墓穴を掘る日本コンテンツ--北米のアニメ・マンガ事情が語るもの - (page 2)

 かつて米国が日本に落とした種が成長し、米国に再上陸し、その文化にブーメランのように影響を及ぼしつつあるといってもいいだろう。これまで、移民の受け入れとエスニックメディアの台頭により、異なる民族にまで影響を及ぼした米国における文化波及のケースは多々ある。が、その主体となる民族不在のままで米国に影響を及ぼす存在はまれではないか?10月発売のWired誌には、『ハイコンセプト』などの著者として知られるDaniel Pink氏が「Manga Conqures the America」という特集記事を寄稿している。

 具体的なmangaの、そしてanimeの市場動向はどうだろうか。マクロな数値を見る限り、「Manga市場は鈍化しつつも成長は続いており、一方で、Anime市場は崩壊した状況のまま」といえる。

米国におけるmangaとanimeの市場規模
(出典:ICv2、*は年末推定を含む)
2002 2003 2004 2005 2006 2007
manga 市場規模 6000万ドル 1億ドル 1億3500万ドル 1億7500万ドル 2億ドル  
前年比   67% 35% 30% 40%  
タイトル数       1088 1268 1468*
anime 市場規模 5億ドル 5億5000万ドル 5億ドル 4億5000万ドル 4億ドル  
前年比   10% ▲9% ▲10% ▲11%  
タイトル数 400 562 727 733 759 617*

 

 mangaの好調は「Shojo」層(といっても、実はミドルティーン以上。日本で言えば「腐女子層」ということになるのだろうが、そこまでコアな人々を指しているわけではない。付け加えておくと、OtakuやYaoiなど、日本とは異なった使われ方をしている専門用語は多い)向けを中心にこれまでよりも広い層へのアピールが浸透しつつあり、結果、一般的な社会的な認知も高まっているためといわれている。1冊は10ドルほどで売られることが多いので、2000万冊程度が販売されていることになる。

 ちなみに日本ではマンガの単行本と週刊誌を含めて5000億円程度の市場規模がある。それと比べればまだまだ米国市場は小さいのが現実だ。しかし、北米で2007年秋時点での発売タイトルは1328点。そこでは日本作品以外で中国や韓国の作品が12%程度を占めるようになっており、北米発作品(7%)も増加する傾向にあるなど、日本の地位は揺らぐ可能性がある。

animeの没落の原因

 再びanimeの話に戻ろう。その低迷の理由は、かなり明白だという。mangaと異なり、animeを楽しむ土壌がDVDからテレビとネットに移行したからだ。

 これまでDVDでしか手に入らなかった作品を、11にまで増加したチャンネルでのオンエアで観ることができるようになった(そして録画する)。また、ファンサブ(自主翻訳)の効率的な製作を可能にするボランタリーな体制が自然構築され、違法ダウンロードがごく一般的になされるようになったため、DVDの売れ行きが縮小したのだ。

 北米でアニメを販売する事業者たちは、DVD販売のライセンスを日本から購入し、テレビ放映の窓口になっている場合もある。だが、巨大なメディアに対して相対的に分が悪く、放映料では回収できないし、そもそも放映ライセンスは日本のアニメ製作委員会と直接やり取りがされることが多いのだという。DVDセールスで回収するという日本の深夜アニメ同様のビジネスモデルであったことが災いした。その結果、大手販売事業者の一部は倒産寸前にまで追い込まれ、シェア20%を持つ業界3位のジェネオン(電通系)は今年になってDVD販売から撤退したほどだ。

 また、事業者たちはオンラインでの配信も検討したいが日本側が許可しないと、不満を述べる。不許可の決定も、複雑な意思決定プロセスを経なければならない製作委員会方式が災いして、長い時間がかかるのだという。もっとも、オンラインでの配信であっても、日本での放映後半年以上の時間をかけて翻訳版を製作して配信せざるを得ず、DVDの販売とそれほどの差をつけられないという意見もある。それでは、翻訳版をユーザーたちが待ちかねて、違法作品のダウンロードに走ってしまうという状況に対応できない。

 加えて日本の権利者がライセンス料を高騰させたため、利益率が極端に低まり、販売会社の経営が行き詰まって、扱える作品数が減るという悪循環に陥っているという。

 とはいえ、ネットでの違法ダウンロードは確実にDVDを購入してこなかった層へanimeを広げているのは事実だ。実際にテレビでのanime視聴者の多くは、ネットの違法ダウンロードをきっかけにanimeに興味を持つことが多いという皮肉な状況がある。

韓国や台湾に目を向ける米国の事業者たち

 米国のanime事業者(実は同時にmangaを取り扱っている場合も多い)たちの、日本の作品への尊敬はきわめて高い。それがゆえに、彼らは北米市場の開拓に賭けたのだ。しかし、現在、彼らの多くは日本のマンガやアニメ産業の構造的な問題に失望しつつある。メジャーメディアやネットに端を発する課題への解決の機会を逸しさせている、という見方が強いからだ。それが、日本は終わった、といった発言などに表れているといっていいだろう。

 すでにトイストーリーに始まる3DCG技術を駆使した、animeではなくcartoonは映画版以外にテレビ番組としても数多く作られており、メジャースタジオはそれで大成功している。それに体力的に対応できないanime事業者たちは、すでに日本のアニメ事業者だけではなく、韓国や台湾といった国のスタジオとの交渉を始めている。韓国製、あるいは台湾製のanimeの製作を自ら手がけようという発想だ。

 日本のコンテンツ産業は、本来その姿を広い領域へと広げたクリエイティブ産業になるべきだが、それ以前に海外というこれまた本来最も力を注ぐべき市場からそっぽを向かれてしまいそうな状況にある。これをどこまで理解しているのか。不安は尽きない。

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