これは米国だけの状況・動向に限らず、同様に日本でも顕在化している。日本の場合、すでに小泉政権以降の経済政策の失敗のツケもあって、サブプライム問題とは別の理由から不況への突入が確実になっていたため、金融の信用危機の直接的な波及規模が先進国の中では少なくとも景気後退が顕在化する幅は大きい。結果、企業は全般的に費用の引き締めを行い、効果が見えにくい広告媒体への出稿が急速に減ってきている。
在京キー局の平成20年9月中間決算では、放送および映像事業で全社が売上減。フジテレビ、東京放送(TBS)、テレビ朝日の3社が最終減益、日本テレビ、テレビ東京の2社が赤字になった。また、全国紙や出版大手の多くが赤字という。電通、博報堂DY、アサツーDKの広告代理店大手3社もやはり中間と通期見通しで大幅な減益となっている。もちろん、だからといって2兆円のテレビ、1兆円弱の新聞、5000億円弱の雑誌の各媒体広告費がそうそう簡単になくなるわけではない(これらはすべて2007年分。2008年2月の電通発表)。
しかし、これまでと同じやり方では、これまで通りの利益率を確保できる時代は終わったことは明らかになった。加えて、テレビには2011年7月24日のアナログ停波(米国では2009年2月17日)という大きな試練が待ち構えており、アナログからデジタルへという視聴者の社会経済属性に直接結びつく不連続性をどうやって乗り越えるかが課題となっている。
同じ広告でもネットメディア(6000億円:出典は同じく電通)は気を吐いているといいたいところ。だが、マスメディアほどの減退にはならないものの、これまでの成長スピードに比して頭打ちとなる気配は免れない。とはいえ、最新の推定によると10%(WPP GroupM推定)から18%(Publicis ZenithOptimeria推定)という2桁成長が依然として見込まれ、全広告費の12.1%(Publicis ZenithOptimeria)〜13%(WPP GroupM)を占めるようになるという。しかし、その中身となると複雑な状況にあり、既存マスメディア向けの予算がもれなく流れ込むといった安易な期待はできない(「世界の広告費媒体別割合の推移予測」を参照)。
たとえば、その膨大なトラフィックが広告媒体として有望と思わせたソーシャルメディア系広告は、主流となっている単純なバナーなどの露出広告ではブランド認知・販売促進ともに効果としては期待にはそぐわなかったこともあって、今後の成長は鈍化するといった予測が強まっている。とはいえ、ブランデット・エンタテインメントなど映像をトリガーとした行動変容戦略への注目は高く、依然としてネット広告全般への期待は衰えてはいない(とはいえ、広告商品としての「手離れの悪さ」が常に課題として挙げられるのだが)。
特に過去の行動履歴、あるいは物理的なアーティファクトを含めた多様なメディアの組み合わせにより、幅広いシチュエーションでの行動変容をナビゲートするデザイン・ツールとしてのネットメディアへの出稿額は今後も増加すると考えられている。たとえば、これまで日本が先行してきたモバイル広告へも欧米のプレーヤーは積極的な投資を開始し、急速に知見を蓄積しつつある。
日本以上に制限の多い状況下であっても端末メーカーやサービス提供者などの多様なプレーヤーがそれぞれの強みを生かして、単純にケータイのディスプレーの中で見える広告だけではなく、より幅広い領域でユーザーの情報消費行動を変化させる仕組みつくりに躍起となっている。この流れは、そのまま以前紹介したマルチスクリーンやマルチプラットフォームというトピックへとつながっていく。同様に、その背後には生活者からの情報やコンテンツ消費への対価徴収が困難という仮説=フリービジネスの蓋然性が存在する。
欧米ではメディア事業者が非採算部門を売却し、既存事業を強化するために自らが有していないスキルを外部から調達するなどの動きが活発化してくるだろう。日本では広告代理店や商社、あるいは通信やネット事業者を絡めたより大きな範囲で緩やかな連携が始まり、企業の広告費とそれ以外のマーケティング+コーポレート・コミュニケーション予算(販売促進、リベート、広報、IRやCSRなど)を狙った統合企業コミュニケーション支援サービス提供のための再編が起こる予感がある。
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