この年末年始の休暇で、新幹線や空港などでは、BlackBerryやiPhone、スマートフォンなど手のひらに収まるくらい小さなPDA(携帯情報端末)を使う光景があちらこちらで見られた。画面に引きこまれる様子はまるでオフィスにいる気分だ。
実際この数年、PDAの進展はめざましい。インターネット接続も当たり前になり、積極的にPDA向けサイトに取り組む企業も増えた。
モバイルサイトの使い方やサイトのコンテンツに関連するコンサルタント企業は大忙しだ。モバイルユーザーには、PCでアクセスできるコンテンツなら自分の端末でアクセスできるとの思いがある。それだけに各社の対応は真剣だ。
IR業界の有力誌「IRマガジン」(2009年1月号)が、こうしたPDA関連の動きを報じた。
まず最初に取り上げたのが、すぐれた企業サイトで知られるドイツの総合電機大手シーメンス。すでにモバイル向けの特別コンテンツを発信している(http://mobile.siemens.com.)。
「当社について」と「シーメンス、質問に答える」がコンテンツだ。「当社について」は「企業紹介」「主な財務数字」「事業紹介」の構成だ。「企業紹介」は短い。「主な財務数字」には「新規受注」「売上」「純利益」「フリーキャッシュフロー」「株主資本」「従業員」の数字が並ぶ。説明はない。「事業紹介」も多くのビジネスを写真に撮り、簡潔な文章を掲載。
「シーメンス、質問に答える」では各事業分野を紹介する。同社は、近いうちにIR部門を巻き込んだサイトの更新を用意しているという。新着情報の掲載で、将来は、現在PCでアクセスする企業サイトとモバイルでアクセスするサイトを同期化する構想もある。
タイの飲料大手タイ・ビバレッジのホームページも取り上げられた。PDAサイト版を用意しているからだ。
「交通渋滞で動きのつかない投資家が、電話会議の四半期決算説明会を聞きたがっているという話をアナリストから聞いたのがヒントになった。そこでモバイル機器でなんとかならないかと考え、PC向けのサイトをPDA端末でも簡単に読めるようにしたのです」(「IRマガジン」)。
画像は最小に、テキストも1行に押さえ込んだ。テーマ別の情報を最小コンテンツにまとめ、ユーザビリティを高めるという。オランダのバイオ企業クルーセルは株価情報をPDAユーザーに提供し、将来は同業他社の株価や統計情報、プレスリリースも同時に掲載する予定だ。
日本でも携帯電話向けサイトをもつ上場企業はすでに60社を上回る。多くのIR担当者が携帯電話などPDAに向けた情報発信の重要性に気づいている。
しかし、コスト面でいまひとつ踏み切れないという声も強い。どのPDAもディスプレイ方式は異なる。
日本でも3つの異なる方式がある。前出のシーメンスもモバイル版を発信する前に、5つの異なるでディスプレイ方式でテストしたという。サイト構築の競争が増えればコストも安くなるというが、技術的なハードルも高い。
5年前、PDA関連のテクノロジは反応が遅く、取り扱いもいまひとつだった。それがどうだろう。いまではデスクトップ・コンピュータと同様、ソフトウェアは急速な勢いで改良された。PDAは「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」コンピューターネットワークで結ばれるユビキタス社会の要(かなめ)となった。それだけに、企業情報の発信者となるIR関係者も関心を持たざるをえないだろう。
◇ライタプロフィール
米山徹幸(よねやまてつゆき)
大和インベスタ−・リレーションズ(大和証券グループ)海外IR部長。近書に「大買収時代の企業情報〜ホームページに『宝』がある」(朝日新聞社)最近の論文に「世紀の危機を乗り越えるIRとは」(『広報会議』09年2月号)、「米取引所、上場企業にIRサービス拡大」(「月刊エネルギー」09年1月号)など。
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