカの初代社長に、「早くLinuxに載せろ。日本はもうLinuxでいくぞ」と言ったんです。それでいま、ようやく動きだしたという感じですね。そういうのが出てくると、我々もすごく安く提供できますので、期待しているんです。
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