技術者に人気の高いGoogleでは、すべてのエンジニアが仕事時間の20%を自分の好きなプロジェクトに費やすという「20%ルール」が存在するが、サイボウズ・ラボでは「50%ルールを適用している」と畑氏。きっかけは「20%よりもインパクトがある」ということで始めたというが、研究開発テーマを自分で決める能力のある開発者にとってはまたとない環境だ。
ただし、自主的にテーマを決めるのは難しいことでもある。畑氏は、「ある程度経験がないとできない。採用の際には、なるべくビジネスとかけ離れないテーマを自主的に見つけられる人、という基準を重視している」と述べる。
新しいサービスを開発する際、各社はどのような手法を取っているのだろうか。はてなが開発の際に合宿を行うことはよく知られているが、ECナビの宇佐美氏も、開発のためのラボ合宿を実施しているという。「少人数でひとつの場所に集まり、深く集中して開発するため、通常の開発スピードの2倍から3倍は高いパフォーマンスが出ているのではないか」と宇佐美氏はいう。
NTTレゾナントの濱野氏も、「事業部門と技術マーケティング部門が一緒になって、アイデアを出し合うための合宿を行うことがある」と話す。そこで実際にアイデアが固まる段階にまで発展することはあまり多くないというが、「同じ釜の飯を食うことから、関係が深まり、その後の日常的なコミュニケーションでよりよいアイデアが生まれることがある」と濱野氏。
また同氏は、「大学などの外部研究機関と産学連携で共同研究を行うこともある」と話す。APIを公開することで、大学の研究室など遠隔地との共同研究もよりスムーズになると濱野氏はいう。
このようにして、新しいアイデアや技術が次々と生まれるインターネットの世界。しかし、すばらしい技術を生み出した企業が必ずしも成功するとは限らない。成功への鍵はどこにあるのだろうか。
楽天の吉田氏は、「経営者や幹部が、どれだけITの知識を学ぶかにかかってくる」と述べる。「会社の規模に関係なく、経営陣がITの利用の仕方をよく理解していないとうまくいかない。せっかくいい技術を持っているのに、うまくいかなかった企業は山のようにある。逆に、Googleのように技術とビジネスを結びつけるセンスのある経営者がいれば、どんどん発展して利益を出せる企業になるだろう」(吉田氏)
例えば、日本でもグリーの代表取締役社長 田中良和氏や、はてな 代表取締役 近藤淳也氏など、技術的バックグラウンドを持った経営者が登場しているが、吉田氏はこうした経営者について「技術とビジネスのコミュニケーションロスがないので効率が良い」としている。
NTTレゾナントの濱野氏は、「技術者にビジネスセンスを持たせることも重要だ」と話す。そのためにも、「技術者とビジネス担当者のインタラクションが必要」と濱野氏。また、検索ビジネスをはじめとしてグローバル市場での競争も激しくなっているため、「技術者は国際的な戦略センスを持たなくてはならない」と指摘する。
サイボウズ・ラボの畑氏も、技術力とビジネスの成功が必ずしも結びつくわけではないという点に同意すると共に、「(製品やサービスを)継続的に改善することも重要だ」としている。畑氏は、表計算ソフトを例に出し、「Microsoft Excelが市場シェアを独占しているのは、同社のマーケティング戦略ももちろんだが、やはり継続的に機能改善していったことが良かったのではないか」として、勝ち抜くためには「技術力プラス改善力だ」と述べた。
一方、新しい技術をいかにして実際の事業に取り入れるのか、また事業化する際の判断をどうすべきかという点も経営者にとっては大きな課題だ。
濱野氏は、gooラボでベータ公開したものを事業化する際の判断について「明確な基準はない」と明かす。あいまいではあるが、「ユーザーの反応を見た上で、これならいけるのではないか、と感じた場合に商用サービスに移る」としている。
ECナビの場合は、基本的に社長である宇佐美氏が事業化の判断をする。「まずアイデアを実現させるのかどうかはもちろん、アルファ版のサービスをベータに移すタイミングや本格サービスとしてリリースする時期など、高度な経営判断を伴うため、直感的な判断ではあるが、私がコミットしている」と宇佐美氏は話す。
「ラボ設立3年で何もヒットが出なければ、きっとやり方が間違っているのだろう」というサイボウズ・ラボの畑氏は、「3年以内に何もヒットが出なかったらつぶされても仕方ないという覚悟でやっている」と明かす。多くのラボは、ここ数年で立ち上がったばかり。次々と立ち上がるラボで新しい挑戦を続ける技術者と経営者たちが、数年後にどのような成果を出しているのかが楽しみだ。
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