2024年12月19日に、食の新産業創出とフードテックの未来をテーマにしたイベント「Foodtech Venture Day Neo」(主催・UnlocX 、リバネス)が開催された。いくつかのセッションの中から、注目のフードテックスタートアップの取り組みについて紹介しよう。
Kinish創業者でCEOの橋詰寛也氏は、イネに動物たんぱく質を作らせる「植物分子農業」を用いて牛乳たんぱく質を生成する技術を紹介した。
「重要な技術が2つある。1つは米から牛乳たんぱくを作る技術だ。これを使って本物の牛乳を超えるミルクを作れる。もう1つがイネの植物工場だ。地球温暖化でイネの生育が難しくなっているが、植物工場の安定した環境ならどこでも生育できる。我々が使うのは20cmと非常に小さなイネで、年間6回大量栽培できる」(橋詰氏)
代替乳製品として、牛乳たんぱく質と米のでん粉から作られた甘味を組み合わせたアイスクリームを「ライスクリーム」というブランドとして展開していく狙いだ。
「2024年10月に米サンフランシスコで試食会を行ったところ、ものすごく評判が良かった。2025年早々には日本でも販売するが、2025年下期には米国に展開する予定だ」(橋詰氏)
植物分子農業とは植物のDNAに特定の微生物の遺伝情報を組み込むことで、たんぱく質などの有用な物質を精製させる技術のことだ。人々が食べる植物そのものの遺伝子を別の生物の遺伝子で組み換えるGMO(遺伝子組み換え作物)とは異なる。
「牛乳たんぱくとの違いがなければGMOのラベルを貼る必要はないが、日本の消費者の視点はかなり厳しく、受け入れられるまでに時間がかかると思っている。そのため市場は基本的に米国を狙っている。米国ではバイオテクノロジーを使っておいしく健康なものを作れるなら受け入れられやすい。日本はバイオテクノロジーを使っているとなると低評価になる人が結構いる。欧州は半々みたいな感じだ。日本の消費者の見解を聞くと、売った実績が大事になるため、米国から逆輸入する形がいいのではないかと思っている」(橋詰氏)
代替ミルクに対する優位性は「いろいろな乳製品を作れること」だと橋詰氏は語る。
「我々は(牛乳に含まれるたんぱく質の)カゼインを生み出しているため、植物性だけど本物の乳製品ならではのチーズやヨーグルトを作れる。牛乳のコクもカゼインから来ていると言われているので、コクも再現できる。現時点では牛乳より高くなってしまうため、植物工場でのオペレーションを最適化して手に取りやすい価格を実現していきたい」(橋詰氏)
ASTRA FOOD PLAN 代表取締役社長の加納千裕氏は、過熱水蒸気で食材を乾燥させる「過熱蒸煎(じょうせん)機」によって「“隠れフードロス”を削減する」とアピールした。
隠れフードロスとは、食品工場で野菜を下処理する際に出る端材や規格外農作物、ビールの絞りカスや麦茶の絞りカスなどの飲料残渣(ざんさ)のことを指すと加納氏は語る。
「これらは大量にCO2を出しながら燃やされて捨てられている。堆肥や肥料にする動きもあるが、堆肥だとキロ100円以下の売価にしかならないため、食品パウダーにアップサイクルすることでキロ数千円の価値が出てくる。経済性と環境性を両立する意味で過熱蒸煎(じょうせん)化していきたい」(加納氏)
食品を乾燥させる手段として用いられるフリーズドライ(凍結乾燥)やエアドライ(送風乾燥)は殺菌ができないが、過熱蒸煎機の場合は殺菌も同時に行える。それに加えて5〜10秒程度の短時間で乾燥できる速度の速さや、それによって栄養価や風味が残りやすいメリットがあるという。
「この粉は、循環型を作る粉という意味で『ぐるりこ』とネーミングした。牛丼チェーンの吉野家の工場内に当社の過熱蒸煎機が導入されており、年間約250トン、1日700キロもの端材を『タマネギぐるりこ』として当社が買い取り、別のメーカーに販売したりしている」(加納氏)
乾燥させた残渣をASTRA FOOD PLANが買い取るのではなく、食品工場など残渣が発生する場所に設置して乾燥し、自社でアップサイクルするというのが基本的なビジネスモデルだ。
「自社に置けば物流コストをかけずに全量をアップサイクルできる。こういう何十トンもの残渣を別の拠点に運ぶだけでコストがかかるため、その場で乾燥をして、みんなで使うというモデルを実現したい」(加納氏)
植物性代替肉や培養肉、昆虫食などは人口爆発に向けてたんぱく質が足りなくなる「たんぱく質クライシス」の解決に向けたさまざまなアプローチだが、それを「納豆菌」によって解決しようと取り組んでいるのがフェルメクテスだ。
蒸した大豆を納豆菌で発酵させた「納豆」ではなく、納豆菌そのものを食用にしてしまおうというアプローチがユニークに感じさせる。
フェルメクテスCBO(Chief Branding Officer)の長内あや愛氏はそのアプローチについて次のように説明した。
「我々は納豆菌の粉と書いて『kin-pun』と呼んでいる。納豆菌そのものを大量に培養することで、粉末化してパンに入れたり、麺に入れたりして、おいしく食べることができる。わずか15分で2倍になる納豆菌は環境低負荷のたんぱく質生産が可能だ。米ぬかや大豆カスなど、今まで未利用の食品副産物を使ってアップサイクルできる。我々の強みは納豆用途ではない食材用の納豆菌を作ることに成功した発想と技術にある。まずは食材用に穀物粉と同等の値段まで下げていき、動物飼料にも挑戦していきたい」(長内氏)
理論上は生産効率が非常に高いため、大規模化すればするほど価格が下がっていくと長内氏は説明する。
「ただし今まで納豆菌の粉末を大量に作って食べるための菌株を作ってきたことがないため、大量に作るとネバネバを作ってしまったり、匂いが出たりする場合がある。大量生産に耐える菌が必要なため、その育種開発をしているところだ」(長内氏)
FoodTech Venture Day Neoに起業準備中の個人として登壇した小林彰人氏は、味をデジタル化するパーソナル味覚センサー「DigiTaste」をアピールした。
DigiTasteはスプーンの先端に電極が付いており、パソコンやスマートフォンのイヤホンジャックに接続することで味を計測して数値化するという端末だ。
「体組成計と同じような原理で微弱な電気信号を流し、戻ってきた電圧や戻る速度を機械学習することで塩分濃度や酸味、塩味、苦味などの強さを測る仕組みだ」(小林氏)
味のデータに味わった人による感想を組み合わせることで、味の好みをデータ化して最適化できるという。
「レシピサイトの最適化や、塩分濃度や糖分を控えなければいけない人の最適化、3Dフードプリンターの原材料の調整などにも使えると思う」(小林氏)
研究機関などで使われている価格が1000万円以上する味覚センサーとは違い、段違いの低コストで生産できるのが強みだ。
「大手企業や研究所など一部の人たちだけが使っている味覚センサーを個人が持つことで、目の前の食べ物がどういう味で、それに対してどう感じているかという個々の感性の違いを可視化できる。均一化という意味では、同じ品質のものが提供できているかを確認したいという起業からの問い合わせや要望をいただいている。チェーン店だと安くたくさん置けるデバイスじゃなければならないため、これを使いたいという声をいただいている」(小林氏)
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