(本記事は株式会社Ginco 代表取締役 森川夢佑斗氏からの寄稿です)
2024年も残り僅かですが、ビットコインが史上最高値を連日更新しています。
11月には時価総額で銀を超え、金融資産として世界第8位に浮上。さらに同月19日には石油最大手サウジアラムコをも追い抜いて第7位となりました。本記事の執筆時点では一時10万ドルの大台に到達しています。
にもかかわらず、日本ではビットコイン市場を冷ややかに見つめる声が根強く残っています。未だに「チューリップバブルと同じ」といった揶揄を見聞きすることさえありますし、過去の様々な事件やNFT・Web3の一時的な流行に対する反省や嫌悪感がそこにあるのかもしれません。
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このように、ビットコインやその他の暗号資産、ひいてはブロックチェーン技術までを懐疑的に見てしまう方の心情は十分に理解できますし、業界として反省すべき点も大いにあると感じます。
ただ、今この瞬間、世界中が注視するビットコインの現状を、座して見守るだけではあまりに勿体ないとも感じています。
そこでこの記事では、あらためてビットコインの盛り上がりの背景と、今日の世界における存在意義について少しでも多くの方にご理解いただけるよう、解説していきます。
ビットコインの価格が直近1年間でほぼ2倍に上昇した背景には、2024年初頭に始まったビットコイン現物ETFの存在があります。
先物ETFと比べ、投資がよりシンプルになった現物ETFは、機関投資家がビットコイン市場へアクセスする新たなゲートウェイとなりました。その結果、現在では1,000以上の機関投資家がビットコインETFを保有していると報じられています。
同時に、FTX事件で倒産隔離・分別管理の重要性を痛感した個人投資家が市場に回帰するきっかけにもなりました。実際に、2024年上半期における個人投資家の購入がビットコインETF全体の78%を占めるというデータもあります。
ETFが市場拡大の起爆剤となった一連の現象は過去の金ETFの歴史を想起させます。
20年前に米国で金ETFが導入されて以降、7年間で金価格は4倍以上に拡大し、1,000億ドル以上の資金が流れ込みました。
同様に、ビットコイン現物ETFは始まったばかりであり、その成長余地はまだ大きいと言えるでしょう。さらに今月には、ビットコインETFにオプション取引も追加され、投資商品の多様性が一段と広がりました。
「デジタルゴールド」という異名が示すように、今後も市場での存在感を増していくと予想されています。
また、直近のビットコインの値動きに最も影響を与えているのは、米国大統領選挙におけるトランプ氏の勝利とされています。
トランプ氏は自身の息子たちとともに、ワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLF)という新しい暗号資産ベンチャーを支援してきました。また、暗号資産の強力な擁護者である米実業家のイーロン・マスク氏は、トランプ氏の最大の支持者の一人です。
トランプ政権で厚生長官に起用されるロバート・ケネディ・ジュニア氏も、選挙期間中のイベントで「国家のビットコイン準備金を金準備に匹敵する規模まで積み上げる必要性」について語っており、選挙後もビットコインの重要性を再強調しました。
しかし、こうしたトランプ政権とビットコイン・暗号資産との蜜月は、彼らの個人的な選好によるものではなく、あくまで米国の民意に寄り添ったものだと認識しておく必要があります。
例えば、米FINRAが2023年に実施した調査において、米国、カナダ、英国、中国などにおける若年層の投資対象として暗号資産は筆頭候補に位置づけられており、Z世代の55%、ミレニアル世代の57%、X世代の39%が暗号資産に投資しています。
また、今年の米国大統領選挙に参加する有権者の46%がWeb3関連政策のアップデートと規制の明確化を望んでいるとの調査もありました。
非中央集権・管理者不在というビットコインのナラティブは、第2期トランプ政権を生み出す原動力となった「IT&金融エリートたちへの反発」という感情と通底するものであり、実際に貧困層の人々に貯蓄と財産形成の機会を提供してきました。
トランプ氏の当選がビットコイン高騰の一元的な原因なのではありません。米国における政治・経済情勢と人々の不満・苦悩の結果がトランプ旋風であり、同時にビットコイン高騰であると言えるのでしょう。
さらに、こうした米国の動向を踏まえ、ポーランドの大統領候補が「戦略的ビットコイン準備」を公約するなど、各国がビットコインの重要性を再確認している状況が続いています。
このようなビットコインを取り巻く近年の情勢を語るたび、「でも結局、ビットコイン自体は世の中の役に立ってないんじゃないか?」という反論を聞くことがあります。
確かに、ビットコイン自体が私たちが日常的に利用するPayアプリやクレジットカードと比較して、極めて少ないトランザクションしか処理できない、重くて使い勝手の悪いシステムであることは否定できません(厳密にはL2技術などの発展により少額決済の利便性も向上しているものの、まだまだ主流に採用されているとは言い難いでしょう)。
しかし、それでも尚、ビットコインは今日の世界において多くの重大な役割を担っていることは強調しておこうと思います。
例えば、ウクライナ政府はビットコインをはじめとする暗号資産での寄付を国際的に受け付けており、ビットコインだけでこれまでに累計100億円近い寄付金が集まりました(参照)。国連の難民支援機関もウクライナ戦争によって避難を余儀なくされている人々に重要な援助を届けるためにビットコインやステーブルコインを利用している状況です。
また、金融機関の口座開設ができないアフリカの貧困層やイスラム圏の女性に貯金や投資のための手段と機会を提供し、ハイパーインフレーションに苦しむアルゼンチンの人々の資産を守ることにも貢献していきました。
長らく批判されてきたエネルギーの問題においても、再生可能エネルギーの収益性を改善する手段として評価が高まっています。例えば、マイニング事業によって2019年からビットコインの準備資産保有を開始し今や世界第5位のビットコイン保有量を誇るブータンでは、採掘に用いる電力のほぼ全てを自国での水力発電で賄うようになりました。これは同国のエネルギー主権に大きく貢献しているとされています。
本稿の主張を「暗号資産関係者のポジショントーク」と切って捨てることは可能です。またビットコインの価格が今後も右肩上がりであることを保証するものでもありません。
しかし、世界規模で混乱と不確実性が高まり続ける今日、全人類がアクセス可能な金融基盤でありデジタルアセットであるビットコインの存在感は、数年前とは比較にならないほど向上していることも事実なのです。
ビットコインは変わっていません。変化したのは世界の方です。
その事実を見逃さず、正面から受け止め、次の時代に向けた一手を打ち続けることが、今を生きる私たちに必要なアクションなのでしょう。
森川 夢佑斗
株式会社Ginco 代表取締役:京都大学在学中にブロックチェーン事業に着手し、2017年12月に株式会社Gincoを創業。暗号資産やNFTをはじめとするデジタルアセットを活用したWeb3事業創出を支援するクラウドプラットフォームづくりに取り組む。『超入門ブロックチェーン』『未来ビジネス図解 これからのNFT』など著書多数。
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