AIがスマホのカメラにもたらした功罪

Andrew Lanxon (CNET News) 翻訳校正: 編集部2025年01月08日 07時30分

 2024年に登場した高性能なスマートフォンと言えば、「iPhone 16 Pro」「Galaxy S24 Ultra」「Pixel 9 Pro」などだろう。そのすべてに共通するのが優秀なカメラシステムだ。1台のスマートフォンにいくつものレンズが詰め込まれ、息をのむような写真を生み出す。その出来映えは、プロ用カメラで撮影した写真にも引けを取らない。もっとも、同じことは2023年に登場したスマートフォンにも言える。スマートフォンのカメラは、細かい改良を除けば、ハードウェア面ではほとんど進化していない。2024年のスマホカメラに起きた大きな変化は、撮影プロセスに人工知能(AI)が深く組み込まれるようになったことだ。しかし筆者は写真を仕事にしている者として、この変化を手放しでは喜べない。

スマートフォンと多数のカメラレンズ 提供:Andrew Lanxon/CNET
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 GoogleのPixel 9 Proは、洗練されたデザインと高性能なプロセッサーを備えた、マルチに活躍する優秀なスマートフォンだ。高品質なカメラも搭載しているが、使われているハードウェアは2023年発売の「Pixel 8 Pro」とほとんど変わらない。Pixel 8 Proとの最大の違いは、多彩な生成AIツールを最初から搭載したことだ。例えば、「編集マジック」を使えば簡単に画像を修正したり、新しい要素を付け加えたりできる。どんよりと曇った空も、手軽に美しい夕焼けに変えられる。「Pixel Studio」機能を使えば、多少の失敗はあるにせよ、簡単な指示で多種多様な画像をいくらでも生成可能だ。

 しかし、こうした新ツールのほとんどは撮影後の画像を後から加工するものであり、撮影機能自体の改善点はほとんどない。「iPhone 16」は、写真の色調を細かく調整できる「フォトグラフスタイル」が追加されるなど、撮影面でも多少の改善が見られたが、カメラのハードウェアはやはり前世代とほとんど変わっていない。筆者は以前、小米科技(シャオミ)が2024年に発売した「Xiaomi 14 Ultra」の充実したカメラ性能を絶賛する記事を書いたが、1インチの大型イメージセンサーがスマートフォンに搭載されたのはこれが初めてではない。2022年にシャオミが発売した「Xiaomi 12S Ultra」や、2015年発売のパナソニックの「LUMIX DMC-CM1」も1インチのイメージセンサーを搭載していた。

 ハードウェアに関する限り、2024年のスマホカメラに注目すべき点はほとんどない。話題になったのはAI周りの新機能だけだ。

 AIは以前からスマホカメラに活用されてきた。AIといっても、多くの人がイメージするような生成AIではない。例えばAppleの「Deep Fusion」技術による色の改善、Googleのズーム画質向上機能、HDR露出ブレンディングなどは、いずれもAIや機械学習を使って画像を処理している。スマホカメラ、あるいは一般的なミラーレスカメラでさえ、オート撮影では多少なりともAIを使う。目の前の場面を「最良の形」で切り取るための最良の設定を判断するのはアルゴリズムだからだ。

 基本的に、この種のAIはイメージセンサーが小さいというスマホカメラの欠点を補ってくれる便利な存在だ。例えば、露出の異なる画像を一瞬で合成してダイナミックレンジを拡張したり、高度なノイズ低減アルゴリズムを使って低照度環境で撮影した画像からノイズを除去し、明るくシャープな夜景画像を作ったりできる。

 しかし、この1年間に登場した写真関連のAIツールは、生成AIで画像を作成したり、加工したりするものが多かった。今や「Instagram」「Facebook」「Threads」にはフェイク画像があふれている。AIツールをスマートフォンの機能に加えることは、AI画像の生成を当たり前のものとし、写真を撮るプロセスの価値を損なうのではないかと危惧している。AIを使えば美しい夕焼けの画像を手軽に作れるなら、本物の夕焼けを撮影するために何度も同じ場所を訪れる人がいるだろうか。

 生成AI画像が問題だと言っているわけではない。筆者は生成AI画像に反対するつもりはないし、生成AIが「写真を殺す」という意見にも賛同しない。しかし、スマートフォンメーカーがカメラの改良をあきらめ、イノベーションの欠如を埋め合わせるために、AIツールを追加するようになったのではないかとは感じている。新しいハードウェアを開発するよりも、ソフトウェアの実験をする方がコストはかからないからだ。

 しかし、「本物」の写真を求める市場はまだ大きい。スマホカメラの登場によってコンパクトカメラ市場は崩壊したと言われるが、状況は変わりつつある。例えば富士フィルムの「X100VI」のような高級コンパクトカメラは高い人気を集め、2024年春の発売以来、米国では入荷待ちの状態が続いている。

 フィルムカメラの人気も急上昇している。その結果、フィルムロールの価格も、「Leica M6」や「CONTAX G2」といったカメラの価格も急騰中だ。スマートフォンのカメラ機能に対する関心は依然として非常に高い。最近の米CNETの調査では、回答者の38%が新しいスマートフォンを購入する主な動機としてカメラ性能の向上を挙げた。一方、AIの統合を挙げた人はわずか18%だった。今後のスマートフォンが、Pixel 9のようにAIへの傾倒を続けるなら、現実の一瞬を切り取るために高性能なカメラがほしいと考えている多くの潜在顧客を遠ざけることになりかねない。

 筆者はプロの写真家としても、1人の写真好きとしても、AIの必要性をほとんど感じない。欲しいのは見たままの世界を記録できるカメラ付きスマートフォンであって、生成モデルを使って、あとから写真を加工したいわけではない。2025年は「Xiaomi 15 Ultra」「iPhone 17 Pro」(仮称)が登場する。各社には今後も、イメージセンサーの大型化やレンズのワイド化など、ハードウェアレベルで画質を高める取り組みを追求してほしい。

 いずれにしても、AIは今後、スマートフォンにおいてますます中心的な役割を果たすことになるだろう。Appleの「Apple Intelligence」、Googleの「Gemini」、サムスンの「Galaxy AI」は、人々のモバイルライフのあらゆる面に深く入り込んでいくはずだ。しかし2025年には、AIの意義を認めつつも、AIは外の世界に飛び出し、自分が体験した瞬間を記録する喜びに取って代わることはできないことをメーカー各社には忘れずにいてほしい。

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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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