情報処理学会と情報ネットワーク法学会は6月28日、「Winny事件を契機に情報処理技術の発展と社会的利益について考える」と題したワークショップを開催した。会場では英知法律事務所の岡村久道氏と北尻総合法律事務所の壇俊光氏が登場し、Winny事件に関する問題点を指摘した。
岡村氏はPtoPファイル交換をめぐる日米の裁判動向を紹介しながら、Winny事件に対する見解を紹介した。
英知法律事務所の岡村久道氏 |
まず、PtoPファイル交換ソフトの裁判例として有名な米国のNapster事件と、日本のファイルローグ事件を比較し、日本の裁判の特徴を紹介。この2つの事件の違いについて岡村氏は「Napster事件の場合、あくまでもが正犯はユーザーであり、Napsterはユーザーの著作権侵害行為に寄与しているとして訴えられた。しかし日本では正犯でないとサービスを差し止めるのが難しい、という法律技術的な理由でむりやり正犯にさせられた」と指摘した。
今回問題となっているWinnyについては、流通するコンテンツを中央サーバでコントロールできないという点で、Napster/ファイルローグ型ではなく分散型のGrokster/Morpheus型であると分類した。米国ではGroksterとMorpheusは合法という判決が下っている。
岡村氏は裁判の課題として、民事訴訟ではすでに設置されている専門委員制度が刑事訴訟にはないことを挙げる。「裁判官に科学的知見があるのか危惧している」(岡村氏)とした上で、制度の整備が必要と訴えた。
「科学技術は先人の業績の上に伸びていくもの。著作権法という枠組みの中で科学技術の将来を決めるのは乱暴ではないか」(岡村氏)
弁護団から見た問題点とは
北尻総合法律事務所の壇俊光氏 |
続いてWinny開発者の弁護団の事務局長を務める壇氏が登場し、刑事責任に関する問題点を指摘した。壇氏は経済産業上・刑法上・著作権法上の3点で問題があると話す。
ファイル交換システムでは映画等の大量のデータをサーバの負担なく流通させることが可能だ。これにより、高額なサーバを維持することが難しい零細なクリエイターでもコンテンツの流通・販売が可能になる。また、ネットワーク上で直接取引することで中間マージンを削減でき、低価格化や企業収益の向上に結びつくといったメリットもある。壇氏はファイル交換システムが適法とされている国では開発競争が始まりつつあると指摘し、「Winnyを否定すれば日本がPtoPの国際競争で敗北するのは必至だ」とした。
2つ目は刑法上の問題だ。Winnyの開発者は著作権法違反幇助の罪に問われているが、開発者は著作権法を犯したユーザーと面識もなく、実行行為の有無もわからないと壇氏は言う。「Winnyの提供が幇助となるのであれば、リミッターを付けずに制限速度以上で走れるようにしている自動車メーカーも道路交通法違反幇助にあたる可能性がある」(壇氏)と訴え、処罰の範囲に関してガイドラインを作るべきだとした。
著作権法上の問題については、まずWinnyが自動複製装置に当たるのではないかと話す。著作権法第119条2項によると、公衆に自動複製装置を提供した場合でも営利性がなければ罰則はない。「開発者はWinnyによって一切利益を得ていない」と指摘し、罰則処分に対して疑問を投げかけた。
Winnyが幇助として認められた場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金という処分になる。壇氏は、DRMを回避する技術を提供した場合の罰則が1年以下の懲役または100万円以下の罰金になると紹介し、「複製権・公衆送信権侵害の幇助行為の中でも、回避技術のほうが違法性は高いのではないか。違法性の高い行為のほうが刑が軽いという矛盾が生じる」とした。
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