「瀕死と完全な死には大きな違いがある。瀕死はわずかだが生きている」- Miracle Max、『プリンセス・ブライド・ストーリー』
2006年の今ごろは、ブロガーたちはDiggやYouTube、Del.icio.usのクローンについて報じていた。それらの新興企業の多くは今はもう消えているが、ホスティング費用が低下しているため、ユーザーがいなくてもサービスをオンラインに永久に残しておくことが可能だ。新興企業を作るもっともよい方法は、既存のカテゴリーを追いかけるのではなく、最初の1社となれる新しいカテゴリーを作り出すことだ。別の言い方をすれば、既存のサービスの提供を超えて、新興企業は新しい市場を作ることに専念する必要がある。
ほとんどの新興企業が失敗するということは、秘密でも何でもない。この問題はバブルとともに始まり、今でもウェブを侵し続けている。バブル期に比べれば、新興企業に流れ込む資金は少なく、ドットコムバブルが再び起こることはないだろう。しかし、新興企業の失敗率は変わっておらず、悪化してはいないとわたしはみている。新興企業の効果的な戦略を開発するのに最も大きな壁となるのは、企業は市場全体に訴えかけねばならないという強硬な信仰だ。今日の世界では、新興企業を潰すのは収入の少ないビジネスモデルではなく、より焦点を絞った競合他社だろう(5)。
新興企業が万人にアピールしなくてはならないなどと、どこに書いてあるのか?どうやら、正反対の例が多くあるにもかかわらず、網が大きければ大きいほど多くの顧客を得られるという、ほとんど信仰に近い考えがあるようだ。例えば、デパートには何でも売られている。しかし、消費者は、オフィス用品を必要なときにはWalMartではなくStaplesに行くのだ。その理由は、WalMartが世界最大のデパートであっても、顧客のニーズに完全に合わせた専門的なビジネスでは勝てないからだ。万能選手はしばしばより大きな市場シェアを持つが、それは顧客の忠誠心と引き替えになっている。長期的には有望なのは専門性のある企業だ。
ウェブの場合、ポイントになるのは、余分な機能は認知的な負担になり、ユーザーの注意を本来の仕事から脇にそらしてしまうということだ。ひとつひとつの注意を散らす要因は小さくても、全体としては大きくなり、失敗に帰結することもある。インターネットでは、競争は常にクリックのすぐ先にあり、ユーザーをイライラさせたらすぐに他へ逃げられてしまう。特定市場に焦点を絞った新興企業は競争を減らすことができ、無意味な機能追加の圧力を避けられる。焦点を広げてどこかに強みを持つことは、焦点を広げてすべての場所で弱くなってしまうよりも優れたアプローチだ。
以下は本文注記
(1) さらに、もし特定市場が十分小さければ、巨大企業(Google、Microsoft、Yahoo、AOL)などはそれを追求するだけの価値はないと考えるだろう。
(2)電子メール、オンラインビデオ、カレンダー、ニュース、ブログ、デスクトップ検索、写真共有、オンライン決済、ソーシャルネットワーキング、インスタントメッセージング、Wi-Fi無線LAN、ワープロ、ウェブホスティング、検索ツールバー、表計算ソフト、RSSリーダー、掲示板、地図などがその例だ。過去にわたしは、Googleは製品拡大路線をやめるべきだという提案を2つ書いている。「How to Fix Google(Googleの直し方)」「Napoleonic Lessons for Google adn Microsoft(GoogleとMicrosoftはナポレオンの失敗に学べ)」がそれだ。
(3) トマス・アクィナスは、13世紀に次のように主張している。「1つの手順で適切に処理できる方法があるなら、複数の手順で行うのは無駄だ。観察される限りでは、自然は1つの道具で十分な場合には、2つの道具を選ぶことはない」
(4)Googleは検索を単純化することで、Web 2.0世代の寵児となった。
(5) お金を生まない限り、ビジネスはビジネスではない。お金を生む手段の不足は、失敗の元だ。
(6) このアイデアはわたしだけのものではない。実際、わたしはアイデアを独力で作り上げられたことはないと思っている。ここで披露した考えは、次の本の著者に触発されたものだ。"Don't Make Me Think"、"Trout on Strategy"、"Focus"、"The Origin of Brands"、"The Immutable Laws of Marketing"、"Positioning"。
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