今秋、NTTグループ2社が相次いでオープンソースやLinuxの発展を支援する非営利団体、OSDL(Open Source Development Labs)への参加を表明した。9月にNTTデータの子会社であるNTTデータ先端技術が先陣を切り、11月にはNTTコムウェアが同団体に加入した。
NTTコムウェアは、NTTの通信システムや業務システムの設計から運用までを行ってきた部門が1997年に独立してできた企業だ。NTTグループの中では早くからLinuxに力を入れており、1999年にはLinuxセンターを開設。2000 年にはLinux に関するコンサルティングからシステム構築、運用・保守などを統合的に提供するサービスを国内で初めて開始している。
NTTコムウェアは現在、Linuxを最もミッションクリティカルな分野で使えるように育てようとしている。OSDLへの加入はその一環だ。キャリアグレードLinux(CGL)と呼ばれる通信事業者向けのLinuxや金融システム向けのデータセンターLinux(DCL)の要求仕様策定に参加し、ハイエンドのLinuxシステムの実現を目指そうというのだ。
OSDLに加入することで、NTTコムウェアにはどのようなメリットが生まれるのか。OSDLでの活動と狙いについて、NTTコムウェア ビジネス創出部 担当部長の竹川直秀氏に聞いた。
---OSDLに参加した理由を教えてください。
まずOSDLの成り立ちから説明しましょう。OSDLはLinuxの企業導入の推進やコミュニティ支援のために設立されたNPOです。本拠地はオレゴン州ポートランドにあり、新たに開発されるLinux関連のソフトウェアが様々なマシン上で動くかどうかを検証するテストラボがあります。OSDLには日本の大手ベンダーであるNECや富士通、東芝なども参加しており、日本には世界で2番目に作られたラボが横浜にあります。
そしてOSDLには、もう1つの重要なミッションがあります。それは、企業のLinux活用を促進させるため、標準化を行うというものです。OSDLではLinuxを使うために必要な条件について要求仕様を作成します。その仕様に基づいてコミュニティなどが開発を行い、ディストリビュータがCGLやDCLをリリースする流れになっています。NTTコムウェアがOSDLに参加したのも、この標準化に参加したいと考えたからです。
OSDLに参加している企業というのは、NECや富士通、IBM、Nokia、Ericssonなどのメーカーや、Red Hat、SuSE、MontaVista Softwareといったディストリビュータがほとんどです。我々はシステムプロバイダですから、こういった企業が気付いていない顧客のニーズを知っています。だからこそ、標準化について独自の提案ができると自負しています。今後は顧客のニーズを取り込むために、金融機関などのユーザー企業も参加できるようにしようという動きがあります。
---OSDLではどのように活動していくのですか。キャリアグレードLinux(CGL)とデータセンターLinux(DCL)の仕様策定に参加するという話ですが。
今、標準化の中で最もホットな話題がCGLです。CGLは今年10月にバージョン2.0が策定され、今は3.0の策定に向けて動いています。
CGLは通信でも使えるLinux、つまり最も高い信頼性が要求される交換機でも使えるスペックを目指しています。交換機は絶対に止まってはいけない、ミッションクリティカルの極致です。CGLでは高信頼性、高可用性、高拡張性を追求していきます。
しかしCGLは通信事業者だけのものではありません。交換機で利用できるハイエンドなスペックは、エンタープライズ分野でも応用可能です。CGLは通信事業者の利用に耐えうるシステムをLinuxで作ろうというものですが、それは一般の企業でも活用できるようになると思います。
CGLやDCLのワーキンググループ(WG)は今までアメリカで会合を開いていました。しかし日本の加入企業が多いので、日本でも9月にサブWGができました。NTTコムウェアはこのWGのチェアマンを引き受けています。
CGLバージョン3.0の要求仕様は、8つのカテゴリで構成される予定です。その中でもNTTコムウェアはアベイラビリティ(可用性)とクラスタリングという、システム的に一番重要な部分のドラフト作成を担当したいと思っています。OSDLの加入企業の中で、クラスタリングを手がけた経験と、ユーザーとしての知識を同時に持っている会社はほかにないんですよ。NTTコムウェアはクラスタ製品も持っていますし、さまざまなクラスタ製品を用いてシステム構築を行ってきた多くの経験があります。高可用性については、NTTコムウェアが長年培ってきた交換機のソフト開発やオペレーションの経験に基づくノウハウをもとにCGLの要求仕様策定に貢献できればと考えています。
---DCLについてはどうですか。
DCLは、金融システムで活用できるレベルのLinuxを作ろうというものです。金融機関は膨大な顧客を抱えているため、金融システムには大規模なデータベースが存在します。これは絶対にデータの欠損が許されないシステムです。また、いかに高速にアクセスできるかという点も非常に重要視されていますし、拡張性も大切な要素です。
CGLとDCLの違いは、その適用ターゲットを考えてもらえばわかりやすいと思います。CGLは交換機のような、“切れてはいけない”通信インフラを支えるものに適用します。一方、DCLは“失ってはならない”データを扱うシステムで適用するものです。例えば、NTTには6000万件以上の加入者情報を収容しているデータベースがあり、常にオンラインで処理を行っています。将来的には、こういったものにもDCLが適用されていくでしょう。
ただ、DCLに求められる要素技術とCGLに求められる要素には同じ部分も存在します。ですから、もしかすると、CGLを追求すれば、DCLの技術要素も含んでしまうかもしれません。CGLで開発した要求スペックの一部が、DCLのスペックに流用されていくことはあると思いますし、その逆もあるのではないかと思います。
---NTTコムウェアが標準化に参加する狙いは。
第一に、現在のCGLのスペックでは、まだまだ不十分です。日本の通信システムの中で、我々がLinuxを交換機のOSとして安心して使うために必要な条件を要求仕様の中に入れたいと思っています。
NTTコムウェアでは、CGLの仕様検討に15人以上の人材が参加しています。OSDLでの標準化活動を通じて、CGL、DCLの専任技術者の数を増やしていくと同時に、その技術精度を高めていきたいと思っています。NTTコムウェアでは、CGLの前進であるハイアベイラビリティLinux(HA-Linux)の時代から要求事項の提示を行ったり、ベータテスターとして活動していました。ですから、実質的には、以前からCGLの活動に関わってきているのです。このような会社は、日本ではNTTコムウェア以外存在しないと思います。また、ソフトウェアだけでなく、HA-Linux環境下で活用するハードウェアの検証も行っており、現在でもそれは継続しています。
---NTTグループでは、今後どういったシステムをLinuxで動かすつもりなのでしょう。
NTTはあらゆるシステムをLinuxにしていくと思います。NTTドコモではすでにパケットノード(交換機)をLinuxで動かす準備をしていますし、Linuxベースの第3世代携帯電話(3G)も作ると言っている。この流れは止まらないと思いますよ。
---通信事業者にとってLinuxの魅力とは何でしょう。
NTTに特化したことではなく、全般的に言えることですが、自分の会社が自分の使うソフトを制御できるというのは大きな魅力です。商用のソフトウェアを購入した場合、それを改造して使うことはできません。自分で修理することもできません。自分で使いたいようにソフトをコントロールする、ということを考慮すると、Linuxは適したOSだと言えます。また、仕様がオープンなわけですから、ベンダーによる囲い込みを避けることも可能となるわけです。
ブラックボックス化したソフトウェアがもたらした弊害に日本国中が気づき始めたと思います。最大の弊害は日本のソフトウェア産業で人材が育たない、育ちにくい環境になってしまったことです。日本のシステムプロバイダは、買ってきたソフトウェアのセッティングや調整など、付加価値の少ない商売ばかりをやってきた。これを何とかしないといけないと皆が思い始めた時に、Linuxが実用に耐えうるレベルにまで成長してきた、という時代の流れがあるのです。
---NTTグループの他の企業もLinuxに力を入れてきているようですが、グループ内での競合はありませんか。
NTT東西やNTTコミュニケーションズ、NTTドコモなどのサービス会社群は、自社のサービスの高度化、低価格化のために、Linuxの利用を検討し始めています。また、NTTのシステムプロバイダ会社群も、すでに多くの企業がLinuxへの対応を強化しています。その中でもNTTコムウェアは通信関連のシステムが強いとか、NTTデータは公共分野のシステムが強いといったように、それぞれが得意分野を持っています。ですから、互いの強みを「NTTのLinux」に反映させていけば、自ずと補完し合う関係ができあがるのです。NTTコムウェアは他のNTTグループ企業と協力しながら、NTT全体のLinux活用の推進を図るとともに、NTT以外の市場に対してはLinuxを活用したビジネスの開拓を進めていきたいと考えています。
---NTTコムウェアのビジネスについて聞かせてください。どのような分野でLinuxを推進していきますか。
全てのビジネスに使っていきます。ただ、NTTコムウェアの特徴を出さなくてはいけない。その一環として、照準をCGLやDCLに当てています。
LinuxはDNSサーバ、メールサーバやウェブサーバなどのインターネットサーバから始まって、会社のアプリケーションサーバやデータベースサーバにも使われてきています。しかし、まだ基幹系にはあまり使われていません。NTTコムウェアが得意としたい領域は、ミッションクリティカル分野への適用です。そこが主たる戦場でしょう。
---今後は一般企業向けに力を入れていくということですか。
NTT向けの事業はこれまでと変わりません。グループ企業としてNTTのネットワークの高度化と低価格化に寄与していきたいと考えています。同時に、一般企業市場の中でも大企業や公共分野向けに、Linuxビジネスを大きく展開していこうと考えています。
---NTTコムウェアが狙うのはハイエンドの顧客だと。
我々は、従来からハイエンドな分野のミッションクリティカルシステムの構築を得意としてきました。これらの知識や技術力を最大限に活かし、CGLやDCL、オープンソースソフトウェアなどを活用しながら、よりニーズに合ったシステムを多くのユーザーに提案していきます。同時に、故障の解析、改修までを一貫して行うサポートサービスを組み合わせることで、幅広いユーザーが安心してLinuxやオープンソースを活用してもらえるような環境を今後も作っていければと考えています。
Linuxは信頼性がないとか、サポートが心配だといった理由でLinuxの導入をためらっている企業がいまだに多いと感じています。しかし、ハイエンドのシステムまでもLinuxで作っていると言われれば、そういった会社のエンジニアに頼めば安心だ、となる。こういったハイレベルな技術者集団の存在が、Linuxの場合は受注の鍵になると見ています。
---標準化されたCGLを利用するとなると、どこで差別化を図るのでしょう。
たしかに全てを標準化してしまったら儲けるところはなくなります。標準化活動をしながら、自分が儲ける場所はどこかを常に考えていかないといけない。その意味でも、標準化活動というのは非常に大事です。
実際のシステムにCGLを適用する際には、多くのミドルウェアが構成要素として必要です。OSDLでは、OSとミドルウェアのインタフェースをきっちり決めます。標準化に参加することで、この辺りの情報をいち早くつかむことができ、他社に先行してビジネス戦略を立てられるわけです。
---現状のLinux関連の売上と、今後について聞かせてください。
今はまだ100〜200億円のレベルです。3年後にはNTTコムウェアが手がけるシステム構築のうち、半分以上はLinuxというような状態に持って行きたいですね。
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